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なんだ日本はやはり徴用工問題解決のためにカネを払うのか……

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徴用工問題が「解決」し日韓関係が正常化に向かう。そんな流れになっている。すでに議連トップに菅義偉元首相が就任し日韓の首相会談も予定されているようだ。バイデン大統領も日韓の雪解けを歓迎した。しかしその裏で「日本企業からお金を韓国に渡す」という話も進んでいる。「未来志向の基金」を作ってそこにお金を流すようだ。韓国側は自発的な寄付も大歓迎と言っている。日本から見れば「なんだ日本企業は金は出すのか」となる一方で韓国側には「なんだ謝らないのか」と反発する人も出てくるだろう。中には米韓関係修復の踏み台にされたという声もあるようだ。

本当にちゃぶ台返しはないのか。何かとスッキリしない日米韓関係について調べてみた。

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徴用工問題は日韓関係の最大の障壁になっていた。韓国司法が朝鮮半島が支配されていた時代の問題に対して「現在の日本企業」に責任を取らせようとしたことが原因だ。

この対抗措置として日本が貿易の厳格化に動くと日本製品の不買運動が起こる。民間がやったことになっているようだが背景には文在寅政権の影がちらついている。実は韓国の若者はこの動きを面白くないと思っていたようだ。日本製品が大好きだが政権に反旗を翻して目立ちたくないという人たちも多かったようである。これが2018年から2019年ごろの動きだった。

若者や主婦はすっかり韓国に夢中だ。だが「ネット系保守」の支援を背景にしている安倍政権下では一部に「日本は絶対に謝るべきではない」という反発もある。。おそらく岸田政権はアメリカから「日韓関係を正常化させるように」という要求を受けていたのだろう。防衛費増額・増税問題からもわかるようにアメリカの依頼には弱い政権と言えそうだ。

いずれにせよ結果的に、経済活動を再開したい経済界、関係修復を狙うアメリカ、韓国文化に夢中な主婦や若者などの存在が大きくなり、韓国との関係を断ち切るべきだという人たちの存在感はすでに消えかけている。

おそらく韓国も同じような関係修復の圧力を受けていたに違いない。こちらも財界、アメリカ、実は日本製品が好きな若者などがいる。

この「解決」を受けて尹錫悦大統領の訪米準備前に問題の解決を打ち出した。バイデン大統領は興味のない課題には全く反応しないのだが今回は早々と声明がでた。背後にアメリカの意向があることは間違いがない。「問題が片付いた」ということでようやく国家安保室長が出張しバイデン・尹錫悦会談に向けた準備が始められることになったようだ。国家安保室長が訪米する。

日本はこの動きが世論から反発されないようにそれなりに計算をしていた。大きく目立ったのは徴用工問題を解決すれば日本は「従来通りのお詫びと反省」をしますという読売新聞の観測気球的記事だった。大きな反発は出なかった。また日韓関係が修復しても文句が出ないよう党内実力者の菅義偉元首相を議連のトップに据えた。さらに岸田総理もなんらかの形で在日コリアンへの共感を示したいとしていた。利権を確保する派閥的な動きだがアメリカの意向を背景にして雪解けムードを演出したいという狙いもあるのだろう。

さらに岸田総理は日韓首脳会談に向けて調整に入った。世論の反発が広がらないうちにさっさと既成事実を作ってしまおうという気運がある。

岸田総理は国内保守の反発を恐れ「絶対にカネは出さない」という点にこだわっていたようだ。逆に言えば韓国側から最後まで「少しでもいいから出してくれ」という要請があったことがわかる。

産経新聞も時代が変わったことはわかっており表立って日韓関係の修復に異を唱えることはしていない。論調としては正式な合意ではないのだからまだどうなるかわからないという書き方になっている。政権が変わればまた合意が覆されるのではという記事もある。

しかしながらこの産経新聞が伝える未来志向の「基金」は韓国では「日本は形式上お金を出せないから別の形で支出するのだ」と説明されているようだ。

聯合ニュースは「日本は死んでもこの問題ではカネを出せないという立場だ」と説明する。つまり別口寄付で我慢してくださいということになる。

この日、韓国政府は政府傘下の財団が日本の被告企業の賠償を肩代わりする韓国主導の解決策を正式に発表した。同高官は記者団に対し、日本側の同問題を巡るスタンスについて、2018年の韓国大法院(最高裁)の判決が国際法や1965年の韓日請求権協定に反するものであり、韓国が合意を破ったという結論を出していたとし、「(日本の被告企業が賠償に加わることは)死んでもできないというのが最初から日本の立場だった」と説明した。

中央日報も日本の世論を背景に「補償は別ルートでこっそりやってくださいね」という解決策なのだという説明になっている。林外務大臣も「日本政府が自発的に寄付をするのは容認します」と発言していることから両者の平仄(話のつじつま)はあっている。おそらく裏で話ができているのだろう。

ポスコなど韓国の請求権資金恩恵企業は政府などから寄付金出資要請を受けることになれば具体的な議論に着手するという立場を見せている。被告企業の日本製鉄と三菱重工業はひとまず判決金調達には参加しないと伝えられた。ただ韓国が賠償金を財団が代わりに支払う解決策を正式発表すれば日本政府は日本企業の財団への寄付を容認するだろうと日本メディアが報道した。

韓国媒体の記事を読む次のような理屈になっている。まず徴用工の問題を解決するのは日韓合意で恩恵を受けた韓国大企業である。日本は表立っては死んでもお金は出せないという立場なので「今は」出していない。しかし一旦合意がされれば話は別だ。自発的寄付という形で負担して貰えばいい。

こういう理屈なのだ。

日本側から見れば「やっぱり金は出すのか」ということになる。

なぜこれが問題なのか。まず日本側から見ると「そんな話は聞いていなかった」という感覚になる。確かに事前には話は出ていない。なぜならば「それとこれとは全く別」だからである。岸田政権は大きな看板を出してあとで「それとは別の話」が出てくることが多い。今回もまたその一つの事例となった。

だが韓国側から見ると「謝りたくないからといって札束で被害者の頬を叩くのか」という別の印象が生まれる。実際に韓国メディアの反応は割れているそうだ。中には「直接謝罪」にこだわる被害者団体もある。このまま日本企業の資産を差し押さえると宣言している人たちもおり「合意はなされたが結局日本企業の資産が差し押さえられる」可能性がある。

時事通信のこの記事の原告支援団体が原告全員をカバーしているのか一部をカバーしているのかはわからないが、少なくとも尹錫悦大統領の見切り発車であったことは間違いがない。岸田政権はこれにコミットしてしまった。

元徴用工訴訟の原告支援団体は6日、韓国政府の解決策を批判し、日本の被告企業の資産を売却する「現金化」に向けた司法手続きを続けると発表した。

韓国では反対集会が開かれた。日本は旭日旗にバツがついており岸田総理が批判されているわけではない。一方で、バイデン大統領と尹錫悦大統領の顔にバツがついておりこの解決が訪米前の尹錫悦大統領の調整であると理解されていることになる。つまり米韓関係正常化のために踏み台にされたと考えている人たちがいるのだ。

おそらくリーダーシップが欠如した尹錫悦大統領の解決策は禍根を残すだろう。またこれにコミットしてしまった岸田政権にも火の粉が飛びかねない。

日本政府はこれまでも「絶対謝るな」という日本国内の一部の声と「そんな問題はさっさと解決しろ」というアメリカのプレッシャーの間で「お金で解決する」というようなことをやってきている。これは「誠意はないが揺さぶればカネになる日本」というあまり良くない日本政府像を作り出しているはずだ。

民主主義国の韓国は世論によって動くことが多い。つまり尹錫悦大統領が世論を動かすことができなければいつものような「ちゃぶ台返し」が起こりかねない。仮に「ちゃぶ台返し」が起こればおそらく日本の世論の反発は岸田政権にも向かうだろう。

実はちゃぶ台返しの兆候が出ている。ロイターは次のような記事を出している。ロイターの記事の主題は「WTO紛争解決手続き」である。今後の協議次第と言っているが韓国世論も気にしている可能性がある。

韓国産業通商資源省当局者は「手続き中断は、取り下げではない。一時停止だ」とし、今後の協議次第では再開もあり得ると述べた。

ただ、日本国内にはそれほど大きな反対運動がない。安倍後を牽引する中核的な情報発信源がネット系保守にないからだろう。政界の人たちが岸田政権に大きく反論すれば自分達の地位に影響が出る。このため言論界が担ぐことができるような人たちがいないのだ。稲田朋美さんのようにすっかりリベラルに鞍替えした人もいれば高市早苗さんのように別の問題で身動きが取れない人もいる。

メディアがある程度世論形成をしないかぎりネット保守が自分達で反論がを組み立てることはできない。このため、今の所「Twitter世論」はこの問題を無視しようとしているようだ。

本来関係がない動きなのにそれを結びつけるとは……という合理化の試みが散見された。反発を韓国メディアに向け「あんなのは嘘なのだ」と自分達を納得させようとしているようだ。

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