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トランプ前大統領の起訴で今わかっていることと今後懸念されることのまとめ

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人々が予測しないタイミングでトランプ前大統領が刑事事件で起訴された。「アメリカの憲政史上初めて」と報道されている。各メディアが関心を寄せているのは起訴された容疑者の扱いだ。普通の容疑者は写真を撮影され指紋を取られることになっている。だが、英語の報道を見ているとどうも様子がおかしい。トランプ元大統領が人々の同情を集めるために「犯罪者扱いされること」を望んでいるのではないか?という懸念があるようだ。すでに献金が盛り上がっているという話まで出ている。報道を読み比べ今わかっていることと今後懸念されていることをまとめてみた。

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人々が予測しないタイミングだった

トランプ大統領がまず「私は逮捕される」とSNSで発信したが何も起きなかった。次に起訴審議が延期になった(今後一ヶ月は開かれない)と伝えられた。誰もがしばらくは何もないのだなと油断した矢先に弁護士の情報として「起訴された」と伝わった。これをアメリカの各メディアが伝え始め、日本の報道機関が後追いしたという手順になっている。たちまちのうちに報道はわきたちアメリカのメディアはトランプ報道一色になったようだ。

なぜ延期報道から一転して起訴になったのかは不明だ。今回の件を決めた大陪審が特定されれば一部の過激なトランプ支持者から攻撃されることは目に見えている。これを警戒したのではないかと思うが、それを確認する報道は見つからなかった。今後の激しい抗議活動に備えてニューヨーク警察は準備を進めている。

そもそもなぜ起訴されたのか

実はこれがポイントになっている。実は何で起訴されたのかが伝わっていないのである。今のところは「不倫相手とされる人にたいする口止め料」の会計問題なのではないかと言われている。BBCはこの線でこれまでの経緯をまとめている。

マイケル・コーエン弁護士はもうこの件に関して有罪判決を受けて服役を済ませている。仮にこれが立て替えだったとすれば形式的に寄付に当たることになる。今後マイケル・コーエン氏がどのような証言をするのかが注目されている。

CNNは「事情通」の発言として30以上のビジネス詐欺関連で起訴されたようだと伝えるのだが、この手の報道は実際に起訴状(現在は封印されている)が開封されるまで何が本当なのかはよくわからない。起訴状は近日中に公開されるものと見られるが口止め料の件は単なる入口に過ぎない可能性がある。つまり口止め料の会計処理を調べるという名目で資料を提出させ様々な別のビジネス詐欺について調べている可能性がある。

これは政治的に仕掛けられた陰謀なのか?

起訴を決める「大陪審(Grand Jury)」は一般市民から選出される。

今回の件はニューヨーク州法違反の容疑でニューヨークの大陪審によって起訴が決まった。トランプ氏は「バイデン政権が司法機関を武器としていると主張している。ニューヨークの市民感覚をバイデン大統領が操作するのは難しいが、地方検察官は選挙で決まる。ニューヨーク検察官のアルビン・ブラッグ氏は民主党系の検察官だ。

アメリカの検察システムは選挙で選ばれた検察官と市民が起訴を決めるという独特の手法をとっている。このためどうしても裁判プロセスが民意を反映する。つまり政治性を帯びてしまうのだ。

一方で機密文書持ち出しについては特別検察官が任命されている。すでにトランプ氏は2024年の大統領選に出馬を表明しているため政治的な影響が出るのを避けた格好になっている。

民主党が優位だった頃の下院では「トランプを訴追すべきだ」と勧告が出されていた。この後トランプ氏に法的拘束力のある召喚状が送られていたのだが選挙の結果共和党が優位になったため委員会は解散している。このためトランプ氏が議会に召喚されることはなかった。

このようにトランプ氏を起訴する試みは何度も行われているが成功してこなかった。

このため共和党側の人たちは、大統領経験者を軽微な会計上の問題で訴追するなど前代未聞でと騒いでいる。ペンス元副大統領もその一人である。ペンス元副大統領だけでなく議会共和党にも民主党を批判する声が大きい。

新しいトランプ劇場の懸念

今回の報道を見ていて最も特異だったのが各社の報道姿勢である。

政治家が起訴されれば「政治生命が終わった」と考えられるのが普通である。特に日本の検察は嫌疑が十分でなければ起訴はしないため「推定有罪」的な扱われ方をすることも多い。

ところが今回はトランプ氏がわざと惨めな姿を支持者向けにアピールするのではないかと言われている。ロイターの「焦点:トランプ氏、起訴への怒りで支持拡大狙う 戦略に疑問符も」はこの点について扱っている。このため日本の常識でアメリカのメディアを見ると「よくわからない」と感じることが多い。

トランプ氏が今回の件を「劇場」として利用する懸念がある一方で、劇場化した政治に疲れる人が出てくる懸念もある。

トランプ氏が「自分は逮捕されるかもしれない」と訴えてから約200万ドル(約2億6600万円)の献金を集めたとロイターは書いている。BBCによると今回もまた「応援献金」が呼びかけられているようだ。つまり、政治迫害劇がそのままビジネスになってしまうのである。しかし、このような熱心な支持者たちがどれくらいいるのかがわからない。劇場化の動きに白けてしまう人も多いのである。

報道を見ていると「刑罰を受けている人が大統領選挙に出馬できないという規定はない」といするものまである。つまり裁判中に大統領選挙に出馬し「自分は政治的に迫害されている」という訴えで有権者たちの同情を集める可能性があるということだ。

手錠をかけて捕らえられる姿を見せることが逆効果になりかねない。検察と弁護士の間では「手錠はかけない」という合意がなされている。

アメリカの政治言論はかなり劇場化が進んでおり「アメリカはディープステートに操られている」と信じ込んでいる人も多い。さらに、トランプ氏は「起訴されれば「死と破壊」」と仄めかしており、これに呼応する人たちがどれくらい出てくるのかも注目される。

ABCニュースも「史上初めてのことでありアメリカの政治にどのような影響を与えるのか誰もわからない」と言っている。つまり、今後の推移を見守るしかないというのである。

共和党の損得勘定

この劇場化懸念とは別に共和党内の候補者選定をめぐる駆け引きに与える影響も未知数だ。

共和党の人たちは民主党が司法を武器化していると一斉に今回の件を批判している。しかしながら、これが彼らの本音であるかどうかは実はよくわからない。トランプ氏がいなくなれば自分達が大統領候補になれる確率が高まる人たちがいる。つまり、表向きはトランプ氏に同情を寄せるふりをしつつ実は「脱落してくれないかな」と考えている人たちが大勢いる。

例えば表向きはトランプ氏を支持しているように見えるペンス氏だが実は大統領選挙の出馬に意欲を燃やしている。しかしながらトランプ氏と直接対決すると「裏切り者だ」と罵られる恐れがある。つまりトランプ氏が何らかの理由で潰れてくれるのが好都合なのである。

現在有力候補とされているデサンテス・フロリダ州知事は「ウクライナ問題は領土紛争」と発言し顰蹙を買っている。つまりトランプ氏に代わる有力候補が出ていない。

BBCは今は無名の候補者であるエイサ・ハッチンソン氏の例を挙げている。起訴が不当とまでは踏み込まなかったそうだ。有力候補者たちが脱落すれば無名の人たちにもチャンスが回ってくるかもしれないというのが現在の状況である。

今回の件を見ると究極に劇場化された政治言論が何を引き起こすのかがわかる。つまりちょっとくらいの烙印を押されていた方がかえって有力な大統領候補になる可能性があるということになる。こうなると問題解決や話し合いの機運は完全に消滅する。まじめな政策論争よりも迫害劇の方が派手でわかりやすいからである。

アメリカのメディアはアダルト女優との不倫とその口止めに端を発したスキャンダルだけを夢中で追いかけているように見える。外交・内政・経済に課題は山積みだが、それよりも迫害劇の方が数字が稼げるのだ。

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