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モンスターの誕生 UBSがクレディ・スイスを救済

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UBSがクレディ・スイスを救済したとして話題になっている。「スイス発の金融危機は防がれた」というわけである。では、これが本当に救済だったのかということになる。結果的に三つのことが起きた。まずスイス発の金融危機は防がれた。ただしスイスの威信は損なわれた。そして最後にスイスに大きくて潰せないモンスター金融機関ができた。今後スイスはこのモンスターを「飼う」ことになる。

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アメリカをはじめ先進国の金融当局はこの動きを歓迎している。スイス発の金融危機が未然に防がれたからである。機器的な状況は今でも続いており欧米日はアメリカドルの緊急調達ネットワークを作った。

BBCによるとスイスの威信は損なわれた。2008年の金融危機をきっかけに二度と同じことが起きないように対策を取ってきたはずだったが、破綻が現実のものになるまで政府はなにもできなかった。つまり、次に同じことが起きてもまた何もできないと言うことになる。

同じ規模の銀行が二つあると競争が働く。だが、一つになってしまったことで政府監視はますます厳しくなりそうだ。競争を前提にしていたサービスレベルも低下するかもしれない。さらに従業員の削減なども避けられないが、スイスの金融マンには職場の選択ができない。大きな金融システムが一つあるだけだからである。金融サービスに国の経済を大きく依存するスイスにとって金融サービスの寡占化は大問題だろう。

もう少し細かく状況を見てゆこう。

2008年にも同じようなことが起きている。つい最近のような気もするが実はもう15年も前の出来事だという。

当時、アメリカではリスクを分散し証券化する手法が流行っていた。高度に計算されているから大丈夫という触れ込みだったのだが、低所得の人たちへの貸付(サブプライムローン)ことが問題になり連鎖的な破綻が起きた。実はこの時にスイス政府がUBSを救済している。

  • UBSは政府から60億スイスフランの出資を受ける
  • スイス国立銀行がファンドを設立し600億ドル相当の不良資産を移す(つまり実質「国有化」された)

実はこの時クレディ・スイスはカタール投資庁から資金を導入しこの危機を乗り切っているそうだ。つまり、クレディ・スイスは「自力救済」といいつつアラブに救ってもらっていたのである。

スイス・インフォは2013年10月31日の記事で不良資産を引き受けてまでUBSを救ったことは大成功だったと自画自賛していた。金融危機をチャンスに変えたというわけである。BBCが今回「スイス政府は何もしなかった」と批判しているのとは対照的だ。

今回わかったことは、実はこのときの「救済劇」は救済劇でなかったとということだ。

アラブからの金を入れたクレディ・スイスはその後に投資事業への転換を図った。しかしこの経営陣の姿勢は理解されず最終的にサウジアラビアの投資家が「もう資金援助はできない」と見放したことで危機に直面することになった。

スイスにはもう後がないということだ。ではこれでもう騒ぎは終わるのか?

もう一度、動きをおさらいする。アメリカでは2000年代の初頭から低金利制作や住宅ローンの規制緩和が起こる。このため住宅価格が急激に上昇した。中にはビジネスとして安い家を買ってリノベーションして売り出すなどした人もいることだろう。住宅価格が全体的に上がっていったことで少ない手元資金で多くの住宅を買うことができた。

このビジネス熱はバブルだった。次第に返済が手に負えなくなる人が出てくる。信用力が低位の人(サブプライム)からついてゆけなくなり不良債権が急増した。

つまりこの問題はスイス一国で処理できるような問題ではない。震源地はアメリカだからである。

この時のスイスの銀行の一つはスイス政府に頼った。そしてもう一つはアラブのオイルマネーに頼ることになった。一応破綻処理は成功したとみなされた。さらにアメリカでは金融機関には厳しい規制が導入された。

ところがこの規制は長くは維持されなかった。トランプ政権時代にかなり規制が緩められたようである。「喉元過ぎれば」というわけだ。

今回クレディ・スイスがつまづくきっかけになったのは「アルケゴス」問題である。いくつかの媒体がアルケゴス問題についてまとめている。こちらはさらに事態がややこしくなっている。投資先はアジアなのだがアメリカの金融規制の穴が狙われている。

アルケゴスを率ていた人はインサイダー取引の前科のある韓国出身者だったそうだ。少ない資金を使ったアジア株投資を得意としていた。アメリカは現在では規制をしているそうだが、当時は株式投資の損益を丸ごと移転するような取引を容認していた。

アルケゴス問題が露見することになったきっかけは投資先のテレビ局大手の株価の下落だったそうだ。アルケゴスが多額の損出を被るのではないかということがわかるとアルケゴスの投資先が一斉に資金の引き上げを行なった。

結果的にクレディ・スイスの株価は1ヶ月で25%下落した。

結局、この時もアメリカが発端になっているのだが、震源地が国内の不動産投資ではなかった。より国際化され複雑になったマネーの仕組みに各国の政府がキャッチアップできていないことがわかる。

マネーでマネーを膨らませるというゲームはうまくいっている時は良いのだが、一旦人々が不安を感じ出すと逆向きの動きが起きる。シリコン・バレー・バンクの時のよう取り付け騒ぎに発展してしまうのである。そして、一つのスキームが破綻しても次から次へと新しいものが生み出されると言う特徴もある。「もう厳しい規制にはうんざりだ」と言う人たちが新しいルールを作ってしまうのだ。

金融サービスに依存するスイスにとって国際金融機関は明らかにある種の火薬庫になっている。アメリカの金融規制はアメリカの政治によって大きく左右されてしまうためスイスの納税者には管理できない。それでも金融立国であるスイスはこの脆弱なシステムと付き合ってゆくしかない。

結局、スイス国立銀行がUBSに1000億フランの流動性支援を行うことでディールがまとまった。また政府もUBSが買収する資産から生じる損出に対して90億フランの補償を与えるそうだ。クレディ・スイス債160億フラン相当は無価値になり民間投資家がコストを負担する。UBSの買値が安かったことでクレディ・スイスへの出資者はかなりの損害を被るものと見られているようである。

金融ハブになるとその国の地力の何倍もの恩恵を得ることができる。だが、その安定性は金融ネットワーク全体の安定性に大きく影響を受ける。スイスでは明らかにデメリットの方が大きくなりつつあるようであるが、それでもこの化け物と付き合ってゆくしかない。

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