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イスラエル財務大臣の「村ごと消滅」発言にアメリカ合衆国が慌てる

アメリカの報道官がイスラエルの財務大臣を批判したというロイターの小さな記事を見つけた。確かにイスラエルは最近右傾化しているがなぜ財務大臣が批判されたのかと違和感を感じる。

発言の内容は「西岸の村の消滅」でありプライス報道官がネタニヤフ首相に撤回を要求している。消滅とは穏やかではないが西岸の村の殲滅が財務大臣の仕事とは思えない。またなぜ財務大臣を批判せず首相に撤回を要求したのかも気になる。

背景を調べてみた。

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ウォール・ストリートジャーナルの2023年1月5日の日本語版に記事が出ていた。スモトリッチ財務大臣は西岸の巨額なインフラ投資を行う計画を打ち出した。極右の宗教シオニズム党首であり財政の専門家ではなさそうだ。宗教シオニズム党は西岸に100万人の入植地を作ろうとしている。つまり、これまで苦労して作り上げられてきたイスラエル・パレスチナの二国体制をそもそも否定しようとしていることになる。これまで宗教シオニズム党は過激な野党勢力に過ぎなかったが今では政権の一翼を担っている。

ネタニヤフ首相自身はアメリカに配慮して「西岸の併合はしない」と言っている。だが、スモトリッチ財務大臣は「こっそりやれば批判は回避できる」などと主張しているようだ。形式的に併合せず実効支配を強めてゆけばアメリカも文句は言わないだろうというわけである。イスラエルを甘やかし続けてきた結果アメリカ合衆国はイスラエルになめられているということがわかる。

現在の構成はイスラエル人50万人・パレスチナ人250万人という構成だという。スモトリッチ財務大臣の提案に従えばイスラエル人にはイスラエル国内と同じ権利が認められる一方でパレスチナ人には権利が与えられない。これは民族差別(アパルトヘイト)と見做される可能性がある。イスラエルがアパルトヘイト国家になれば国際社会からの批判がアメリカに向かいかねない。

イスラエルはパレスチナ人地区への攻撃を強めている。イスラエル政府とパレスチナ自治政府は暴力の激化を止めるため共同声明を発出した。アメリカの中東担当顧問であるブレット・マクガーク氏とエジプトの代表者が参加したことから国際社会からイスラエルに対して圧力がかかっていることがわかる。BBCによると今年に入ってすでに60名以上のパレスチナ人がイスラエル軍によって殺されている。イスラエル側の死者も13名出ている。

この構成は何かに似ている。それがロシアとウクライナの関係だ。いうまでもなくイスラエルがロシアでパレスチナがウクライナということになる。イスラエルを保護するアメリカは明らかにここでは「抑圧者」の側にいる。この時の協定では「入植地建設議論を4カ月間停止する」との約束になったようだ。これが2023年2月27日の時点の話である。

この時の記事ではすでにスモトリッチ財務大臣の「入植地の建設や開発を凍結することは、1日たりともありえない」という発言が紹介されている。つまり国際社会はいろいろとやかく言ってくるだろうが自分は考えを変えないぞと言っている。

しかしながらこのニュースには一つ大きく欠落した情報がある。過激な発言を繰り返しているとはいえなぜスモトリッチ氏の発言にそれほどまでに注目が集まるのかという点だ。アラブニュース日本語版が2023年2月25日に「国防省を監督する役割を与えられた」と書いている。つまりスモトリッチ氏は実質的に軍も指揮しているのだ。国防大臣は別にいるため「役割を分担」しているのだという。アラブニュースの記事を読む限り入植地に関する軍の権限を握ったものと見られる。

「財務大臣が植民地軍の権限を握りました」というような話だ。これを戦前の日本と朝鮮半島の話に置き換えればどれほど異常なことかが伝わりやすいかもしれない。

仮にこれが本当だとするとネタニヤフ首相は自分の地位を守るために併合主義者を国際的には必ずしも承認されていない入植地の「内務大臣」扱いしていることになってしまう。西岸ではイスラエルの法律が適用されることになるだろうなどとも言っているからだ。この行動によって入植者たちは「勢いづいている」とされておりパレスチナ人の財産に対する攻撃を激化させているのだそうだ。パレスチナ人の恨みはあるいは数世代にわたって続くかもしれない。

アメリカが入って仲介をやったにも関わらずイスラエルの財務大臣の権限が入植地に拡大し止められなくなっていることからアメリカの威信と治安維持能力がかなり低下していることもわかる。

ここまで見てくるとアメリカのプライス報道官が「スモトリッチ発言」を認めないようにネタニヤフ首相に働きかけたという報道も「それは当然だ」と思える。放置すれば大炎上しかねない。特にウクライナに関するアメリカの発言は信頼されなくなるだろう。

「民主主義を守る戦い」を続けるアメリカ合衆国の国力低下は我が国の安全保障を考える上でも極めて大きな問題だ。だが、この問題は日本国内ではまだそれほど大きく取り上げられていない。国際問題といえばウクライナと台湾有事だけだと考えている人も多いのではないかと思うがイスラエルの情勢もまたかなり悪化している。

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