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衆議院選挙参議院選挙の補選に見る野党の構造変化

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参議院の大分選挙区・衆院山口の2選挙区・和歌山・千葉で補選が行われる。マスコミでは岸田総理の信任投票と言われているのだが北海道知事選挙などと併せて考えると野党の構造に大きな変化が生まれていることがわかる選挙と言えそうだ。

社会党から民主党の流れを汲むいわゆるリベラルが凋落しているのだが、全国的にこれを代替できる政党が育っていない。立憲民主党に代表されるリベラルは後継者を育てることに失敗してしまったようだ。つまり言論の育成空間として機能できなかったのである。これは日本の民主主義にとってはかなり危機的な兆候だろう。

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北海道知事選挙は全国で唯一「保守・リベラルの対立」選挙と言われたが立憲民主党は存在感を示すことができなかった。原因を問われた大串博志選挙対策委員長は「公募をしてもなかなか良い人材が出てこない」と敗戦を総括している。立憲民主党が内部で人材育成ができておらず公募に頼っていることがわかる。

人材発掘をキーワードに立憲民主党を軸に分析すると、今回の補選からは色々なことが見えてくる。

メジャーな産業がなく公務員が唯一の組織になっている大分は自治労系の候補者が立っている。一応立憲民主党系の候補者ということになっているのだが、実は社民党の元党首と言ったほうが通りが良い。立憲民主党との合流を模索したが福島瑞穂氏に離反され部分合流に終わった。自治労は吉田氏の出馬には難色を示したとされている。仮に負けてると「社民党王国の陥落」を印象付けてしまうからである。組織が先細り無党派層が取り込めていないことがわかる。

山口2区は自民党新人と無所属の戦いと表現される。自民党の側は「家」の選挙であり新人と言っても「日本屈指の名家」の名前で戦う。一方で挑戦する側の元職は実は民主党政権で法務大臣を務めたことがあるというエリートだ。東大在学中に司法試験に合格し大蔵省に入省したという経歴である。にもかかわらず「なかなか家柄に勝てない」ところに日本の選挙の難しさがある。

この人は現在でも立憲民主党の党籍があるようだ。にもかかわらず立憲民主党は野党統一候補を立てることに失敗した。このため党籍がありながらも「無所属で」ということになったようだ。結果的に共産党が対立候補を立てることを諦めたために形式的には保守・リベラル対立ということになった。地域に岩国基地を抱えており機能強化に反対するというポジションだそうだが、このメッセージがどの程度地元に浸透するかは一つの注目ポイントだろう。

山口4区は総理大臣経験者が亡くなったことによる「弔い選挙」である。総理大臣経験者に子供がいないために新人を派閥が応援するという体制になっている。対立点を見つけられない立憲民主党は参議院選挙に落選した候補者を押し入れから引っ張り出してきて「アベノミクスの否定」などを争点にするものと見られている。立憲民主党は「アベ政治にNO」の次の争点を見つけることができていない。ある意味で危機的な状況だ。

さらに和歌山では候補者さえ立てることができなかった。

総じて言えるのは立憲民主党に代表されるリベラルが後継者を育成できず現在の政治に対する対立点を作り出せていないという現状である。つまりこの国からは護憲・リベラルという運動体が消えつつある。

そもそも2009年の「変革の風」も輸入品だった。オバマ大統領の「Yes We Can」に触発されて盛り上がった運動だが定着しなかった。海外のムーブメントに乗りたいという人は多かったが継続して支えたいという人は現れなかった。また当時の民主党も「今後の日本には是非必要だから」と有権者に働きかけることもしなかった。結局10年ちょっとで運動体としては消滅しつつある。

では、どのような動きであれば政府の今の動きに対するカウンターになるのだろうか。2つある。大阪は次世代型の産業を育成することに失敗した。これが「東京」に対するルサンチマンとなり維新運動が生まれた。もともと地方政治が停滞していたという事情があり、次々と成果を上げってゆく。その意味では両岸の繁栄に嫉妬するラストベルトの鬱屈に活路を見出した共和党に似ている。

もう一つはわかりやすいスキャンダルである。実は今回の選挙ではスキャンダル辞職が1件しかない。

  • 大分:大分県知事選挙に立候補するために前職が辞職。前職は大分県知事選挙で落選
  • 山口2:体調不良による辞職
  • 山口4:殺害されて議席が空白に
  • 和歌山:前職が県知事選挙に出馬し辞職。現職は県知事に当選

唯一の例外が千葉5区である。「政治とカネ」というわかりやすい問題で前職が辞職している。こうなると前職を批判するだけである程度票が稼げるのでは?と考える人たちが出てくる。多くの政党が「自分達にもチャンスがあるかもしれない」といろめきたち、7名が競合する混戦模様となっている。

争点が作れず敵の失敗を待つしかないというのは戦前の政党政治でもよく見られた構図だ。基本的に個人の生き方やイデオロギーが重要視されない日本では敵の失敗だけが唯一政権交代のチャンスと見做される。「高市文書問題」でみても明らかなように政治は足の引っ張り合いに終始し不毛な論戦が続くことが多い。

岸田総理の「何もしないから失敗もしない」という戦略は野党潰しには非常に効果的である。安倍政権は強力な支持者と強力なアンチを作った。自民党の中にもこれに依存していた人たちがいるのだが依存度という意味では野党の方が深刻だったのかもしれない。安倍氏がいなくなったことで反アベ運動も消滅してしまった。高市文書問題や山口4区の選挙戦はその残り香といえる。

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