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メディアの「クレディ・スイスはどうしてこうなった」はまとめのまとめが必要な状況

クレディ・スイスが経営破綻するのではないか? 金融市場は落ち着きのない状況が続いている。中央銀行が日本円にして7兆円の補償をすることにしたが「これでは足りないだろう」と言われているようだ。ヨーロッパ中央銀行は0.5%ポイントの大幅な利上げを先ほど発表し「インフレ対策を優先させる」とのメッセージを明確にした。つまり今回の件とインフレ対策を分けて考えているようだ。それぞれの判断が正しいことなのかが知りたいのだが、そもそもなぜクレディ・スイスが経営不振に陥ったのか。その理由がどこにもない。すでに知られている話なので経済紙を読む人は知っているだろうという前提のようだ。改めて読んでみたいと思った。

※当初「クレディ・スイス」を「クレディ・スミス」と、ミスタイプしてしまいました。記事とタイトルはすでに訂正させていただいています。

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クレディ・スイスは2022年12月期の決算にて最終赤字が1兆円を超えていると発表した。経営不安が強まったのは10月からだった。顧客からの引き出しが集中したためである。富裕層向けビジネスの手数料収入も減少し赤字に転落していた。金融市場の状況が悪化しており投資も振るわなかった。この頃から「リーマン・ブラザーズのように破綻するのでは」という噂が出始めていた。イギリスで「トラス・ショック」とも言える債権価格の下落が起きており「いつ大火災が起きてもおかしくない状況」だ。CEOは「今が正念場だ」とのメッセージを送ったが、これがTwitterなどで面白おかしく拡散されさらに経営に対する疑念が膨らんでいったようだ。

スイスインフォがその前からの状況をまとめている。利益優先に走り「スイスというルーツを失っていった」と総括している。

スイスインフォは「投資にしか興味を持たなかった経営陣」を厳しく糾弾している。これが企業風土によくない影響を与えたという。スイスインフォとしては「昔ながらの堅実な富裕層向けの銀行」に徹していればよかったのにという気持ちがあるのだろう。これが道を誤ったというタイトルに集約されている。

ここで疑問に思うことがある。

スイスインフォは「マネーロンダリング対策が不備だった」と書いている。だが果たして透明なスイスの銀行にどんな優位性があるのだろうか。

スイスの銀行はヨーロッパ各国からの規制を逃れたお金の逃避先になっている。フランス、ドイツ、イタリアのどこからみても辺境に当たるため自由を求めて逃げてきた人たちを匿って作られたという国家の歴史と関係している。ただし現在では各国政府が富裕層の資金の流れを補足しようと躍起になっている。つまりスイスの銀行が富裕層の資産逃避先としてやって行ける条件は無くなりつつあったのである。

これはイギリスも同じだ。イギリスは租税回避地の英連邦諸国とEUが交わる点にあった。このためロンドン金融センターとして優位性を享受することができていた。ただ、イギリスがEUから離脱したことでこの優位性は失われイギリスは再び経済的に凋落しつつある。

ニューヨークタイムズはクレディ・スイス問題は個別の事象でありアメリカとは関係がないと強調する。しかしその原因としては「長年にわたる財務上の不手際」を指摘するにとどまっている。

ロイターも例によってこの複雑な問題を「3分でわかる」とまとめようとしている。ロイターはクレディ・スイスはシステム上非常に重要な存在であるため仮に信用に打撃が加われば世界中に波及するだろうと説明している。欧米当局が躍起になって否定しているシステミック・リスクである。つまりいよいよ2008年と同じような状況ができる素地が生まれている。

金融市場は網の目のように張り巡らされているが、その分布は均等ではなく「ハブ」と呼ばれる重要な結節点ができる。仮にハブが破壊されてしまうと、その信用不安が世界中に一気に広がるという性質を持っている。

強引にまとめると、2008年の金融危機の時には「富裕層向けの銀行」としてのクレディ・スイスは存続が難しい状態だった。経営トップはなんとかしてクレディ・スイスを変貌させようとしたが組織はそれに追従せず結果的に数々のスキャンダルにみまわれていった。イギリス発のトラスショックやアメリカ発の感染性金融システム不安にさらされシステムのヒビが隠しきれなくなっている。おそらくここでクレディ・スイスを救済しても破綻を先延ばしにするだけであろう。クレディ・スイスは時代と環境の変化に対応できなかった可能性が高い。思い切って潰したいのだが潰すに潰せない。規模が大きく世界的な金融システムの破壊につながりかねないからである。スイスの中央銀行が何もしなければ「スイス発の金融危機」と呼ばれることになったかもしれない。

一方で、ヨーロッパ中央銀行のラガルド総裁は「インフレ対策と金融安定は別問題である」とし従来の予定通り0.5%ポイントの利上げを決定した。事前予測ではクレディ・スイス問題を念頭に0.25%ポイントの利上げにとどまるであろうという観測が出ていたのだが、これを否定し物価高対策を優先した形となる。

アメリカではイエレン財務長官が「インフレ対策もきちんと行う」旨の表明している。つまりシリコン・バレー・バンク問題にひるみインフレ対策の手を緩めたとみれらるべきではないということになる。失業保険の申請も減少しておりアメリカ経済には依然活気があるとみられている。つまりインフレが再燃しやすい状態が続いておりFRBが利上げを継続すべきだということになりそうだ。ヨーロッパ中央銀行は難しい判断をした。FRBもまた難しい選択を迫られている。

だがおそらくFRBが難しい判断をすれば、すでに入っているヒビの亀裂が大きくなりかねない。金融システムはお互いにつながっている。例えば日本の政治もGPIFの収益悪化を通じて大きな影響を受けかねない。

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