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日銀の新総裁選びは難航か。提示が2月10日から来週にずれこむ。

日経新聞の報道をきっかけに「日銀総裁は黒田総裁の路線を引き継ぐ雨宮氏で決まりだろう」という観測が出ている。ところがこの総裁人事の提示が来週にずれ込んだ。その後、総理大臣から「情報発信力がある国際派が良い」という発言も飛び出した。雨宮氏は総理の本命ではないと解釈されたようだ。ただし金融市場が総理大臣の言葉に反応することはなく静かに来週を待っている。

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この人事は一般的に岸田総理の財政についてどのような考え方を持っているのかを知る機会とされている。つまり岸田総理が誰を任命しようが国会に説明責任を求められることになる。「決められない」まま上司のいない席に座ることになった岸田総理にとってはおそらく非常に苦痛な作業だろう。

仮に日銀の政策が政府の政策と分離独立していれば総理の任命責任はこれほど問題にならなかったかもしれないのだが、そうは見られていない。黒田総裁と安倍総理の関係が非常に近く不可分の関係にあったからだ。

現在は2名の名前が取り沙汰されている。金融市場と媒体は雨宮氏が本命と見ている。ところが総理大臣が国際派が良いと言ったことで「それは中曽さんなのではないか」という観測が生まれているそうだ。ただ岸田総理の発言はこれまでも「所得倍増」とか「新しい資本主義」というようにピントがずれたものが多かった。もはや岸田発言は信頼されておらずこの発言により市場が動くことはなかった。

形式上日銀は政府から独立していることになっている。だが、実際には日銀総裁は総理大臣の強い意向によって選ばれることになってしまっている。総理大臣が変われば日銀総裁だけが取り残されるのだからこれはあまり好ましい形とは言えない。

決められない総理大臣のもとで日銀の総裁人事はかなり難航しているようだ。市場では「雨宮さんで決まりだろう」などと言われている。先行して報道が出たが首相も自民党・公明党幹部もこれを観測気球であろうと一旦これを否定した。総理大臣が決めかねている可能性もある。だが、本命とされている雨宮氏が矢面に立つことを恐れて就任を固辞しているという人がいる。そしてその固辞に対して「いやいや本当はやりたくて仕方ないんだろう」などという人もいると言った具合になっている。

さらに今回「国際派が良い」と総理大臣が発言したことで「総理の本名は実は中曽氏なのではないか?」という観測が出た。中曽氏は次のプロジェクトが既に決まっている。

誰もがやりたくて仕方ない大臣ポストと違い日銀総裁のポストは何か厄介なものだと捉えられているようだ。

ではそもそもなぜこんなことになったのか。

話は民主党が政権を取る以前に遡る。福井総裁の任期が切れる時は自民党政権だったが参議院では民主党が優位だった。民主党も白川氏人事を支持していたが、これを政局にした人がいる。それが小沢一郎氏である。

表向きの反対理由は「政府と日銀の独立」だが、実際の主張は「副総裁の天下りはいかがなものか」というポピュリズム満載のものだった。民主党の抵抗のため日銀総裁は一時空席となり白川氏は副総裁のままで代理を務めた期間がある。

ところが民主党が政権を取ると民主党は主張を変えてしまう。自民党時代は「財政・金融分離」を掲げていたにもかかわらず、政権を取ると今度は日銀と政策協定(アコード)締結を目指したようだ。つまり経済政策がうまくいっていない原因を日銀に持たせようとしたのである。

ロイターの記事によると次のような経緯になっている。経済政策の失敗に焦った民主党政権は白川・日銀に責任を負わせようとする。白川総裁は日銀に対してデフレ脱却について「政府と日銀が共同責任を負う」とする文書の提示を提案する。一部「独立性の観点から問題が起きないか」とする懸念が上がったが既に文書は政府と日銀の事務方で調整が終わっていた。

しかしながら短期間に景気が回復するはずはない。ついに消費税増税の議論が出てきたことで国民の支持は民主党から決定的に離れた。

ここで出てくるのが安倍晋三氏である。安倍氏は日銀にアコードを結ぶことを持ちかけた。経緯については諸説ある。「日銀が自発的にやった」と書くところもあるが、安倍総裁が日銀法を盾にして恫喝したと読み取れるような報道も出ている。

ロイターは日銀審議委員の中に「安倍さんのいう通りにやったほうがいいのではないか」という人が出てきたようだと言っている。つまり、白川氏が妥協の産物として生み出した協定が一人歩きすることになった。この説明が最も生々しく当時の状況を伝えている。

ロイターは政権に翻弄されたと書いているが「民意に翻弄された」とって良いのかもしれない。

白川氏は安倍総裁の提案を受け入れはしたが実はこれに納得できなかったようだ。表向きは自発的にアコードを結び現在の2%の物価目標を掲げたことになっている。だが実際に白川さんは辞任してしまいその後は外から黒田氏の手法を批判し続けている。白川総裁は自分がやるつもりのない協定を結んでそのまま辞めてしまったことになる。今でも、白川氏は2%の物価目標など実現するはずはなく単なる社会実験に過ぎないなどと言っている。

いずれにせよ安倍総理がアコードを結んだため、日銀総裁人事とその後のアコードの取り扱いが「総理大臣の意向」ということになってしまった。

総理大臣はやめてしまったのだが黒田総裁はそのまま日銀総裁として残っている。このため矢面に立つことになった黒田氏が直接非難されることも多くなった。金融機関や金融市場が批判するのは当然なのだろうが「家計の値上げ許容度が高まっている」発言は「国民が物価高を是認している」と受け止められバッシングの対象になった。

つまり任命した総理大臣と日銀総裁が「運命共同体である」という認識ができてしまったことで日銀総裁もたまたま日銀総裁を任命する総理大臣もそれに縛られることになってしまっているのだ。

明らかに岸田総理は決めかねているようだ。優柔不断な煮え切らない感じがする。仮に本命候補が難色を示していたとしても「俺が国会で説明してやるから大船に乗った気持ちでやってくれ」などと言えば済むだけの話だろう。だがおそらく岸田総理にはそれはできない。

ただ立憲民主党も実質賃金が上昇するまでYCCを続けろなどと言っている。階猛議員は「デフレはまずいが物価上昇率がプラスであるならば、日銀は実質賃金に配慮して物価を調整して好景気を実現すべき」と言っている。つまり、物価管理も賃金への配慮も全て日銀の責任であるという姿勢である。当然日銀が直接物価コントロールや賃金コントロールをできるはずがないということは当然階猛さんも知っているはずである。

現在立憲民主党が政権を取る可能性はないが、それでも可能性がないわけではない。つまりこれが「民意」ということになれば日銀はまたも厄介な目標を押し付けられることになる。

いずれにせよ今度の日銀総裁は黒田総裁時代に溜まりに溜まったツケを全て清算するという難しい仕事を成し遂げなければならない。当然失敗する可能性が極めて高い。おそらく何らかの不調を招き入れれば国賊扱いされるだろう。特に野党から総攻撃されるのは目に見えている。実質的に権限がない尾身茂氏が「専門家代表」として政府に依存され世間の批判に晒されたのと同じ構図だが日銀総裁には権限がある。ゆえにその責任も重く失敗した時の批判もコロナ対策とは比べ物にならないだろう。

新しい総裁が「自分が矢面に立たない」保証を求めるのは当然なのかもしれない。

いずれにせよ黒田さんの任期はもうすぐ切れてしまう。誰かが先頭に立って清算を進めなければならないのだ。

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