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シリコンバレーバンクの破綻と今後の影響について 金融メディアを簡単にサマリー

シリコンバレーバンクが破綻した。リーマンショックの時のようなシステムの失敗ではなく単独銀行の失敗と見做されている。つまりシステミックリスクはないものと考えられている。だがそれなりに大きな銀行の破綻であることには間違いがなくパニックが広がるかもしれないと恐れている人もいるようだ。今わかっていることとわからないことをまとめた。

まとめると、波及効果は小さいものと思われるが心理的なインパクトはかなり大きかったということになる。「いつかこうなるのではないか」という恐れが具現化した結果なのだ。

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シリコンバレーバンクが破綻した。全米16位の銀行であり、銀行破綻としては全米で2番目の規模となる。2008年の金融危機以来最大の破綻と報道されることが多い。ちなみに最大規模の破綻は2008年のワシントンミューチュアルだそうだ。FRBがインフレ抑制政策を続けており金利高騰の煽りを受けたと評価されている。株が急落したのを知った預金者の引き出しが殺到したようだ。金融当局が閉鎖を決めた。

米連邦預金保険公社(FDIC)が管財人として指定され資産売却が始まる。シリコンバレーバンクそのものを買ってくれるところ(身売り先)を探しているという話も出ている。

預金者はFDICの保護金額までは保証される。FDICの基本的な保証額は25万ドルとされる。13日までにはアクセスができるようになると当局は発表している。それ以上の預金についての扱いは不明だ。FDICの最初のレポートをロイターが伝えている。昨年末時点で同行の預金1750億ドルのうち89%が保護の対象外でありその扱いは不明なのだそうだ。

現在は以下のような異なった説がありまだ定まったものは出ていない。

  • シリコンバレーバンクの破綻は独立した出来事である。
  • シリコンバレーバンクの破綻は独立した出来事だが心理的な影響がありパニックにつながりかねない。
  • シリコンバレーバンクの破綻はある程度の連鎖を引き起こすが2008年のようなことにはならない。
  • シリコンバレーバンクの破綻はシステムの崩壊につながる(システミックリスクを招く)。

以下詳細について書く。きっかけ・銀行株への影響・テック企業への影響・株価の下落とシステミックリスク・当座の日本円への影響と中長期的な日本経済への影響・バイデン政権への影響について書いた。まだわかっていないことが多いため興味がある部分だけ斜め読みすれば良いとおもう。


きっかけ

CNNは

SVBは大量の有価証券を売却して損失を計上したと発表し、バランスシートを強化するため22億5000万ドル(約3000億円)相当の新株発行を行う方針を明らかにした。これが引き金となってベンチャーキャピタル企業はパニックに陥り企業に資金を引き揚げるよう助言した

と報道している。

つまり直前になるまでシリコンバレーバンクが危ないということは知られていなかったことになる。一部のベンチャーキャピタル企業が「資金引き上げ」を提案したことが破綻のきっかけになっているのだから呪いが自己実現したことになる。典型的な取り付け騒ぎだったためCNNは「パニック」と書いている。

つまり今後もこのようなことが起きる可能性がある。

つまりシステム的なリスク(連続破綻:システミックリスク)は小さいが処理方法によっては銀行への不信感が広がる可能性は残っているといえる。不安から預金者たちが他の銀行から資金を引き出せば同じようなことが起きるだろう。すると人々は「銀行は危ないのだ」と推論するようになる。イエレン財務長官は2〜3の銀行の動きを注視していると証言している。

週明けにどのような処理がなされるのかについてアメリカのメディアは盛んに報道している。端的に言えば「あなたの預金をどうすべきか」ということを心配している。

銀行株への影響

ロイターによると米国の銀行株が失った時価総額は過去2日間で1000億ドル以上となり欧州の銀行株は約500億ドルを喪失した。大きすぎてよく金額がわからないのだがとにかく大変な影響が出たと言って良いだろう。

ウォーレン・グローバル・アドバイザーズ会長のクリストファー・ウォーレン氏は「空売り筋があらゆる銀行、特に小規模の銀行に売り仕掛けしようとしている」と述べたとされる。血の雨が降るだろうという不吉な表現になっている。つまり投機的な動きによって状況が悪化しかねない。

テック企業への影響

テック企業への影響はまだ不明だ。最近ハイテク企業の人員削減などニュースが盛んに報じられていた。まずテック企業の経営状態が悪化する。当座の運転資金が必要となるのだから預金が引き出される。それがシリコンバレーバンクの経営悪化につながったようだ。今後、シリコンバレーバンクから資金調達している新規参入組の資金繰りが悪化する可能性があるとされている。いずれにせよ週が開けてみないとどのような影響がどこに出るのかはよくわからない。

Bloombergは次のようにまとめる。この記事は「増資が成功するかは未知数」と書かれており、おそらく破綻直前の記事である。このため読むのに注意が必要である。

株価の下落とシステミックリスク

今のところシステミックリスクは低いと考えられている。だが心理的な不安を背景に騒ぎが広がりやすい状況になっていることは確かだ。パニックに近い動きになっており金曜日の株価は大きく下落した。しかしながらシリコンバレーバンクの破綻によって下落が引き起こされたわけではない。NHKはダウ平均株価の値下がりは4日連続で、この間の下落幅は1500ドルを超えましたと書いている。大きな流れの一環だったことになる。

さらに14日にCPI(消費者物価指数)の発表が控えている。ここで仮にインフレ継続を示す結果が出れば「金利高騰は続く」ということになる。金利高騰が続くということはこの状態が続くということを意味するのだからさらにリスクを回避する動きが加速する可能性もある。

サマーズ氏は「FDICが全額預金を保証すれば」システミックリスクは発生しないだろう(つまり金融業界全体に波及しないだろう)と言っている。一方で短期的に借りて長期的に資金供給するというやり方は見直しを迫られることになりそうだとも言っている。

バイデン政権が低金利で資金を市場にばらまいていたのだから、金融市場はこのようなことが可能だった。すでにFRBによって安酒(パンチボール)は片づけられている。パーティーは終わったというわけである。

当座の日本円への影響と中長期的な日本経済への影響

すでに雇用統計の発表で137円から134円という急激な上昇があった後なので円はさほど動かなかったようだ。ただし「14日のCPI(消費者物価指数)待ち」という側面があるようである。今後の動向には注意が必要だ。

現在日本では「日銀の出口戦略」について話し合われているが、政局的な問題だと捉えられているようだ。だがアメリカ経済が混乱すれば日本の金融政策は動かせなくなる。さらにアメリカのような強靭で活発な経済でも金融引き締めがパニック的な動きを示すということになればおそらく日本が出口を探すのはますます難しくなるだろう。

バイデン政権への影響

もともとFRBはバイデン政権を支援するために2020年3月ごろから金融市場に豊富な資金を供給してきた。2020年11月に資金供給を絞ると発表するとバイデン政権から無責任だと非難されている。

2021年になるとバイデン政権は「大きくいこう(Go Big)」と財政出動を決意する。これはインフレを招くのではないかと批判されてきた。

案の定この政策はインフレを招き2022年の中盤ごろからパウエル議長のもとで金利を上昇させてインフレを抑えようという方針になった。今回のシリコンバレーバンクの破綻はこの最初の犠牲者ということになる。規模の大小を問わず多くの起業家や企業経営者が影響を被ることになるだろう。だが、大統領は今度は財政を均衡化させるために富裕層から増税しようと言っている。

つまり別の銀行が破綻したり今回の件で倒産する企業が相次げばバイデン政権は大きな批判にさらされるだろう。すでにFRBは利上げをやめるべきであると主張する人も出てきている。逆に今回の件でより慎重になったFRBは利上げペースを弱めるだろうと主張する人もいる。

日経新聞は「利上げ加速、判断難しく 地銀破綻で不安配慮も―米FRB」と書いている。つまり状況は難しくなっているが利上げを加速させるか緩めるかはまだわかっていないということになる。

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