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虎視眈々と和平交渉ゲームを仕掛ける習近平国家主席の狙いは何か

ウクライナ問題解決の最優先順位は何か。人によって答えは異なるだろう。ウクライナの人々の暮らしが一番だと考えるなら今回の中国の和平交渉案は非常に良いニュースである。ここでは和平交渉が「良いこと」なのか「悪いこと」なのかを考える。さらにアメリカのバイデン大統領がなぜ物事を優位に進められなかったのかについても考察する。

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中国がウクライナの状況を改善すべく和平交渉に乗り出した。和平提案というより中国の立ち位置を示したものに過ぎないとみられておりNATO/EUとアメリカからはほぼ黙殺されていた。一般的過ぎて具体的な内容がないという評価だ。

ただ、この状況は大きく変わった。ゼレンスキー大統領が習近平国家主席に会う意向を表明したからだ。戦時下の大統領としてゼレンスキー氏は非常にしたたかに動いている。アマチュア政治家であると言う評価もあるがこのバランスの取り方はなかなか侮れない。

  • 和平提案とは認めない。
  • 中国はロシア側につくべきではない。仮に中国がロシア側につけばこれは第三次世界大戦だ。
  • 西側はウクライナの要求に従って早急に支援すべきだ。

日本のメディアは「これは和平案ではない」という点を強調して書いている。裏返せばこれが和平案に格上げされることの危険性をよくわかっているのだろう。時事通信読売新聞がこの点を強調した記事を書いている。

BBCはゼレンスキー大統領の「同盟国が「約束と期限を尊重する」なら、勝利は「間違いなく我々を待っている」と述べた」という一説を紹介している。ゼレンスキー氏が中国の提案に乗ることで西側の危機感を喚起していることがわかる。

仮に中国の路線で和平案が進むと「特別軍事作戦によってロシアが一定の成果を得た」形になってしまう。これは西側にとっては好ましくない。特にアメリカ合衆国にとっては、民主主義の優位性を守り抜くことが第一優先である。これがバイデン大統領が掲げる「民主党が民主主義の守護者になっている」というメッセージとして国内向けに利用できるからだ。

ただこの点を強調しすぎると「アメリカはウクライナの人々を後回しにして国益に固執している」と思われかねない。

ブリンケン国務長官は中国の提案に惑わされてはいけないと懸念を表明しバイデン大統領は「合理的ではない」と言っている。バイデン大統領は「ロシアにしか利益がない」と表明しているが、これはつまり「アメリカの利益にならない」と言うことなのだろう。確かにこれは民主党の利益にならない。ロシアに一定の「戦果」を許した大統領として共和党から非難されることになってしまう。

ではバイデン大統領はなぜこのような事態に追い込まれたのか。原因は、伝統的な議会制民主主義の手法にある。二大政党制のアメリカの議会政治は敵を攻撃することによって味方の結束を高めると言う手法を多用してきた。これは東西冷戦下では非常に効果的なやり方だった。東側の脅威を喧伝することで西側の結束を高めることができたからだ。

老練な議会政治家であるバイデン氏は「第三極の登場」に対処できなかった。しばらく対立を傍観し後から自分達の主張を織り込んだ提案を入れた方が交渉上有利な立場に立てるのだ。アメリカも西側もすでに多額の支援をしている。これが「埋没コスト」になっており支援をやめられなくなっている。第三極が登場すると第二極もプレイヤーという地位に固定されてしまうのだ。わかりやすく言えば「後出しジャンケン」に負けてしまうのである。

東西冷戦に西側が勝利したのは経済的に圧倒的な差がついたからである。現在の経済制裁ゲームはこれを再現しようとする試みである。つまり西側は前に勝ったゲームをやりたがっている。中国はこれを崩そうとしている。もうそのゲームは成り立ちませんよと言っているのだ。

中国のやり方は徹底している。国連安保理・総会でも西側の姿勢に同調していない。さらにG20でもロシア非難と経済制裁に反対し続けている。G20の財務相・中央銀行総裁会議の議長国はインドなのだがインドも賛成していなかった可能性がある。西側から見るとこれらの国はロシアに味方しているように見えるが、実は第三極として調停者の役割を狙っている。

ブリンケン国務長官は国連憲章の弱体化につながると言っている。これはまさしくその通りだろう。アメリカとヨーロッパの戦勝国が主導して作った体制であり、中国がこのルールを変えたがっているのは明らかだ。だが従来言われているような軍事力を使った現状変更ではなく「国際ルールに従って」チェスカ将棋のようにルールを変えようとしていると言える。

第三極への対処経験がないアメリカは勝てるゲームの法則を見つけられない。日本でも東西冷戦型の二極構造で国際政治を語る人が多い。

例えば習近平は「次のプーチン」になるから台湾が危ないという論調がある。仮に中国が第三者的に和平に成功してしまうとこのシナリオは成り立たなくなってしまう。さらに提案の中で中国は国際法の遵守というようなことを言っている。

いっけん台湾への侵攻を諦めたかに見える。

この提案をそのまま書いた記事はほとんどない。「一般的すぎて評価の価値がない」と見做されているからである。だが、よくよくルールを見てみると「主権国家」に対して適用されるとしかいっていない。台湾は主権国家ではないと最初に宣言したのはアメリカ合衆国だった。ベトナム戦争からの撤退のために中国の支援を期待したためとも言われている。このラインに沿うとアメリカがなんと主張しようが「台湾を主権国家並みに扱おうとするアメリカ」が現状変更を目指していると解釈することも可能になる。これは台湾有事が日本有事に結び付けられている日本の安全保障上はあまり良い兆候とは言えないだろう。

さらに中国が新しい調停者として国際法のルールの解釈に参加するというのも危険性が高い。シーレーンの防衛において中国が自国に都合の良い解釈を主張できる足場を与えてしまう。

形式上はウクライナの意向が最優先ということになっている。このためウクライナが望むならアメリカは中国の介入を阻止できない。さらにロシアカザフスタンもこの提案を評価しているようだ。ウクライナの人々を理不尽な攻撃から解放することを第一優先と考えるのならば、どんな形であっても和平交渉が成果を上げることに期待したい。

ただ、西側にとってはこれはかなり良くない兆候である。ロシアが一定の成果を上げたとなれば、おそらくこれまで完全勝利の見込みを説明してきた各国の首脳は窮地に立たされるだろう。

バイデン大統領に果たして「次の一手があるのか」に注目が集まる。日本の国益や国際地位の保全のためにも次の一手は非常に重要だ。

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