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なぜ今になって高市早苗さんの名前入りの文書? なぜマスコミはそれを伝えられないの? について考える。

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先日来、高市早苗さんの名前も入った総務省からの文書が発掘されて話題になっている。今回の議論の中で「なぜ今になって文書が出てきたのだろうか」という疑問がある。誰もが気になる話題だがテレビや新聞は全くと言っていいほど報道していない。ただ別の角度から高市さんについて調べると割と簡単に背景事情が説明できる。「誰もが語らない」などというとさも重大な秘密のように感じられるが実はそれほど大した話ではないのかもしれない。メディアは臆せずきちんと伝えてほしいと感じる。

以下憶測混じりの指摘考察であるとあらかじめお断りしておきたい。

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総務省はもともと旧郵政省・旧自治省・総務庁という3つの官庁が合併してできた新しい省庁である。新しいといっても統合されたのは2001年だ。このため総務省内には「出身省庁」がある人がいてこれが派閥になっている。

ただ、総務省内部に派閥があるという話を知らない人もいるかもしれない。

さて、奈良県知事選挙まで残り1ヶ月を切った。NHKによると自民党と立憲民主党は平木さんという新人を推している。国民民主党は荒井現知事を推すようだ。この他に維新、共産党が推す候補と無所属が立候補する予定だそうだ。

平木さんは「総務省出身」と記載されている。ところが平木さんのウェブサイトを見ると「25日に総務省を辞めた」と書かれており旧自治省出身とも記載されている。自治省の官僚は地方に出向することがある。ここで「地方自治行政」のキャリアを積み上げてゆく。平木さんにも出向経験があるようだ。だからこそ知事にふさわしいというわけだ。

だが奈良県の自民党は必ずしも平木さんでまとまっているわけではないようだ。実は自民党の中にも現職の荒井さんを推したい人がいると東洋経済が書いている。「奈良県知事選で大ピンチ、高市氏に吹く逆風の正体」という意味ありげなタイトルだ。自民党が二つに割れているため維新系の山下さんが漁夫の利を得るのではないかと書かれている。

奈良新聞は山下さんがやや先行と書いており、自民党系の候補にとっては正念場である。特に地元をまとめきれないまま維新系の知事が誕生すれば高市さんにとっては大きな失点になる。将来の総理候補どころか奈良県もまとめるきれていないではないかと批判されてしまうからだ。

例の文書は自治系の礒崎陽輔さんが総務省に乗り込んできて郵政系のナワバリである放送行政に口出しをしたという話だ。文書によれば高市さんは総理の意向に沿ってこの介入を許したわけだが横槍を入れられた郵政系の人たちは面白くなかっただろう。

レポートはおそらく郵政系の人たちに共有されていた。当時の郵政系で一番上にいた人に上がっていたものとの指摘がある。今回流出させた立憲民主党の議員はもともと郵政系の総務官僚だった。1998年に郵政省に入省しすぐ後に省庁再編を経験している。一方で高市さんはこのラインからは外されている。大臣を外して文書を回わすというのはなにやら学校のいじめに近い。だが、高市さんが文書の存在を知らなかったというのは本当かもしれない。さらに今になってそんな文章が出回っていたということがわかったわけで「あなたはあの時外されていたんですよ」ということになる。これも学校のいじめではよく聞く話だ。

確実な証拠はないもののこう整理するとなぜ岸田政権がこの問題に口出ししたくないのかということもよくわかる。地方組織がまとまっていない選挙に影響を与えたくないのだろう。どちらに味方をしても禍根が残る。さらに言えば今回はこうした保守分裂の地域が他にもある。

選挙には多くの政治家の将来がかかっている。報道を一歩間違えて「風」が吹けば報道機関はどちらかの陣営に恨まれることになるだろう。テレビや新聞などがこの件について取材・報道したくない気持ちはわかる。

民主党の政権交代以降テレビは選挙報道に抑制的になった。おそらく自民党の中には2009年を恨んでいる人がいる。「マスコミが自分達を政権から引き摺り下ろした」というわけだ。選挙が告示されるとそもそも奈良県知事選挙がらみの報道はできなくなる。不党不偏原則に各陣営と報道機関がもっとも神経を尖らせる時期である。

このためさまざまな憶測が飛び交っていてさまざまな議論が行われている。TBSの報道特集も放送法は放送局にとっては憲法のようなものであり、当時の磯崎氏らはこの「憲法」解釈を変えようとした、そもそも放送法というのは戦前の軍部が……というような筋のプログラムを流している。YouTube動画で全編見ることができる。

ただ一般の感覚として「なんだ単なる選挙がらみか」と感じる人も実は多いのではないかと思う。一般にはさして興味のない話だ。

郵政系総務官僚にとっても放送法は利権の源泉なので監督権を毀損するような方向には持ってゆきたくないはずだ。このため「解釈変更に抵抗した」と置いてしまうと色々と説明できない点が多い。

一方で省内派閥と選挙で説明すると大体のことがなんとなくすっきりと説明できてしまう。

余計な憶測が飛び交うくらいならきちんと取材して報道してくれればいいのにと考える人も多いのではないか。

報道特集は安倍政権のせいで報道の自由が奪われたかのような書き方をしているが「余計な波風を立てて選挙に影響を与えたら後から恨まれるかもしれない」という気持ちの方が抑制効果は高いはずだ。この辺りはマスメディア全体できちんと見つめ直してもらいたい。

当事者の奈良県民にとって重要なのは省庁や自民党の派閥抗争ではなく自分達の暮らしである。すでにある政治基盤を守るために現職を支援する人や中央とのパイプを期待して自民党系の新人を推す人もいるだろうし、維新、共産、無所属候補の人に期待を寄せる人もいるだろう。

つまりこの話題は政治通の人たちが考えるほど「アンタッチャブル」な話ではないのかもしれないのだ。平常心できちんと取材して報じてほしいものだと思う。

ただ、仮に「郵政系が面白くないから」という理由で「紙爆弾に火をつけてみました」という話だとすると別の深刻さは残る。第一に同期が子供じみている。

さらに、行政文書は国の基(もとい)だ。この基が「小石が混じったコンクリートでした」ということになっている。高市さんは未だこの文書は不正確だと言っており一時は捏造という言葉を使った。岸田総理の口からこれを否定するコメントも出ていないしどう行政文書の信頼性を確保するのかという意気込みも聞かれない。

近代国家としての日本は耐震偽装建築だったということになる。

一閣僚と背後にいた元首相の面子を守るためにこの件についてはっきりとした調査ができない岸田政権は政治不信・国家不信を加速させていることになる。マスコミも世論もこの辺りはもっと深刻に捉えるべきだろう。

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