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高市文書問題で考える日本人が議論ができない理由

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参議院予算審議が終盤に差し掛かり高市問題はうやむやのまま終わりそうだ。もう一度冷静になってみよう。高市放送法文書問題で我々が知りたかったのは何なのか。実はこの単純なことがわからない。ここから、日本人が議論を苦手とすることがよくわかる。今回の不毛な議論から日本人がなぜ議論ができないかを考える。

かなり長く入り組んだ話なので結論から先に書くと次のようになる。

  • 学級会で議論をする場合には最初に話し合うべき項目についてみんなで整理しておきましょう
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テレビのワイドショーの内容が気に入らないとして電話をかける人がいるそうだ。電話突撃といい「電凸」と言う別名もある。おそらく安倍首相もそんな感覚だったのだろう。サンデーモーニングが気に入らない。安倍総理は電話をかける代わりに周囲に不満を漏らし始める。周りの人が動いた。現在の法律の枠組みを使って「なんとかならないか」というわけだ。

そもそも最初から単なる感情論だった。だが、これが次第に大問題に発展していった。

高市さんが正直に話をしていない以上は想像で埋めるしかない。高市さんは安倍さんの機嫌を損ねたくない。ただ、この話が無理筋であるということもわかっていた。つまり板挟み状態になった。

官僚も「そんな無茶苦茶な話の片棒を担がされては困る」と考えたのだろう。後で言い逃れができるように証拠を残しておくことにした。

唖然とするしかない。

出発点が感情論でありその感情論に合わせるようにそれぞれの自己保身が始まる。つまり、そもそもこの議論に「放送法と行政文書」という本質は存在しない。これで何らかの議論ができると思っている人がいるとしたら、それはその人がどうかしている。


では具体的に総務省側の最終見解を見てみよう。

総務省が最終見解を出した。総務省は捏造があったとは考えていないという。担当局長が高市早苗総務大臣に対して放送に絡む何らかのレクをやった可能性は高いという。ただ核心となる「解釈」に関連する説明をしたのかどうかは確認できなかったとしている。磯崎補佐官が安倍首相にレクをした事実はあるそうだ。内容に対する記載はない。

局員の一人が担当局長の指示で放送法の政治的公平の解釈について説明するための原案文書を作成した認識があるとも言っている。一方で、放送局長は原案を作らせたがこの内容について説明しなかった可能性については含みを残した。

放送関係についてのレクはやっていて原案も作っているわけだから「この件」について説明した可能性は極めて高い。だが、解釈について説明したかについてはぼやかしている。やらなかったとは言っておらず「確認できなかった」となっている。このため表現が「正確性が確認できない」とされている。

時事通信はこれら一連の発言をまとめている。こちらは共同よりさらに強い調子になっている。担当者は第4条の解釈問題について全く報告していないということはあり得ないと指摘した上で、自分が書いた概要は間違っていないと明言したそうだ。つまり担当者のレベルでは報告したことになっており、これを局長のレベルの記憶を曖昧にすることで有耶無耶にしようとしているというのが今回の落とし所のあらましである。

一方で高市大臣の方は全体像については知らないが少なくとも私について言及している部分については虚偽であると主張し続けている。虚偽とか捏造という言い方が批判を集めているために「信頼に足る文書ではない」と言っている。この文書の信頼性について現在の所管大臣である松本総務大臣は何も言っていない。

つまり総務省側も高市大臣側も「自分の立場」のことはひどく気にしているのだが「全体がどうなっていたか」については全く関心がない。そして現在のマネージメントはダンマリを決め込んでいる。

まとめると総務省は説明したつもりになっており高市さんは聞いていないと言っている。つまりそもそも総務省の中に統一見解などなかったのだろう。

最終的に見解の不在がどうなったのかはよくわからないままだし現在の政権がどうそれを引き継いでいるかも不明である。政権に強い意志があれば「実際に何が誰によって判断されたのか」を明確にすることはできるだろう。だが、松本総務大臣は第三者機関による聞き取りはやらないと言っている。お互いに認識の違いがあるということで終わらせようとしているのだろう。


整理すると巨大な伝言ゲームになっている。

  1. 安倍総理の何らかの意向
  2. 磯崎補佐官の介入
  3. 担当者の報告書作成(実際に文書を作成したのはさらにその部下)
  4. 局長の高市さんに対する報告
  5. 高市さんと安倍総理とのすり合わせ
  6. 実際の高市さんの発言
  7. 当時の敬意を知った上での松本総務大臣の見解
  8. それを聞いた岸田総理の見解と判断

このうち高市さんは発言内容を徐々に後退させている。極めてあやふやであることから高市さんに何らかの問題がある蓋然性は高い。だが今回はこの点には触れないことにする。

政権側は「従来の姿勢は変わっていない」と言っているが放送事業者やその関係者たちはこれを「放送法の解釈が変更になり政府が圧力をより強めている」と解釈した。実はここにも伝言ゲームがある。おそらく経営陣と労働組合では見解が多少異なるはずである。番組によってもさまざまな認識があったことだろう。社員と出演者の間の認識もずれている可能性がある。

そもそも最初の段階からこの伝言ゲームの間に認識のずれがあり政府の統一見解などなかったというのが「真相」である。おそらく放送局側にも同じことが言える。

ここから遡って情報を確定させようとする試みは全て失敗に終わるだろう。そもそもそんな統一的な認識などどこにも存在せず今もないからである。

ではこれのどこが問題なのか。おそらく放送行政上の問題はないと考えて良いだろう。認可を受ける放送局は新規参入を総務省に守ってもらっているという意味では「共犯関係」にあり、単なる被害者ではない。

ただこれを一つのシステムだと考えると問題は大きい。

前の社長がある日「気に入らないからこの仕様を直せ」とねじ込んでくる。お使いに出たのはコンピュータシステムの素人である。こんな仕様変更をしてしまえばシステム全体の整合性は無茶苦茶になるが素人に説明しても埒が明かない。システムエンジニアならここで抵抗するだろう。後で運用するのは自分たちだからである。

ここで総務官僚たちは「自分たちは関与していないという証拠を残しつつ」あとは言われた通りにドキュメントを作ることにした。システム仕様変更のデメリットは当時の事業部長に伝えたからあとは知らないというわけだ。自分たちが悪くないことさえわかればあとはどうでもよかった。

のちになってその証拠を突きつけられた前事業部長は「いやそんなものは知らない捏造だ」と言っている。そして今の社長と今の事業部長は「なんだかややこしい話だからなんとか穏便に切り抜けよう」としている。

全体が無責任体制と言うことはわかる。こんな会社はすぐに潰れてしまうだろう。だが政府なので潰れない。

放送法解釈変更があったのかなかったのかという単純な問題でさえ政府内に統一見解がない。では下記の問題については果たして統一された政府見解があるのだろうかと言う疑問が湧く。

  • 少子化対応プログラムの進捗とプログラム実施に必要な財源の調達。
  • 防衛費はきちんと使われているのか。増加分を賄うのに増税は必要なのか。
  • 参議院予算審査中に国会の承認を取らずにキーウを訪問したことの是非と情報管理。

おそらく「それぞれの立場をにじませた個々の見解」があるだけで、統一見解はないはずである。

今回の件から、今の政府には問題解決ができないということがわかる。

社長にあたる総理大臣は「法律をうまいこと解釈して部下たちを従わせよう」としか考えておらず、事業部幹部たちは「泣く子と地頭には勝てぬというから」と諦めている。ただ後で責められるのも嫌なので証拠だけは残しておく。そして事業部長にあたる大臣は「社長の機嫌も損ねたくないし、かといって事業部の人たちは抵抗している」からうまく立ち回らなければならないと考えている。

そもそも「解決すべき共通の課題」がないのだから、議論などできるはずもない。今回の高市問題を見る限り日本人に議論ができないのはそもそも共通の議題を話し合っていないからだということになる。今回触れなかった野党側も含めてそれぞれの議題を列挙したい。

  • 総理大臣とその周辺:法律の枠組みを使って気に入らない放送局になんとかしたい。
  • 総務省:社長の言うことを聞いてしまうとこれまでの整合性がバラバラになってしまう。ただ抵抗してもしかたないので自分たちが悪くないと言う証拠だけは残したい。あとは野となれ山となれだ。
  • 高市大臣:言うことを聞かないで総理に嫌われたくない。しかし部下たちは抵抗している。どう立ち回るのが一番賢いか「政治的に」考えよう。私は政治的な立ち回りは得意だし事業部の幹部たちより立場は上だ。
  • 野党:この件を利用してなんとか存在感をアピールできないか。

特筆すべきなのは政府がこんな状態にもかかわらずなんとか維持されていると言う点である。普通の会社ならとうの昔に潰れているだろう。

ボトムまでこの文章を読んだ人が何人いるかはわからないが、おそらく「なんだそんなことか」と思ったのではないだろうか。学級会ですら課題を決めてから話し合いをするのに日本の政府と議会は「その程度のことも」できていないのである。

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