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「財務省は私を追い落とそうとしたのかも」安倍氏の回顧録が出版に

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読売新聞特別論説委員の橋本五郎さんがインタビューをした安倍元総理の回顧録が出版され話題になっている。森友問題と財務省の関係について言及した部分があるからだ。「安倍さんは財務省を疑いながら総理大臣として仕事をしていたのか」と思ったのだが、中にはこれを根拠に財務省批判を展開する人たちも出てくるかもしれないと感じた。いわば「聖典」の誕生である。

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これについて共同通信はそれぞれを別個の問題として記述している。要旨をとると次のようになる。つまり、引き摺り下ろしと森友問題で財務省が資料を届けなかったのは別の問題と読み取れる。ただこれを並べて書いているところから、何か関係性は想起してほしいんだろうなとは感じる。

  1. 消費税増税延期をめぐり安倍政権批判を展開し私を引きずり下ろそうと画策した。彼ら(財務省)は省益のためなら政権を倒すことも辞さない。
  2. 財務省は当初から森友側との土地取引が深刻な問題だと分かっていたはずだ。でも私の元には、土地取引の交渉記録など資料は届けられなかった。

ところが朝日新聞は二番目について「策略」という言葉が使われていたと書いている。「安倍氏「財務省の策略の可能性ゼロではない」 回顧録で森友事件語る」というタイトルで一種の陰謀論だ。

森友学園の国有地売却問題について「密かに疑っている」と前置きしたうえで「私の足を掬(すく)うための財務省の策略の可能性がゼロではない」と語っている。

TBSはヘッドラインこそニュートラルだが中身でははっきりと「足を掬う策略」という指摘を伝えている。

安倍氏は書店での販売が始まった中央公論新社発刊の回顧録で、森友学園への国有地売却を「私の足を掬うための財務省の策略の可能性がゼロではない」と指摘しています。

最初の共同の記事を読むと別個の案件として見ることも可能だった。だが、朝日新聞を読むと「森友問題で資料を提出しない」という受動的な攻撃姿勢を安倍元総理が疑っていたことになる。TBSの文章を読むと「森友問題さえも財務省が仕組んだのではないか」と受け取る人も出てくるだろう。「国有地売却問題の処理」を省いただけなのかもしれないが「国有地売却そのもの」が財務省の策略だと解釈できてしまうのだ。つまり受動的な攻撃ではなく能動的な攻撃を財務省が仕掛けたと読み込むことができてしまう。

おりしもアベノミクスの事実上の軌道修正が粛々と進んでいる。財政再建を目指す岸田総理と財務省に近い人たちは防衛費拡大を増税前提で推進しようとしている。「安倍さんが生きていればこれを阻止してくれただろう」と考える人は少なくないだろうが、既に安倍元総理はなくなっており彼らは旗頭を失った状態だ。

岸田総理の財政再建路線を自民党保守層に対する裏切りと考える人たちにとって、回顧録の当該部分は「聖典」として引用しやすい。財務省というのは増税の取り憑かれた少しおかしな集団であり自分たちの意に沿わない政権は引き摺り下ろそうとしているという理屈を作りやすいからである。まさに「国民の敵・財務省」というイメージだ。

逆にかなりの犠牲を払って安倍政権を守ろうとしてきた財務省の人たちがいたのも確かだ。この人たちの下で働いていた中間管理職たちは小さな違和感を感じつつもこれに従ってきたはずだ。彼らにとってみれば「自分たちはあれだけの犠牲を払ったのに最終的には増税に取り憑かれた集団扱いか」と感じる人もいるに違いない。「であれば当時聞き知ったことを語ってもいい」と考える人も出てきそうである。

安倍元総理がどのような気持ちで陰謀論に言及したのかは定かではない。単にそれぞれの矛盾した出来事に折り合いをつけるために「ちょっと言ってみました」ということだったのかもしれない。だが、おそらくこの発言は切り取られて一人歩きするだろう。

岸田政権はまた新しい問題を抱えることになったと言えるのかもしれない。

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