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維新が起こす関西政治の地殻変動

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維新が関西の政治を破壊しつつある。単に関西だけの状況にとどまらずに国政に影響を与えていると言うのが特徴だ。奈良、和歌山、京都の例を挙げる。背景には世代交代が進まない既存政党と「老害」のしがらみがない新興政党という違いがある。

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前回の参議院選では自民党・立憲民主党・国民民主党が組織票への依存を強める中、維新は有名人を多く起用する戦術などで無党派層の支持を集めた。

しかしながら関西圏では、自民党に取って代わる地方行政の担い手というイメージを確立し存在感を増している。維新は強気のアジェンダを設定しているため好きな人と嫌いな人が大きく分かれるという存在になっている。

おそらく関西圏では、政治にはさほど興味がない人たちが「維新に任せても地方行政は大丈夫なのではないか」と感じて始めているのだろう。各地で地殻変動が起きている。

奈良県

奈良知事選挙に激震が走っている。これまで自民県連は現職の荒井氏を推薦してきたが、今回平木氏と言う新人を擁立する。若くてフレッシュでなければ維新に勝てないと言うのが理由である。主導したのは高市早苗さんだ。

ところが荒井氏は地元に市町村長のネットワークを形成している。もともとは運輸省のキャリア官僚ということもあり典型的な利益誘導型の政治家のようである。

この動きは思わぬ波及効果を見せた。なぜか総務省からリークが出た。放送法の解釈変更に高市早苗氏が関与したのではないかという疑惑だ。高市さんが「本当だったら辞めてやる」と言ったことで大騒ぎになり今でも「攻防」が続いている。この「攻防」の結果高市さんの指導力には疑問符がつき、結果的に維新の候補者が漁夫の利を得そうな状況である。

高市さんの凋落には岸田政権の見せしめ効果も

高市さんは総理の防衛増税に「罷免されても仕方ない」と発言しておりおそらく岸田さんの反感を買っているだろうと東洋経済は見ているようだ。確かに総裁の岸田文雄氏は今回の一連の騒ぎを全て傍観している。

東洋経済は荒井氏の背後には二階さんがいると指摘する。

岸田さんは二階さんを刺激したくないうえにそもそも高市さんを好ましくないと思っている可能性がある。国会で総務省側が次々と高市氏に不利な状況証拠を出してきていることからも高市さんは周りを取り囲まれている可能性が極めて高い。

つまり、もともとは参議院の維新の躍進という課題があり、それが中央政界にまで波及した形になっている。維新が勝てば岸田総理は高市さんに責任を取らせることができる。実は負けてくれた方が好都合とすら考えている可能性がある。反逆者がどのような末路を辿るかを周囲に見せつけることができるからである。

戦国時代さながらのドロドロの人間模様は歴史として見る分には面白いのだが、維新が奈良県を奪い取るというリスクを孕んでいる。地方での行政権限が維新に移れば、中央政界が地方首長と組んで利益を分配するという自民党の基本戦略が崩れることになる。

奈良県知事選挙で勝ちたいならば、維新の吉村氏に変わるような人が出てきて平木さんを強力にバックアップすると約束するべきだった。だが、それが高市さんでは面白くないと考える人がおそらく多数存在するのである。

和歌山県

奈良の争いは大きく注目されている。一方で和歌山県ではわかりにくい形で主導権争いが進む。が高市さんを世耕さんに置き換えると話がわかりやすい。

和歌山では衆議院の補選が行われる。勝てる候補として二階氏側が鶴保庸介参議院議員の鞍替えを検討していた。自民党の一部からこれに不満が表明され世耕弘成参議院幹事長が介入した。結果的に県知事に転出した岸本周平氏に敗れていた門博文氏の擁立が決まる。元々二階氏と世耕氏の間には軋轢があるとされている。

こちらの状況は奈良とは異なっているように見えるのだが実は基本構造はよく似ている。「維新が躍進する中で勝てる候補が必要だ」ということになり、国民民主党の岸本氏が県知事候補に出たという経緯があった。つまり、既得権にこだわりなかなか変わりたくない地元と負けてしまっては元も子もないと考える中央政界の間の綱引きなのである。

和歌山1区自民党は長年岸本氏に対抗する門博文氏を推してきたのだから「ここは門氏に」ということになったのだろう。

だがこちらも維新の独自候補の林佑美氏の立候補が決まっている。仮に林氏が勝ってしまえば「やっぱり二階さんのいうことを聞いておけばよかった」ということになりかねない。二階氏は表向きは強力姿勢だが「負ける候補に付き合うわけにはいかない」として傍観する姿勢のようである。福岡の麻生氏の立ち位置に似ている。

こちらも若いニューリーダーを立てて門氏を強力にバックアップしているという構図を作れば勝てる可能性がある。だが、それが世耕さんなのかということになると「いやそれは面白くない」という人が出てくる。

実は現在政権を担っている領袖クラスの人たちが次世代のリーダーたちが出てくるのを押さえつけているという事情がある。維新にはそのような旧世代がそもそも存在しない。そこでこのような状況が起きているのだとまとめることができる。

京都では共産党が動揺

最後の事例は京都の事例である。京都と言っても都市部と地方ではかなり様相が異なるようだ。

都市部の京都1区を例にとる。最も強いのは自民党だが共産党の穀田氏がが比例で復活していることが多い。だが直近の選挙では穀田氏が65,201票、維新の堀場氏が62,007票と並んでいる。つまり共産党の牙城が維新に崩されつつある。別のエントリーで志位体制を共産党中央の側から見た。志位体制は関西での急激な変化に対応できていない。強いリーダーの明確な一言にあまり政治に興味を持っていない有権者がなびくという構造だ。

端的に言ってしまえば

  • 志位さんでは吉村さんに対抗できない

ということである。

志位さんの生真面目な語り口では京都の有権者の心を掴むことができないということになる。もっと見た目が華やかでわかりやすい語り口の人でないと選挙に勝てないという焦りだと考えるとわかりやすい。

こちらはさらにわかりやすい。自民党には次世代リーダーになりそうな人たちがいる。ところが共産党にはそもそもそのような人たちはいない。さらに過去のしがらみにがんじがらめになっており身動きが取れなくなっている。このため共産党は自民党以上のスピードで衰えている。

この三つの例を見ると、実は全て世代交代をめぐる問題であるということがわかってくる。

具体的なビジョンはないが統治者の新陳代謝を求める日本人

維新は元々橋下徹というテレビで活躍していた弁護士と松井一郎という自民党出身の政治家が作った政党である。カリスマの部分を橋下氏に任せ、実務的な選挙の部分は松井氏が担ってきたのだろう。今回松井氏が引退を決めておりさらに世代交代が進む。

さらにそのカリスマが掲げるメッセージの中身をよくよく聞いて見ると、どこか後ろ向きさが漂う。安倍総理は「民主党にす沼れる前の日本は繁栄していたのだから、自民党が政権を取り戻しさえすれば日本は変わる必要はない」と継続的に訴えて無党派層の支持を集めてきた。維新の現在のメッセージは「かつての大大阪の地位が東京に盗まれているのだからそれを取り戻せば大阪は再び偉大な都市になる」というものである。

実はどちらも「未来志向」と言いながら過去を見ている。かつては「あの繁栄している欧米に追いつくにはどうしたらいいか」が国の目標になっていた。現在の目標は「あのかつて華やかだった大阪を取り戻すにはどうしたらいいか」である。このため維新の躍進する範囲は関西圏に限られている。

今回の維新の躍進は、あえてわかりやすい言葉でいえば「老害」となりつつある旧世代と新世代の間の世代交代論ということになる。

ただ、その新世代も成長なき数十年を過ごしたに過ぎず未来志向のビジョンは描けない。そもそも日本には自らビジョンを作り出す人たちが誰もいないのである。

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