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バイデン大統領はなぜ一般教書演説で「嘘つき」とヤジられたのか

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バイデン大統領が2回目の一般教書演説を行った。日本では外交安全保障の部分だけが報道されたが実際には付け足し程度だった。主にテーマは国内の経済問題と共和党との協力関係構築だ。この時に大統領は共和党議員から「嘘つき!」とヤジられた。一体何が起きたのかを調べてみた。

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バイデン大統領の2回目の一般教書演説が行われた。自身の経済政策は極めてうまくいっているがより充実させるためには共和党の協力が必要であるという内容だ。BBCロイターが要旨をまとめている。

ところがここで「嘘つき!」というヤジが飛んだ。また共和党側は民主党の政策は意識高い系(wore)の幻想であると反論した。協力関係の構築は難しいようだ。

バイデン大統領は共和党にはソーシャルセキュリティ(社会保障)を廃止したい議員がいるから共和党の協力が得られない状態が続けば一般国民のための社会保障がなくなるだろうと主張した。ロイターが日本語の記事を出している。

この発言を通じてバイデン大統領は共和党は富裕層優遇政党であり富裕層の負担を減らすため一般国民の社会保障を犠牲にしようとしているというような印象をつけたかったのだろう。一般国民の敵であるというポジションを作ろうとしている。

では実際にはどのような提案があったのだろうか。

この提案をしたのはトランプ派でフロリダ州選出のリック・スコット氏だ。提案は「アメリカを救う11項目の計画」にまとめられている。ワシントンポストによるとこの主張は民主党が共和党を攻撃する材料として用いられてきた。今回もその延長ということになる。

共和党側の上院院内総務であるマコネル氏はこの発言を即座に否定した。また多くの共和党議員たちも否定的な考えを示している。日本で言えば「年金や国民健康保険を廃止します」というような暴論であり受け入れられることはなさそうである。

ただ、リック・スコット氏はトランプ前大統領の支持を受け上院院内総務選挙に出馬し10票の賛同票を得てもいる。共和党内部に脱トランプを図りたい人たちとそれに抵抗したい人たちがいることがわかる。

バイデン大統領は一部のトランプ系共和党議員を穏健派から切り離した上で協力を求めるという戦略を取ることもできた。だが実際には共和党の一部の極論を持ち出しそれを全体に当てはめようとした。相手への対する虚偽の攻撃のためにはよく用いられる手法であり議論のやり方としては非常に問題がある。そもそも穏健派がこれでバイデン大統領に協力姿勢を取るようになるとは思えない。「選挙で全員負けてくれればいい」と思っているのかもしれないが実際に負けているのは民主党の側だ。

ではバイデン大統領が一方的に悪いのかということになる。ところはそうはならない。CNNが一般教書演説のファクトチェックをしている。

そもそもバイデン大統領がこの問題を持ち出しているのは、共和党支配の議会が債務上限拡大後ろ向きだからである。共和党は2024年の大統領選挙を有利に運ぶためにバイデン大統領の得点になりそうな経済政策を潰したい。そこで債務上限を人質に取って経済政策を取り下げさせようとしている。

ではそもそもアメリカの債務が膨らんだのはどうしてか?

CNNはトランプ大統領の影響を指摘する。トランプ前大統領は大規模な減税を行なっている。主に恩恵を受けるのは富裕層である。そして現在積み上げられた借金の25%近くは実際にトランプ政権時代に積み上げられたものなのである。

アメリカでは格差の拡大が進んでおり政府の介入なしには再分配ができない。資本主義が分厚い市民階層によって支えられると考えるならば、アメリカの民主主義と資本主義は破綻しかけている。

富裕層を優遇したいという本音を持つトランプ大統領と共和党は大規模な減税をやり政府債務を拡大させた。この後、COVID-19のパンデミックが起きてバイデン大統領が大規模な支出を行った。この政府支出が市場に溢れ他の経済的要因と結びついてインフレにつながってゆく。バイデン政権は最初はこれを無視していたが現状を追認することになった。一般市民の生活に影響が出てきたからだ。FRBはインフレ抑制策を取ったが、これが金融市場に「冬」をもたらした。現在この高金利政策をいつやめるのかという点が問題になりつつある。

政府は政治に大きな影響を与える高所得者を優遇する。これにより副作用が起きると今度は低所得者が主に経済被害を受けるというような状態だ。だが共和党も民主党もこうした構造については語りたがらない。

いずれにせよ政治家たちはこの庶民の怒りが自分達に向かないようにお互いを罵り合っている。情報に晒された国民はこの罵り合いに参加しておりそれを「政治参加だ」と誤解させられているということになる。

共和党側は民主党の政策は「意識高い系(wore)」であるとバイデン政権を批判した。国境問題やインフレ対策には関心がないのに環境問題など「意識高い系の幻想」にばかり熱心だというイメージを作りたいのだろう。共和党は富裕層と結びつけて攻撃されるが、民主党は「生活に余裕がある意識高い系」と結びつけられる。お互いに中間所得層の支持を勝ち取ろうとして罵り合いを続けていることになる。

アメリカ国民はこうした状況にはすでに慣れているものと思われる。2020年の一般教書演説ではペロシ下院議長(民主党)がトランプ大統領の原稿を破り捨てるというパフォーマンスを行った。そもそもState of the Union Addressという言葉とは裏腹にアメリカの分断状態を確認する儀式になっている。

日本ではこの一般教書演説は安全保障の部分だけが抜粋された。バイデン大統領は気球問題を念頭に「中国の脅威からアメリカを守る」と語ったという部分だ。しかしながら実際の安全保障上の脅威はアメリカ民主主義の不調とバイデン大統領のリーダーシップの欠如にあるものと思われる。バイデン大統領は自分の非は決して認めず雑なイメージで敵を作り上げそれを声高に罵る傾向がある。これが内外に多くの反発を生み出している。

大統領は今回の一般教書演説で民主主義は世界的に前進していると主張したがCNNはこれもファクトチェックの対象としている。民主主義は世界的に後退しているというのだ。

中国に同調しないまでもアメリカの民主主義に疑念を持つ国が増えればそれだけロシアや中国に対する包囲網は弱くなる。民主主義の後退は共産党一党独裁の中国を隣国に持つ日本としては差し迫った安全保障上の脅威だと言えるだろう。

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