小西洋之参議院議が炎上している。発言の内容は「憲法審査会の毎週開催はサルがやることで蛮族」という発言だ。オフレコだったそうだが、各媒体が報じており「炎上」につながった。マスコミが作り出した炎上と言えるだろう。「最初に抜いたのはどこだったのだろうか?」と興味本位で調べてみた。
NHKの報道を読むと「筆頭幹事(小西さん)が記者団に対して述べた」と書かれておりオフィシャルな発言のように思える。日付を見ると23時ごろになっている。
このニュースを抜いたのはおそらくFNN(フジテレビ)系列である。【速報】毎週の憲法審「サルがやること」 立憲・小西参院議員が発言という記事が夜の7時ごろに出ている。この発言をフジテレビが抜いたことで他メディアも対応を検討したのだろう。
当然この発言には反発が高まった。維新が反発しているが、立憲民主党の中川憲法調査会会長も小西さんを庇わなかった。「党の見解ではない」としている。小西さんの政党内での立ち位置がよくわかる。
時事通信によると、小西さんはこの発言を撤回した。オフレコ・オンレコでは議員と記者たちの見解が食い違ったままだったそうだ。Twitterの小西さんの釈明を見ても「前半だけが切り取られた」となっている。
また維新は厳格な処分を求めており協力関係が一時停止されている。統一地方選挙が始まっており影響が軽微だったとは言えない状況である。
オフレコを切り取られた形の小西さんだが、なぜこの発言は炎上したのか。極めて単純に要約すると、小西さんが空気を読み違えたからと言えるだろう。つまり政治センスのなさに帰着する。
小西さんが読み違えたもの
安倍政治の終わり
NHKの記事には中山太郎元外務大臣の名前が出てくる。安倍総理が憲法改正の議論を政治利用する前までは、超党派的に「静かな環境で憲法改正をやろう」という機運があった。その中心にいたのが中山太郎元外務大臣である。安倍総理や清和会の影響力が退潮する中「ようやく静かな議論ができる」という期待があったのだろう。
一方で小西洋之議員はゴリゴリの護憲派へのアピールに熱心だった。「アベ政治を許すな」という動きが盛んだった時には一定数の支持があったものと思われる。小西洋之氏はTwitterなどでも盛んに憲法改正への反対姿勢を表明してきた。
安倍総理や清和会の影響力が弱まれば当然カウンター運動も退潮する。小西氏はこれを読み違えた。
焦りとマスメディアの反発
ジャーナリズム倫理が発達しておらず「ムラ」の総意で動く傾向の強い日本のジャーナリズムの構造を小西さんが理解していなかったのも大きい。
小西洋之議員は理由は定かではないものの「産経とフジテレビの取材は拒否する」と言っている。また、NHKとフジテレビが放送法に関して偏向報道を続けていると主張しており、それと闘うために寄付を求めるなどとも言っている。
「寄付」が気になる。小西洋之議員が「成果」を求める裏には、おそらく財政的にそれほど順調ではないという事情があるのだろうと思われる。このため運動体を必要としているのだ。しかしながら高市文書の問題では小西さんが狙ったような成果が得られなかった。
おそらく運動体が期待通りに盛り上がらないことが「焦り」になり一部のメディアに厳しくあたっていたものと思われる。フジテレビに対して「元放送政策課課長補佐に喧嘩を売る」などとも発信しており、媒体との関係はあまり良くなかったのだろうことが窺える。
もちろん現在のマスメディアにも問題はある。人間関係の構築が極めて重要な日本の政治報道の風土を理解したPR担当者を置くべきだったのかもしれない。
ニーズのずれ
高市文書問題についてはこのブログでも度々取り上げた。反応はさまざまだったが「高市さんが主語になると盛り上がるが小西さんを主語にすると盛り上がらない」という特徴が見られた。
「高市さんがいじめられるところが見たい」というのがおそらくは今回のニーズだった。非常に書きにくいことではあるのだが「少し目立った女性が周りからいじめられる」という点にニーズがあったものと思われる。メディアなどで表立ってこんなことを言う人はいないだろうしじつに不毛なことではあるのだが「調子に乗った人が叩かれる」のを見ているのが楽しいのだ。
他罰感情に根ざした劇場型政治の限界と言える。政治家を牽制する効果はあるが、問題を解決する力はない。
つまり、小西さんもこの「ちょっと目立って調子に乗っている人」類型に引っ掛かってしまったのだといえる。これが今回の件が「ブーメラン」である所以だ。
では立憲民主党はどうすればよかったのか
今回の小西さんの告発を奇貨として放送法の理解を高めるという選択肢はおそらくあっただろう。だがその場合には小西さんの告発に頼るのではなく、立憲民主党が組織を挙げて放送法についてのキャンペーンをやるべきだった。さらに小西さんもPRパーソンを立ててマスコミ対策をやるべきだった。どこの企業も広報を置いている。仮に小西さんに余裕がないなら政党がこの機能を代替すべきだ。議員個人の発言が政党全体の印象を損なうからである。
日本の政治言論には極めて極端な二つの側面がある。プロの政治言論は「ムラ化」している。ジャーナリズムを味方につけるためには時々情報を渡してやったりして普段からてなづけておく必要がある。イライラして八つ当たりなどしてはいけない。恨まれてしまう。一方でその外には他罰感情を満たしたい人たちが大勢いる。
バックグラウンドを持たない参議院議員が運動体を維持するためには世論のバックアップと資金が必要だ。つまり「風」に乗る必要がある。PR機能を持たない個人や団体が「他罰感情」という「風」に乗ったのはよかった。だが、直接強風に身を晒してしまったことで自分も吹き飛ばされてしまったことになる。
つまり今回のブーメランは政党としてのPR機能(つまりコミュニケーション)の問題に帰着する。おそらく無党派層の関心を引き寄せるためにも重要な機能だろう。今の立憲民主党にはこの機能がない。
小西さんはこの隙間に挟まってしまい自分が炎上することになってしまった。維新が反発しており身内からも庇う声は聞かれない。かなり厳しい対応になるのではないかと思う。
寄付を求めている上に「今でも苦しい」と訴えている小西さんにとって運動体の維持は極めて切実な問題だったのだろう。民主党が解体してから立憲民主党に合流するまでの間苦労があったことは理解ができる。
「風だのみ」で政治体を維持する姿勢を持ち続けている限り、立憲民主党が自民党の代替政党とみなされることはないだろう。今回の推移を見る限り過激な言動は政党全体の信頼を損なうリスクにしかならない。
もちろんコミュニケーションも重要なのだが、立憲民主党はまず地方組織を充実させ、地道に実績を積み上げるべきなのではないかと思う。「ブーメランで笑いものになった」ではなく今回の教訓から真摯に学ぶべきだろう。結局何を実現できるかでしか政党は評価されない。PRは実績をうまく伝えることはできるが実績を作り出すことはできない。
Comments
“「憲法サル発言」で小西洋之議員に巨大なブーメラン” への1件のコメント
小西さんは統一地方選挙対策のために自民党から送り込まれた刺客でしょう。
立憲は野党との選挙協力もままならなくなり、自民が有利になっていくことでしょう。