トルコとシリアでの地震被害は日に日に拡大している。連日建物が倒壊した現場の映像が流されて東日本大震災当時や阪神淡路大震災当時のことを思い出している人も多いと思う。それにしてもなぜ建物倒壊が多かったのかと疑問に思っている人もいるだろう。BBCが背景を解説している。
トルコとシリアで起きている地震の犠牲者は21,000人を超えた。東日本大震災の死者は警察庁の発表では15,900人とされているそうだが(死者数1万5900人 東日本大震災11年、警察庁まとめ)それよりも多い。倒壊した建物の犠牲になった人が多かったようである。
もちろん地理的な要因は大きい。アナトリア(トルコのある半島)とアラビアのプレートの境界がありアフリカからのプレートが潜り込んでいる。最近大きな地震は起きていなかったそうだが突然動いたことでこのような大災害になった。
ニュースを見ていてなんとなく「中東なので耐震基準がいい加減なのだろう」と感じている人は多いかもしれない。しかしトルコは1999年に17,000人を超える被害者を出した地震を経験しており2018年に新しく定められた耐震基準があったそうだ。
ところが実際に地震が起きてみると「最新資材と技術者を使って建てられています」という建物が多く倒壊している。つまり偽装されていた可能性が高いようだ。耐震基準は作っただけでは機能しない。むしろその後の行政による管理監督が重要である。この監督機能がうまく機能していなかった可能性が高いということになる。
しかしながら問題はそれだけではなかった。
トルコには安全基準免除をお金で買うという不思議な仕組みがあった。おそらく偽装による見逃しは違法だがこれを合法的に行えるようにした可能性が高い。つまり政治家の関与が疑われる。
さらに数日前には新しい免除法が議会を通過したばかりだったという。おそらく「今の基準法は厳しすぎるから」という理由で免除を与え住宅不足を解消しつつ地元の建設会社に配慮するような法整備が行われていたものと思われる。
普段紹介するトルコのニュースは貧困層の生活に焦点を当て「急激なインフレで貧困層の生活が圧迫されている」とするものが多い。だが実際には経済成長が進み中間所得層が増えているようだ。
中間所得層に住宅を供給するためには住宅金利を低く抑える必要がある。おそらくこれがエルドアン大統領が経済学の常識を無視して低金利政策にこだわる理由の一つだろう。これまで変えていた家が金利上昇で買えなくなったとなればおそらくその不満はエルドアン大統領に向かっていたはずだ。
Bloombergが「トルコ地震の住宅倒壊、建築ブームで安全基準犠牲か-大統領にも批判」という記事を書いているように近年のトルコは住宅建築ブームが起きていた。また政府補償を入れて取り残される低所得者のための住宅供給なども行ってきた。
こうした甘めの耐震基準は政府の目をごまかすことはできても自然のテストには合格ができなかった。こうしてトルコの人身被害は人災として拡大したのである。
BBCは記事の中で日本の耐震基準の徹底とトルコの実情を比較している。日本の政治には問題も多いが地震対策の分野ではきちんと基準が守られているということがわかる。