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ゲームチャットの「軍事機密」は実は本物だった 機密漏洩の影響はウクライナ、イスラエル、韓国などに及ぶ

戦争ゲームの楽しみの一つは「連隊」の仲間との秘密通信だ。ゲーム内にチャット機能が備わっている場合もあれば通信アプリを使ってやり取りをする人もいる。もしこのときに出てきた情報が「ごっこ」ではなく本物だったと考えてみよう。おそらく誰もそれが本物とは気がつかないのではないか。

実はアメリカで実際にそんなことが起きた。当初はフェイクだと思われていたが実は本物であったことがわかり同盟国の間に衝撃が広がっている。最初の情報源はわかっていないのだがマインクラフトというゲームユーザーの間で情報がやりとりされていたそうだ。サバイバルモードをはじめとする複数の遊び方ができるゲームである。

影響はウクライナ、ファイブアイズ諸国、イスラエル、韓国など広範に及ぶ。まず情報がどう拡散したのかを調べ、各国に対する影響についても補足する。

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事件のあらまし

この件に関して最初に見た記事はCNNだった。ロシアに都合の良い内容なのでフェイクなのだろうという論調だった。「戦争なのだし情報戦もあるだろう」などと思っていた。ところがのちにQuoraの政治スペースへの投稿で「どうやらあれは本物だったようだ」と指摘する投稿を見つけた。投稿者はアメリカ在住である。どうやらアメリカでニュースが出回り始めたのだろう。

ウクライナ問題に関する情報が流出したと報じたのはニューヨーク・タイムズである。これを受けて「ロシア初のフェイクだろう」とCNNが報じた。ところがのちにNew Batch of Classified Documents Appears on Social Media Sitesと言う別の記事が掲載されている。日本語に訳すと「新しい一塊の機密情報がSNSに出現」ということになる。

現在は流出した情報には本物の機密情報が入っていたと国防総省が認めており、影響評価が始まっている。

BBCが背景を書いている。

3月4日にコンピューターゲーム「マインクラフト」のプレイヤーがよく利用する「Discord」サーバーで、ウクライナでの戦争について議論がなされた後、あるユーザーが「ほら、リーク文書があるよ」と書き込み、10点の文書を投稿したという。

ゲームプレイヤーたちが交流する中で本当の戦争についての議論が始まったのだろう。そこに「ネタ」が投稿された。日付が3月初旬になっている。つまり、この間「実はこれが本当だった」と言うことはよくわかっていなかったようだ。マインクラフトは厳密には戦争ゲームではない。サバイバルモードがあり敵対的なモブたちと対処するというモードがついている。逆に単に世界を作るだけと言う遊び方もできるそうだ。ただ、ゲームのチャットに軍事機密が流れてくるというような事件は過去にも複数報告されているのだと言う。BBCはオンラインゲーム「War Thunder」の事例を挙げている。

Quoraの投稿は経緯については次のようにまとめている。

  1. もともとメッセージアプリのDiscordに情報が上がっていた。当初はこれがわかっていなかった。
  2. これが4chanに流出した。この時点で騒ぎになり始めた。
  3. さらに4chanの情報を元にしたと思われる情報がテレグラムに出た。オリジナルとの間に相違点があり「ロシア側に都合のよい改変」があったものと考えられる。

ファイブアイズへの影響

アメリカは最も近しい同盟国との間にファイブアイズという諜報網を持っている。CNNなどを聴いていると「アメリカが占有していた情報」やファイブアイズ経由の情報が漏れているそうだ。つまりアメリカはファイブアイズに全ての情報を渡しておらず、なおかつファイブアイズが苦労して集めてきた情報も漏洩させてしまったことになる。

読売新聞は「アメリカ機密文書のSNS流出、100件超か…「ファイブ・アイズにとって悪夢だ」」と言う記事を出している。米情報当局高官を引き合いに出したものである。今後アメリカの情報当局は同盟国からの情報提供を受けにくくなるだろう。

NHKも手堅く2段階の漏洩についてまとめているが「同盟国に対する影響」についてはアメリカ高官の発言を紹介するにとどまっている。

アメリカの影響力低下についてはあまり触れたくない。日米政府から抑制を求められているわけではないと思うのだが日本のメディアによくあるアメリカへの配慮が滲む。

ウクライナに対する影響

同盟国に対する影響には他にどんなものがあるのだろうか。

当然ウクライナへの影響は大きい。ウクライナとロシアについてアメリカが何をどの程度知っているのかと言うことが漏れてしまった。ウクライナは当初「アメリカ経由で戦況が外に漏れる可能性がある」と恐れていたようだ。だが、武器を提供し訓練を受けるためにも情報を渡す必要があった。ウクライナの情報提供は今後抑制的になる可能性がある。

共同通信は「激戦地バフムト2~3月は壊滅的 流出の米機密文書が分析」と言う記事を書いている。この記事を単体で読むと「ウクライナの戦況はあまり良くないのだな」と判断する人が出てくるだろう。支援継続を望まない人がこうしたネガティブな箇所を取り上げて嘘の情報を混ぜて拡散することも考えられる。

おそらくウクライナ支援をめぐる世論に影響を与えるはずだ。

ウクライナの状況は西側先進国の世論に大きな影響を受けている。世論が支援に対して抑制的になればかろうじて持ち堪えている状況が悪化する可能性がある。これが今回の機密情報漏洩で最も懸念されている点である。

イスラエルへの影響

ワシントンポストにモサドとイスラエル司法改革に関する記事が出ている。イスラエルは現在「極右」の連立パートナーがネタニヤフ首相に対して治安や軍事に関する権限を要求している。ギャラント国防大臣が解任されかけたがアメリカが懸念を表明し現在はペンディング状態になっている。軍や治安部隊と極右の間にはかなりの緊張関係が生まれているはずだ。

「極右」から見ればアメリカ合衆国のバイデン政権は理想の国づくりの障害物である。一方でモサドは対外工作専門の部隊であるべきなのだから国内問題に関して自国民に対して工作を行うなどあってはならないことだ。

これを組み合わせると、極右側が「アメリカは情報機関を使ってイスラエルの内政に関与している」と宣伝することが可能になる。極右側が更なる権限を得る上で良い宣伝材料になる体。

さらに、イスラエルの司法改革に反対しているイスラエル人は多いのだが彼らが外国に先導されていることにされかねない。つまり、憲法を持たないイスラエルの民主主義にとっての悪影響が非常に大きい。

韓国に対する影響

TBSが興味深い視点で報道している。韓国で動揺が広がっているというのである。

実際に東亜日報とハンギョレが伝えていた。東亜日報は事実関係を伝えた上で「アメリカの事実確認と再発防止を求める」と言うトーンになっている。やや抑制的なトーンながら不快感を滲ませる内容である。ハンギョレはもともと米中バランス派である。アメリカの主権侵害を批判した上で尹錫悦政権の対米協力姿勢にも疑問を投げかけている。

尹錫悦大統領は今月末に国賓としてアメリカを訪問する。米韓両国にとっては外交成果をアピールする絶好の機会だ。だが今回主権侵害事件が露見したことで「尹錫悦大統領の弱腰」が批判される可能性がある。

おそらくアメリカが外国の情報を傍受しているだろうというのは周知の事実なのだろうが、やはり「公式にそれを認めた」影響は大きいようだ。与野党対立が激しい韓国では内政の対立を刺激する可能性がある。

ロイターは「ロシアの情報リークであろう」とするアメリカ高官の発言を伝えていたが、その後で情報リークにはアメリカ人が関わっている可能性があると言う記事を書いている。だがハンギョレは「ロシアの仕業と見ている」と結んでいる。

今後の影響

Yahoo!ニュースの個人のセクションには飯塚真紀子さんの二つの投稿が載っている。情報の拡散が二段階であると理解して読むと最初の文章と次の文章の関係がわかりやすい。

飯塚さんは拡散した情報のうちニューヨークタイムズによって解析されているのは半分程度だと書いている。情報は100件程度あるようだが解析が進んでいるのはまだ半分程度の50に過ぎないというのだ。

つまり今後さらに追加情報が出てくるものと思われる。

大統領選挙への出馬を決めているものの公式発表の機会を窺っているバイデン大統領は、アイルランド・北アイルランド歴訪、韓国大統領の国賓での訪米、G7サミットを通じて「外交に強いバイデン」と言うイメージを盛り上げつつ出馬表明をするチャンスを窺っているはずである。

おそらくバイデン政権の外交はさまざまな障害に直面するだろう。つまりバイデン大統領の大統領選挙戦略にも影響を与えかねない。

マクロン大統領は「欧州は台湾を巡る危機を加速させることに関心はなく、米中の双方から独立した戦略を追求すべき」と表明しており、もはや西側が一枚岩でないことは明らかだ。情報漏洩とは関係なく「このままアメリカのペースで動いてもいいのだろうか」と思い始めている国は多い。ブラジルもクリミア分割を含む和平案を提案しておりウクライナから反発されている。

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