当選したはずなのだが当選会見はまるでお通夜のようだったようだ。
ともかく無事に黒岩知事が再選された。仮に黒岩さんが撤退していれば泡沫候補とされる人の誰かが当選してしまうという大惨事になりかねなかった。背景には立憲民主党が独自候補を立てられなかったと言う事情がある。選択肢を与えられなかった神奈川県民の心境はかなり複雑だったようだ。
共産党はどんな選挙でもとりあえず候補者を出す。加藤健一郎氏は千葉県知事選挙にも出馬していたがほとんど注目を集めることのなかった泡沫候補だ。さらに大津綾香氏はいわゆる「旧NHK党党首・代表問題」を抱えているうえ、そもそも親から反対されて選挙に出るのをやめた候補者の代わりに過ぎなかった。おそらく選挙戦らしい選挙戦はやっていなかったはずである。
黒岩さんが選挙戦を撤退していれば、この3人の誰かが新しい神奈川県知事になっていた可能性がある。大惨事と言って良いだろう。
盤石と思われていた黒岩知事に衝撃が走ったのは投開票日直前の4月5日だった。突然の文春砲に見舞われたのだ。清廉なイメージをぶち壊す不倫騒動だった。文春にはガラケーでのメールが晒されており「おじさん構文」の赤裸々な内容には目を背けたくなるものがある。二人の関係は11年にも及んだが、氏が神奈川県知事選挙に立候補することになり身辺整理の一環として関係を精算したようだ。
黒岩氏は文春砲について大筋を認めた上で選挙戦は撤退しないという方針を明らかにした。これは神奈川県民にとっては不幸中の幸いだった。泡沫候補の中から誰かを選べと言われてもそれは難しい。おそらく県政は大混乱に見舞われることになったはずだ。
このことから二元代表制において二つ以上の「まともな」政党があることは極めて重要であると言うことがわかる。
国政レベルでは自民党の対立政党は立憲民主党ということになっている。
だが立憲民主党は今回の選挙では対立候補が出せなかった。オール与党体制で与党側に乗ってしまうことも多いのだが、神奈川県は少し事情が違う。黒岩さんが立憲民主党の推薦を断っていたようだ。黒岩氏は横浜のIR騒動には巻き込まれたくかったのだろう。県として反対の姿勢を明確にしてほしかった立憲民主党と意見が合わなかったようだ。このため黒岩氏の方から「推薦状は要りません」ということになったようである。前回断っているため今回も協力関係が再構築できなかった。
とはいえ立憲民主党は独自候補も見つけられなかった。北海道知事選挙でも対立候補選びに苦労しているのだが、北海道知事選挙では「これといった候補者が見つけられなかった」と敗因を分析している。立憲味種痘は党としての人材育成機能がなく公募者に頼る傾向がある。これでは先細る一方だろう。
横浜市長選挙の時には「これ」と言う候補者を見つけている。江田憲司氏は「コロナ対策でいける」と考えたのだろう。データサイエンティストとして説得力のあるコロナ対応を提案していた山中氏を説得した。
IRも追い風になった。2021年の横浜市長選挙はIRを推進する林文子市長(当時)と菅義偉首相(当時)の支援する小此木八郎氏の陣営が分裂する「保守分裂選挙」だった。争点はIRだったのだが林氏がIR推進派を代表し小此木氏が中止を提案していた。
ところが、地元の実力者である「ハマのドン」こと藤木幸夫氏は山中さんの支援に回った。藤木氏はIR推進派だった菅義偉首相への敵意をあらわにしており「菅首相はやめちゃうんじゃないのか?」などと言い放ち当時話題になっていた。
つまり前回の成功は
- IRを巡る自民党・保守系の内紛
- コロナのような災害級の争点
によるものだった。
自民党は今回も各地で「保守分裂」の構図を作っていることから、おそらく2番目の「争点のなさ」が響いたものと思われる。逆に言えば「新型コロナのような災害級の出来事」でもない限り立憲民主党は躍進できないことになる。これが地道に地方政治で実績を作ってきた維新との違いである。
IRのように住民を二分する問題があったり、コロナのような喫緊の課題があれば、立憲民主党は「政権交代」を訴えやすい。しかしながら現在の神奈川県にはそのような問題はない。このため立憲民主党は争点を見つけられずそのまま自主投票という判断になったようだ。このタイミングで不倫騒動が起こり、あわや泡沫候補の誰かがうっかりと県知事になってしまうかもしれないという状態になったものと思われる。
日本の政治において代替政党がないのがいかに危険なことかがわかる。黒岩知事は当選はしたものの、しばらく「不倫の知事さん」とみなされることになるだろう。このため当選の会見では万歳三唱はしなかったそうだ。
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