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国土交通省OBの「働きかけ」問題は任侠映画風に解説するとわかりやすい

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朝日新聞の一面に「国道交通省OB」の問題が出ていた。朝日は随分とこの問題を推しているんだなと感じたのだが、Yahoo!ニュースではあまり盛り上がっていないようだ。調べてみるとOBたちのプレッシャーを背景に元次官らが「バックには国がいるんだぞ」と働きかけて社長の椅子を要求しているという話だった。許認可権限を握られている会社はずいぶん当惑したようだが、働きかけた側は「そう感じたなら申し訳なかった」と涼しい顔だ。

この話を「国土交通省OBの恫喝」というと名誉毀損になりそうだ。だがやはり任侠映画風に解説すると非常にわかりやすい。少し脚色を交えつつ事件の詳細を見てみたい。

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任侠映画風に解説するとわかりやすい国土交通省OBの問題

空港施設施設を独占的に取り扱っている会社がある。企業名も「空港施設」というそうだ。

もともと国土交通省の天下り先になっていたが、最近ではJALとANAの出身者が揃って経営権を握っていた。1995年に二部上場し1997年に一部上場している。

既存メディアはこの問題について「官僚OBの恫喝だ」などとは書けない。企業としても許認可権限を握られているため「恫喝されました」とは言いにくいだろう。

だが、やはり任侠映画風に例えると非常にわかりやすい。

まず、本田勝元事務次官が唐突に「オラオラ」と空港施設社を訪れて国土交通省幹部だった副社長を次の役員人事で社長にするように求めた。この際に「JALとANAには仁義を切っている」というような意味合いのことを説明したのだという。のちにANAの側はそんな事実はないと当惑しているそうだ。

この際に「自分はOBのご名代」と説明し「副社長が就任すれば国土交通省として悪いようにはしない」と述べたとされている。会社側はこれを「国土交通省の権威や権限をかさにきている」と受け止めたが元事務次官の側は「誤解を招いたとすればそれはすまんのう」という態度だった。

本田勝氏は東京メトロの会長である。東京メトロも東京都心から私鉄を排除して国策的に作られた帝都高速度交通営団の後進企業だ。1941年に作られた営団は国家総動員体制の戦後の生き残り企業だった。

副社長の山口勝弘氏は「私自身の考えではなく、バックのいる人たちのいうことを聞かなければならない」と言っている。だが、なぜ「バックにいる人たちの言うことを聞かないといけない」のかはよくわからない。空港施設社側も口を閉ざしているからだ。

拡張の高い朝日新聞はもちろん抑制した書き方をしている。このために実際に何が起きているのかがなかなか感覚的に理解できない。「昔のシマ」を取り返すために実力者が会社を訪れて「話をつけようとした」という話なのだが、昔の権益を取り返すために違法な暴力を使うわけではない。彼らは代わりに許認可権限をちらつかせているだけである。法律で決められた権限なので一応は合法だ。だから「恫喝」とは書けないわけだ。

政府は知らぬ存ぜぬだが

斎藤国土交通大臣は「国土交通省は一切関与していないが、誤解を招きかねないので調査する」と言っている。

NHKの報道によると、元職員の斡旋には法的な規制はないそうだ。つまりOBたちが勝手にやったことであって政府は説明する立場にないということになる。

政府としてはOBが何をやろうが自分達の問題ではないというラインで押し切ろうとしているようだ。放送法の問題でもお馴染みの「私たちは当事者ではありません」という逃げ切り方だ。岸田総理の性格がよく表れている。面倒なことには関わりたくない人なのだろう。

では問題点はどこにあるのか。日本の政治や経済が効率的に運営されるためには実力ベースで政府や企業が運営されなければならない。だが、既得権の馴れ合いで人事と業者が決まるならばこの効率性は失われてゆくことになるだろう。交通行政上は極めて重要なテーマだ。

国の許認可行政のあり方の問題

朝日新聞が問題視しているのは政府の許認可権限である。国土交通省はこの企業を審査する立場にある。空港施設は国有地を借りて営業を行なっている。これを「自分達が土地を提供してやっているのだ」と言わんばかりに「協力の証である」などと言っている。その協力には見返りが必要だというだ。それが天下り先の提供である。

つまり、OBが国有地を自分達の利益のために利用しようとしているのである。

乗田社長によると国土交通省は空港施設社とは資本関係がないそうだ。いきなり乗り込んできて「昔は国交省OBが社長だったんだ」とポジションを要求したと受け取られている。

本当に今の空港行政は民間活力を十分に生かしきれているのか。国土交通省は交通行政に責任があるのだから、この問題に関係がないとは言えないのではないかと思う。

上場企業としての株主への責任

TBSは「誤解した」側を取材している。空港施設は羽田空港のビルの運営を行う民間会社である。空港施設の乗田俊明社長は「どうしても社長を国交省から出したいのかなと感じた」とした上で「きちんとプロセスを踏まない限りお答えできない」と対応したと言っている。上場企業なので勝手に取引すれば背任に問われかねないので当然の対応だ。

さらに共同通信は「空港施設」は上場企業であり高度なガバナンスが求められると書いている。確かに仮に「裏取引」で官僚出身者に社長というポジションを提供してしまうと背任に問われる可能性もあるだろう。

OBが省庁の許認可権限を理由に「企業のガバナンス」に関与しようとしたという問題である。OBが大臣の頭越しに現役官僚に指図しかねないと言う問題がある。大臣が知らないところで行政文書を隠して持っているような人たちだ。大臣の頭越しに重要な決定を行うことなど容易いだろう。

それでも国土交通大臣が「私には関係ない」と言い張るのであれば、それは斎藤さんがどうかしているとしか言いようがない。

そもそも1つの会社が独占的に事業をすることの是非

それではどうしてこの問題はさほど盛り上がらないのか。

実は放送法と同じ構図がある。総務官僚は放送行政を通じて地上波放送に影響を行使する。ところが放送局側も「既得権として守ってもらえている」といえる。つまり競争相手を国によって排除してもらっているのである。つまり行政と企業は一種の「共犯関係」にある。

今回の話を聞いていると、JALとANAの側にもポジションを守りたいという気持ちがあるのだろうなと思えてくる。鉄道に例えると駅前の一等地を許認可権限を理由に一つの企業が独占しているという状態だ。結局、国が土地を持っていて、その土地をどこに貸すのかを決められるというのが問題の本質だ。

放送法の問題は次第に高市早苗氏がやめるかやめないかという吊上げ問題に発展していったのだが今回の事例にはそのような派手な登場人物がいない。朝日新聞の積極的なキャンペーンにもかかわらずこの問題があまり盛り上がらないのはおそらく「結局は既得権益者の問題であり自分達には関係がない」と感じる人が多い上に劇場型の派手さがないからだろう。

NHKの日曜討論では若者の代表たちが口々に「今の状態では希望が持てない」などと言っていた。コロナ禍をきっかけに仕事を失った女性や教育費が捻出できないから子供は作れないと諦めている人たちも大勢いるそうだ。

その一方で国土交通省の官僚たちは税金のおかげでそれなりの暮らしを維持している。しかしそれだけでは満足ができず「もっと利権が欲しい」と蠢(うごめ)いている。今回は任侠映画で例えたのだが、あるいはゾンビ映画に例えても話としてまとめられるのかもしれない。

彼らは経済から生き血を吸っても吸っても吸っても全く満足できず「喉が渇いたからもっとくれ」と言い続けている。

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