フィンランドがNATOに加盟することが正式決定した。ニーニスト大統領が式典に出席し対ロシアの最前線となる。一方でNATO入りを推進してきたマリン首相の社会民主党は政権を維持することができなかった。代わりに台頭したのがフィンランドの現状に不満を持つ「フィン人党」である。日本のリベラルが憧れてきた北欧で今何が起きているのか。
ロシアとの間に1300キロメートルの国境を持つフィンランドは長年ロシアとヨーロッパの間で中立政策を維持してきた。ウクライナ情勢が緊迫化するとロシアから離反しNATO入りを志向するようになる。当初はスウェーデンとの共同加盟にこだわったがトルコが自分達の存在感を見せつけるためにフィンランドのNATO単独加盟を強く主張した。このため今回フィンランドだけがNATOへの加盟を許されたのである。ニーニスト大統領が出席し加盟式典がおこなわれる予定になっている。
安全保障政策の大転換を主導したのがマリン首相と社会民主党だった。BBCによるとマリン首相は「ロックスター」とも言われる魅力的なキャラクターで社会民主党の躍進に成功した。
しかし、マリン首相は政権を維持することができなかった。比較的地味な政党である中道右派の国民連合が第一党となりオルポ党首の元で政権を組織することになる。第二党として躍進したのがフィン人党である。ヨーロッパで「極右」と表現される右派政党だ。
議会定数は200だ。オルポ党首にとって最も簡単なのはフィン人党と社会民主党の両方と協力することである。だが社会民主党はフィン人党とは組まないと言っている。BBCによると「経験不足で、あらゆることに不満を持つ議員が多い」そうだ。フィンランドでも爆然とした不満を背景にした「苦情政治」が浸透しているようだ。
ではこのフィン人党とはどんな政党なのか。Yahoo!ニュースの個人セクションに記事を見つけた。2019年の記事である。党首のユッシ・ハッラ=アホ氏について取材している。福祉の手厚いフィンランドでも福祉システムを支える側と支えられる側の分断が起きている。フィンランドのトランプと例えられるハッラ=アホ氏の過激な言動が支持を集めているようだ。急速な変化に対応できなくなった人たちが極端な言動に惹きつけられてゆくことがわかる。日本ではごく一部でしか見られない現象だがフィンランドでは国政を変化させるほどに成長したということになるだろう。
フィンランドの極右支持者たちは移民・難民をほとんど受け入れない日本を羨ましいと感じている。記事の中にYouTubeが出てくるのだが、有色系の移民が台頭し白人である「真のフィランド人」が凋落してゆく様が映画のようなタッチで描かれている。アメリカ合衆国でも同じような懸念を持つ人は大勢いる。単に格差が問題になっているわけではなく、見た目による差別意識がよくわかる。また極右と呼ばれる彼らが本能に訴えかけるイメージ戦略を多く用いる傾向があるということがよくわかる。
自分達と外見が異なる人たちの脅威を煽り票を集めるというやり方は人々の生存本能に直接働きかける。ただ結局生まれるのは「何にでも不満を持つ」人たちである。日米の苦情政治から想像するならば、おそらく問題解決や倫理観などはあまり優先されなくなっているのではないかと思う。
なぜ先進的な民主主義国で不満を背景にした苦情政治が台頭するのかについての分析はまだ多くない。BBCによると現在の党首は女性のリイッカ・プッラという人物だが日本語では情報がなかった。日経新聞はEUの掲げる気候変動対策にも懐疑的な政党だと説明している。
実は気候変動対策を求める左派の人たちもかなり過激化している。最近では観光名所や美術品を汚して「これが未来の地球の姿である」などと訴えるニュースが度々メディアで取り上げられるようになってきている。不満を背景にした苦情政治が左派・右派共に蔓延しており過激化していることがわかる。
さまざまな変化が加速し情報も飛び交っている。旧来のメディアはこうしたさまざまな主張を穏健化(モデレーション)していたのだが、現在のSNSは過激化・分極化を促進する傾向にある。総じて言えば人々が変化についてゆけなくなってきているということなのだろう。情報が氾濫すると人々は情報が処理できなくなり単純な解決策を求めるようになる。
既存メディアに代わる新しいモデレーションの場を想像できない限り、おそらく多くの民主主義国が同じような状態に陥るのではないかと思う。落ち着いた環境の中で話し合えば合理性が勝つ見込みはある。だが、そうでない場合、どうしても「生存本能」の方が勝ってしまうのである。
フィランドでは「穏健な右派政党」がバラバラになりかけたフィンランド議会をかろうじてまとめようとしている。