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パート主婦の106万円の壁問題についてもう一度勉強する

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先日、130万円の壁について書いた。この時の理解は税による壁が2つあり社会保険による壁が2つあるというものだった。後日時事通信の記事をみて、この理解が間違っていたと気がついた。つまりこれは訂正記事である。

主に106万円の壁について扱っている。

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まず前回の記事はこちらである。主に130万円の壁について書いている。

この時、税と社会保険による壁がいくつかあるというところまでは理解したのだが、その中身についてはきちんと理解できていなかったようだ。特に複雑なのは106万円の壁である。

時事通信は「一定の条件で社会保険が必要」になる壁と説明している。この後に130万円の壁と150万円の壁がある。つまり、最初の103万円だけが所得税の壁であとの3つが社会保障の壁だ。

政府が議論しているのは130万円の壁問題だ。だが、実際にパート主婦の障壁になっているのは収入に影響の出る106万円の壁である。対象企業が徐々に拡大しているため「新しい問題」と捉えられている。これまで厚生年金に加入するつもりがなかった主婦が逃げ出しているのはこれが人為的に作られた新しい問題だからだ。さらに時間の条件がついていたため「回避策」が可能だった。働く時間を減らせばいいのだ。

まず時事通信のいう「一定の条件」とは何か。検索したところGoogleがおすすめする「わかりやすい情報」が見つかった。106万円の壁は交通費込み? 扶養範囲内で働きたいパート主婦(主夫)は注意!というある金融情報媒体が出している解説記事である。読んでみたのだがさっぱりわからなかった。

ちなみにこの記事は2022年10月以前に書かれているため適用される企業規模についての情報が今とは違う。


  1. 「フルタイムの従業員」と「週換算の労働時間がフルタイムの3/4以上になる従業員」を足した合計が501人以上いる企業に勤めている。(2022年10月から従業員数が101人以上の企業に、さらに2024年10月からは51人以上の企業に適用)
  2. 週の所定労働時間が20時間以上
  3. かつ、月額賃金が88,000円以上ある=12ヶ月分の年収が105万6,000円以上となる
  4. 2ヶ月を超えて雇用される見込みである
  5. 学生ではない

    これが複雑すぎるため、結局のところ当事者の理解はこうなる。適応企業が拡大してゆくため回避策が検討されることになる。

    東京新聞が「2022年10月から新たな「年収の壁」 106万円を超えると手取りが減る層が拡大します 見極めのポイントは労働時間」で次のように解説している。つまり、労働者から見れば条件2が最も簡単に操作できるため「これに引っ掛からなければいい」という単純化された理解になってしまうのだ。

    出典:東京新聞 東京すくすく

    このグラフで見ると125万円まで増やせる人は年金を負担してでも働こうと思うのだろうが。そうでない人は労働時間を減らす道を選ぶだろう。最低賃金をじわじわ増やすくらいでは全くお話にならない。年収105万円近辺の人が20万円(20%弱)増やすのは大変だろう。

    イオンがパート従業員の給料を7%増やすというニュースを聞いて「イオンも思い切ったことをするなあ」と思ったのだが、7%程度ではこの壁の対策にはならない。

    現実を見るとどうやらこれは対象企業が広がったことで中小企業の従業員に働き控が広がりつつあるという問題のようだ。パート主婦従業員が自由に操作できるのは「時間を減らす」ことだけだ。ギリギリ週の所定労働時間を20時間に収めると収入減が最低で済む。

    ただ「無間地獄」の平将明議員と岸田総理が話し合っていたのは130万円の壁対策であり、メディアの中にも「これは実質的に106万円問題である」などと書いているところはなかった。ちなみに時事通信の記事を読み返してみたが、やはり130万円を中心に書かれている。

    だが、平将明議員が言っていた「働き控えの無間地獄」の閾値は(少なくとも東京新聞によると)どうやら106万円のようだ。一体議会は何を話し合っているのかという気持ちになる。政府に対する批判を避けるために場当たり的にやっているとしか思えない。

    前回のブログ記事では公明党の山口代表が「政府広報が足りないからだ」と自民党を批判している記事を紹介した。だが、おそらくは制度が複雑すぎる上にパート従業員の実情を取材して制度設計していないという点が問題である。

    一応、今回はここまで整理してみたが、実はこれでも本当に制度が理解できているのか全く確信が持てていない。ただ、政治の現場と暮らしの現場には絶望的な乖離があり誰もそのギャップを埋めようとはしていないということだけはよくわかった。

    将来の税補填を避けるために年金保険料を負担する人を増やそうとしたら働き控えが起きた。それを解消するために税金を使って年金に補填をしようとしている。一応「とりあえずの間は」と言っているが、パート時給が増える見込みはないわけだから、おそらく補填をやめられなくなるだろう。よく抜本的な制度改革が必要だなどと言われるのだが、ゲームとしては「詰んだ」と思ったほうがいいのかもしれない。


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