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実は「ネタニヤフ首相の司法改革」が日本の安全保障に与える影響は決して小さくないのではないか

ネタニヤフ首相が司法改革に着手したとCNNが伝える。言い方は非常に悪いのだが、泥棒(容疑者段階だが)が警察改革を始めたというような感じだ。イスラエルは順調に暴走しておりこれがバタフライエフェクト的に日本の安全保障環境を危うくする。

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CNNがネタニヤフ首相の司法改革への関与は「違法」 イスラエル検事総長が公開書簡という短い記事を書いている。

ネタニヤフ氏は

ネタニヤフ氏は演説の中で、「今日まで私の手は縛られていたが、もうそうではない」と述べ、司法制度の全面改革に直接携わる意向を言明した

と改革に意欲を燃やしている。

これに対してバイデン大統領を含む各国首相から批判が集まっているそうだ。

そもそも「ネタニヤフ氏の手足を縛っている」とはどういう意味なのか。

2019年にネタニヤフ氏は首相在任中にもかかわらず収賄罪や背任罪で起訴されていた。免責を主張したが認められなかった。ただしこの時点では「裁判まで何年かかるかわからない」とされていた。

事態が動いたのは2021年だった。野党勢力がまとまり退陣に追い込まれた。裁判プロセスが進むものと思われていたのだが野党は予算編成などでまとまれず、最終的に総選挙が行われることになった。ネタニヤフ氏は最後の手段として極右と手を組んで奇跡の復活を遂げた。

今回、ネタニヤフ氏は「二度と検察が自分に歯向かえないようにしよう」と考えているのだろう。検察改革を行い首相の起訴権限を剥奪しようとしている。

そもそも民主主義の守護者を自認するバイデン政権がこのような動きを認められるはずはない。一方で民主共和両党共にユダヤ系に支えられているためイスラエルに対して強いメッセージを発信できない。これが「民主主義の守護者」としてのアメリカの地位を動揺させている。

ところが話はこれだけでは終わらない。

極右は追い詰められたネタニヤフ氏を救済するのと引き換えにパレスチナの殲滅の権限を入手しようと試みている。財務大臣は入植地での群に関する権限を手に入れたという話がある。つまり「ミニウクライナ」が中東に出現しかねない。財務大臣はついに「個人的な見解」と断ったうえでパレスチナ人などいないと言い出した。

そもそもこれはユダヤ人が受けてきた境遇を思い起こさせる。ヨーロッパにはユダヤ人などいないしいるべきではないというメッセージで大勢の人たちが虐殺された。アメリカに逃れてきたユダヤ系の中にこの発言を苦々しく思っている人は多いはずだ。

この暴走するイスラエルとそれを抑えられないアメリカという構図は、周辺国を動揺させている。長年犬猿の仲だったイランとサウジアラビアは新たな仲介者として中国を引き入れた。

習近平中国はアメリカに対抗するために「世界の調停者」という地位を熱望している。アメリカが頼りにならずイスラエルの暴走を抑えてくれないことは自明なのだから、中国に名誉を与えてでもこの状況に引き摺り込みたいとサウジアラビアとイランが考えた可能性があるとする分析がある。

これはサウジ・イラン側が、中国に名誉を与えることを選んだ結果だと言えよう。すなわち、域内において最も根深い、世界中が注目する、米国も解消できない対立を中国が取りまとめた、という物語をセットすることである。

中東調査会は「物語」と書いている。ではこの物語は日本にどのような影響を与えるのだろうか。

日本の防衛戦略は次のような組立になっている。

  • 中国が台湾を狙っている。
  • 民主主義を守るために日本はアメリカを盛り立てていかなければならない。
  • そのためには増税してでも防衛費を増額してアメリカからの武器を買うべきだ。

これも「物語」なのだが、日本の防衛政策上は極めて重要な物語である。この根底が崩れることになる。

イスラエルの一連の動きは日本ではほとんど注目を集めていない。国際情勢について語るとしてもせいぜい「台湾有事」止まりという人が多いだろう。だが実際には事態は複雑に推移しているように見える。バイデン政権がどのようにここから巻き返すのかに注目が集まる。

さらに「必勝しゃもじ外交」の岸田総理がどのような認識を持っているのかも「誰かマスコミの人が真剣に話を聞いてきてくれないだろうか」とかなり切実に感じる。G7を広島アピールの舞台程度に考えられては困るのである。

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