トルコの野党連合が分裂した。「やっぱり」という気もするのだがやはり「なぜチャンスを生かしきれないのだろうか」という残念な気持ちもある。あまり地味で人気のない人が統一候補になり「それでは勝てない」と一部政党が離脱した。
トルコは中東の中進国だがこのところ経済がかなり危うい状態にあった。
経済成長は続いているのだが格差が拡大している。国民の不満を抑えるために政府は財政支出を増やしていた。金融市場は政府信任せずリラが下落する。このためインフレが加速していたのである。
それでも国民の気持ちをつなぎとめるため年金改革や住宅供給政策などのなりふりかまわないバラマキを展開している。経済運営には失敗しつつあるがそれを認めるわけにはいかないのだ。
そんなエルドアン大統領に今とんでもない逆風が吹いている。
大地震が起こり数万人規模の死者が出た。死者が増えた原因の一つとされるのが耐震基準問題だ。地震国のトルコには厳しい耐震基準がある。だが、お金を払えば耐震基準を甘くしてもらえるという決まりがあった。さらに今回の地震で次々と耐震偽装問題が明らかになっている。政治的人災であることは間違いがないが大統領と議会側は建築業者を逮捕して批判をかわそうとしている。
だが、トルコの野党がまとまりきれていない。統一候補が立てられていないのだ。
野党の当面の目標は憲法改正だったようだ。憲法改正の目的は大統領権限の縮小だ。つまり議会主導を取り戻そうというのが共通の課題になっていた。過去に日経新聞が記事を書いている。
高いインフレに嫌気したトルコ国民は野党支持に転じていた。だが、政権与党側がなりふり構わぬバラマキ政策を実施したことで与党に支持が戻る。しかし原資はすぐに尽きてしまうことが予想されているため「大統領選挙を早めるのでは」という観測さえあった。
野党連合の課題は誰が野党連合を率いるかである。議会制民主主義化で政権を担ってきた中道左派の共和人民党(CHP)が中心になっておりその他少数政党が5つ参加している。大統領候補はイスタンブール市長のイマモール氏とアンカラのヤワシュ市長が有力候補とされていた。どちらもCHPの所属である。
選挙は5月14日の予定だが2023年1月に入ってもまだ野党の統一候補が決まっていなかった。
3月に入りいよいよ「統一候補を発表するぞ」ということになり期待が高まっていたのだが、結局、民族右派の優良党が離脱したようだ。
ロイターの記述はややわかりにくいのだが、優良党は「自分達を統一候補にしろ」と言っているわけではない。勝てる見込みのあるイスタンブール市長かアンカラ市長を候補にしろと言っていたようだ。だがCHPのクルチダルオール党首は「自分が出る」と主張したようである。
このクルチダルオール氏はどんな人物なのか。
クルチダルオール氏(73歳)はウォール・ストリートジャーナルに「再選を目指すトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は、これまでで最も厳しい状況に直面している。有力な対立候補は眼鏡をかけた元会計担当者で、政策には強いがカリスマ性に欠ける人物だ。」と書かれている。「エルドアン経済学」を振り回しトルコ経済を弱体化させたエルドアン氏よりはまともな人物なのだろうが、どうやら面白みのないパンチのきかない人だとみなされているようである。FTにも「温厚な物腰と選挙での不振ぶりを冷笑されてきた」と書かれている。
一方で、有力候補と言われるイマモール市長は公務員屈辱罪で禁錮刑と政治活動禁止の判決を言い渡された。ただし刑期は確定しておらず大統領選挙以降の判決になる可能性があるとされる。政治的な権威失墜の妨害工作である可能性が高い。検察は1月に入り入札談合の関与でイマモール氏を起訴した。司法・検察をエルドアン大統領が抱き込んでいることがわかる。こちらも「政治活動の禁止」を求めており、政治的な意図があることは確実である。
権力を議会に取り戻すためにはまず「スター」を見つけてこなければならない。当然新しいスターは現在のスターに睨まれて潰されそうになる。一方で議会主義の国のリーダーはやはり仲間内では人気があるがカリスマ性がない人になりがちだ。そもそもエルドアン氏が徐々に支持を伸ばしてきたのは自分達の価値観を援護してくれそうなカリスマ性のある政治家を国民が求めたからだろう。
「大統領制か議会制」というのは民主主義体制の永遠の課題だ。なかなか最適な答えは見つからない。