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「日経新聞の日銀総裁人事報道は観測気球」と岸田総理大臣が否定

先日、日経新聞が「日銀総裁は雨宮氏で最終調整だ」とする報道を出したが、総理周辺がそれを否定した。岸田総理大臣は「観測気球だろう」と言っている。公明党に告知が言っておらず反発を恐れた可能性もあるが、総理の言葉を素直に捉えると「まだ検討している」ことになる。ロイターは誰が総裁になっても難しい金融政策運営になるだろうとのコラムを紹介している。実は維持するより変える方がずっと難しいのである。

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日経新聞が「日銀次期総裁、雨宮副総裁に打診 政府・与党が最終調整」という記事を出し、経済媒体各紙もそれを伝えていた。

マスコミ各社は裏取りのため確認作業を行ったが、政府・自民党でこの報道を肯定する人は誰もいなかった。

特に気になるのは公明党である。表向きは「政府に任せている」ことになっているが、仮に自民党の一部で決まっていたとなると「連立与党なのに蚊帳の外に置かれていた」ということになってしまう。このため自民党サイドの幹事長と幹事長代行が何も発言できないのは当たり前といえるだろう。

誰かが日経新聞にこれをリークしていた場合「公明党にお知らせする前にマスコミにバレた」などあってはならないことである。ちなみに日経新聞はソースとして「複数の政府・与党幹部が、雨宮氏に次期日銀総裁のポストを打診したと明らかにした。」と書いている。自民党とは書いておらず、さらに「首相周辺」(たとえば更迭された特定の秘書)でもない。

仮に幹事長・代表クラスが本当に知らなかったとなると、金融・財政を決めている狭いムラの中でこの情報の既定路線化が図られたことになる。防衛増税について財政担当者が中心になって決めた後で大騒ぎになったのと同じ構造である。岸田内閣はみんなに聞いて大騒ぎになることもあるが、一部で決めて大騒ぎになることも多い。

では決まっているのに言えないだけなのか?ということになる。総理大臣は「まだ検討している」と言っている。

額面通りにこれを受け取ると「すでに周囲にはさまざまな思惑が広がっているものの、総理大臣が決めかねている」ということになる。つまり、岸田総理は黒田日銀の路線を継承するのかあるいは変えるのかが決められなくなっている。黒田路線を継承すれば金融市場から反発されかねない。とはいえ路線を否定してしまうと安倍派・清和会を刺激する可能性がある。そして日銀総裁人事は複数候補の選挙ではない。最終的に岸田総理が決めなければならないのである。

これまでも「検討」ばかりで実行力がないなどと批判され続けてきた岸田氏の「決めきれない力」のために提示ギリギリになってもまだ決断ができていない可能性がある。誰かに相談して賛成してもらいたいがそれはできない。岸田総理には上司はいない。

そう考えると、決めきれない岸田総理に苛立った周辺が規定事実化のために日銀に情報を流したことになってしまう。「もう締め切りなんですからこれでいいじゃないですか」というわけだ。

現在首相の秘書官が更迭されたとして大騒ぎになっている裏で日銀総裁の人事はあまり注目されていない。だがおそらく問題の深刻度はこちらの方が数段上だろう。岸田総理の意思決定がどの程度のものなのかが容易にわかってしまう。いずれにせよ岸田総理は今後新しい日銀総裁の任命について国会に説明責任を負い続けることになる。

では新しい総裁は今後の日銀の金融政策にどのような影響を及ぼすのだろうか。ロイターは次のようなコラムを掲載している。

日銀はYCCを維持できなくなりそうだが、かと言ってその修正は誰にとっても容易ではないだろうと書いている。市場はこの問題を黒田さん個人の問題と捉えているが、実は黒田さん一人の問題ではないという指摘である。

安倍政権は「何もやらないことを決めた」政権だったが、岸田総理は財政再建とアメリカの期待に応えた防衛増強などを同時にやろうとしている。ところがあまりにも何もしない・何も決めない時代が長かった。このため、何かを動かそうとするとその度に大騒ぎになる。

もはや自民党・公明党を中心とした政府は何も動かせなくなっており、国民も何も変わらない状況に慣れきってしまっていると言って良いだろう。このロイターのコラムを読むと、金融政策でも同じことが起こることが懸念されているのかもしれない。

つまり新しい総裁が何かを変えようとして失敗すると「黒田さんが10年かけてやろうとしていたことを一瞬にして潰した」と言われかねない。そもそも周辺が変わることに慣れていないため変化に通中できない可能性も高い。そして最終的にそれを説明する責任を負っているのは岸田総理なのだ。これまでのように安倍総理が決めた人だからとは思ってもらえなくなる。

いずれにせよ締め切りは近い。現在のスケジュールでは10日に国会に向けて人事が提示される予定になっており、その予定はまだリスケされてはいない。

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