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「価値観」を軽視する岸田総理はそろそろ外交上も問題になり始めているのかもしれない

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BBCが「岸田首相、同性婚を認めないのは「国による不当な差別でない」と発言し批判される」という記事を掲載している。国内から批判の声が相次いでいるという書き方なのだがこれはBBCが批判的に見ているというのとほぼ同じ意味だろう。「みんなが言っていますよ」という日本人もよく使う手法だがBBCも同じようなことをするのだなと思った。

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記事の内容は「同性婚を認めないのは差別ではない」としたことに対する反発である。きっかけは「同性婚を認めると社会が変わってしまう」という岸田総理の答弁書にない発言だった。これが自民党がLGBT理解増進法案に抵抗した問題とリンクされた。さらに、これを庇うつもりで荒井首相秘書官が「オフレコ差別発言」をして大騒ぎになっていた。

自民党が世間の感覚からずれていることは間違いないのだが、この手の問題は「スルー」されてきた。政治にあまり期待しても仕方ないと考える人も多いからだ。ところが総理大臣の「不規則答弁」をきっかけに掘り起こされてしまい、現在では「そう言えば自民党は夫婦別姓にも後ろ向きである」としてキャリアを継続したい女性からも離反されつつある。

さらに一連の発言を修正するはずが木原官房副長官が「出生数がV時回復すれば予算もすぐに倍増ですよ」などと言い出している。こうなると政権に親和的な媒体も庇いきれない。

一度露見したセンスの微妙なズレを修正するのはなかなか難しい。

それにしても……と思う。つまりこれは国内問題であり外国からとやかく言われる筋合いはないのではないかということだ。

なぜ「外国」はこの問題をそんなに重要視するのか。

日本と欧米の政治に対する捉え方の違いに起因する。日本人は政治を「利益分配」で捉える傾向がある。つまり損得の問題なのである。ところが欧米には「イデオロギーや価値観が重要だ」と考える人も多い。国際政治ではこの価値観の問題こそが重要であると考える政治学の一派まである。構成主義などと言われるそうだ。特にヨーロッパの政治家が環境問題や人権問題に対する発言が多いのは、ヨーロッパ人が「価値観こそが重要」と考えている証拠である。

つまりBBCの発言は「意識高い系のBBCが岸田総理をいじめている」というような問題でもないのである。むしろヨーロッパ的な価値観を代表していると言って良いだろう。

その国が自分達と価値観を共有しているかは国防上も極めて重要だ。それはウクライナに対する欧米の支援を見ても明らかだ。ヨーロッパにとっては対ロシア防衛という意味もあるが「価値観が同じなのだから支えてあげよう」という人も多い。

おそらく岸田総理自身は自分のことをリベラルな政治家であると誤認してしまっている。狭い自民党の中で比較すればあるいはそう見えるのかもしれない。右傾化が進んでいる安倍派などから見れば「極めてリベラル」である。だがこれが却って外の世界との感覚のズレを強調する結果になっているようだ。

おそらく世襲が多い自民党の中にある独特の価値観や世界観は外の世界から大きくズレている。

林外務大臣はG20に欠席を決めインドメディアから批判されているそうだ。日本はもともとG7における唯一のアジアの代表という位置付けだ。インドは自分達こそが「発展途上国の代表である」と自負しておりG20の外相会議のホストを務めていた。日本の国益を考えればこのイメージを守ることは極めて重要だったはずである。

林外務大臣は「途上国との関係などどうでもいい」とこの会議をスキップしとにかく中国さえ囲い込めればいいとばかりにクアッドには出席した。心理的に「アメリカに従属していればとにかく安心だ」という価値観が刷り込まれているのだろう。

それでも林さんが神妙な顔をして入ればまだ傷は浅かったかもしれない。クアッドのあと記者団に「クアッドはビートルズだ」と答えたそうだ。クアッドには明らかに中国囲い込みを念頭においた準軍事同盟的な狙いがある。防衛大臣ではなく外務大臣としてわざわざクアッドにだけ参加しているのだから「一体日本はこれをどう考えているのだ?」と説明を求められても何ら不思議はない。

AFPはこのやりとりを「「クアッド」はビートルズ? 林外相が比較」と疑問符付きで表現している。この「?」に「え、何を言っているの?」というニュアンスが滲む。洋楽好きの「イケている政治家」としての自信をアピールしようとしたのだろうが、この人もどこか感覚がズレている。

日本人は政治にさほど期待せず「まあこんなものか」と諦めてみているのではないかと思うが、世界に向けてズレが拡大して発信されると国益を損ないかねない。だが、この「センス」は最も修正が難しい。そもそも本人たちがズレていることに気がついていないことが多いからである。

いずれにせよこのセンスの極めて微妙なズレはG7までには政治家によって修正される必要がある。このままでは外交大惨事につながりかねない。岸田総理は早速インドを訪問することにしたそうだ。ある政府関係者は「今回の林大臣のことが関係ないわけではない」と語っています。と伝わっており、センスのズレから余計な仕事が次々と生まれていることがわかる。

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