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トランプ前大統領が「私なら第三次世界大戦を防げる」と豪語したCPACとはどんな大会なのか

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トランプ前大統領がウクライナへの支援停止を主張したとか第三次世界大戦を防げると叫んだなどとニュースになっている。あまりにも断片的な情報が多かったため「一体どこでどんな文脈で?」と疑問に思った。そもそもこのCPACとはどんな大会なのか。

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共和党を支持してきた「保守」が過激化している。これがよくわかるのがCPAC大会だ。

時事通信は「「私なら第3次大戦防げる」 トランプ氏、米保守系集会で訴え」との見出しを打っている。あたかも世界が第三次世界大戦に突入しようとしているようなタイトルである。だが具体的にどうやって防げるかは書かれておらずさらにCPACがどんな大会なのかについての言及もない。

テレビ朝日は「トランプ氏「最優先でウクライナ支援停止する」 大統領への返り咲きに自信」と見出しを打っている。Yahoo!ニュースにも掲載されていることから最も多く閲覧されることになるのではないかと思われる。「え、アメリカが支援をやめてしまうの?」と早合点する人もいそうだ。このニュース映像の中でCPACは「共和党保守派」と表現されていることから共和党が政権を取ったらウクライナ支援をやめるのではと理解する人もいそうだ。

日経新聞は「ヨーロッパこそがウクライナ支援を行うべきだ」と主張したと書いている。見出しはテレビ朝日よりもややマイルドで「停止する」とは書いていない。同時にバイデン大統領の国境政策への不満について言及し「国境対策の方がウクライナよりも重要である」と主張している。

日本ではあまり馴染みのないアメリカの「国境政策問題」だが、背景には実は人口構成の変化がある。アメリカは白人が主人公の国ではなくなりつつあり、その非合理的な不満の吐口が国境問題なのである。アメリカ版少子化問題と言って良い。

ヨーロッパ系のアメリカ人(いわゆる白人)は有色人種に対して特に文句を言ってこなかった。低賃金労働者が多くアメリカの主役ではないと考えられてきたからだろう。

ところがアメリカには大きな変化が起きている。まず人口の上ではヒスパニック系が伸びており白人の割合が下がっている。白人がマイノリティになれば「民主主義」の性格上白人の政治的地位は低下する。さらにIT産業では中国系やインド系などが躍進しており経済的にも主役の座から転落する危険性がある。

これらの動きが押し寄せる移民問題と混同されており「国境政策さえ厳しくすればは白人がアメリカの主人公でいられる」と考えている人が多いものと思われる。アジア系の躍進はアジア系の努力であり白人人口の減少はいわばアメリカ版少子化問題である。本来合理的に考えれば別々の事象なのだ。

すでに白人の人口は減り始めており人口構成で言えば2045年ごろに50%を切るのではないかという予測もある。最も伸びが大きいのはヒスパニック系である。白人は引き続きアメリカで最も大きなエスニックグループではあるが過半数を維持できなくなり「ワンオブゼム」の一つになってしまうのである。つまり主人公の座から転落しつつあるということになる。

アメリカの主人公だった白人がその座から転落する。これに焦っている人たちがトランプ氏を「王」に戴いて大騒ぎしているというのが現在のCPACの現実だ。

ロイターも右翼系のCPACフォーラムでトランプ氏が演説したと説明している。いわゆるMAGA共和党が支配する大会になっておりここから距離を置いている共和党議員も多いという論調だ。「2020年の選挙は盗まれた」というような主張が繰り返されており過激化が進行している様子がわかる。共和党の穏健派はこの動きを苦々しく思っているようだ。

CNNはもっと過激な論調である。現在の共和党では民主党を打倒できないとして「ポール・ライアン、カール・ローブ、ジェブ・ブッシュ、ミッチ・マコーネル、ミット・ロムニー」などのエスタブリッシュメント共和党員の名前があがっている。

Bloombergは少し興味深い点からCPACを見ている。それがESGへの攻撃だ。このところ日本政府が「SDGs推し」のため日本のテレビ局もやたらにSDGsを扱うようになった。アメリカではESG(環境・社会・ガバナンス)という言葉が流行っているようだ。BloombergはESGはWOKEであるとするステッカーをトップバナーに持ってきている。

主役の座から転落しかねないと焦っている人たちがさまざまな断片的な情報を自分達の印象で編集し「アメリカを取り戻せ」と叫んでいる。内情はエスタブリッシュメント共和党意識高い系(WOKE)への反発である。

彼らは政治課題を合理的に捉えられないからこそ過激な中心を求めている。そのニーズにピッタリとハマってしまったのが「保守の王」ともいうべきトランプ氏である。

現在の日本の保守は自民党の中では非主流派に転落しつつあるため過激化の動きは一旦沈静化している。だが彼らが政治から消えたわけではない。むしろ潜伏期間が長ければ長いほどその反動も大きいのかもしれない。こうした動きを抑えるためには一般の政治リテラシのレベルを上げてゆく必要がある。だが、そうした取り組みが行われている形跡はない。さらに言えばアメリカの共和党が一部の過激な人たちを排除できなくなっているように10年後の自民党にも同じ動きが起きる可能性はある。

よく「アメリカの今は日本の10年後」などと言われる。

今のところ「俺なら第三次世界大戦が防げるぞ!」というのはかなり突飛な主張にしか思えないが、10年後の日本で同じことを言い出す政治家が出てこないとも限らないということになる。

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