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103万円とか130万円とか、政府主導のパート主婦の「壁」問題はなぜこんなにややこしいのか

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テレビのニュースが「130万円の壁問題」を扱っている。短いニュースなのだが何を言っているのかさっぱりわからなかった。そこでいろいろ記事を読んでみた。ますますわからなくなった。

そこで今回はこのパート主婦の「壁」問題を整理する。一応分析も書こうとは思うのだが主眼は「そもそも何を話し合っているのか」を確認することだ。

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そもそも問題は二つある

そこでまず時系列に問題を整理することにした。すると「そもそも問題が二つありごっちゃになっている」ことがわかった。賛成・反対を決める以前にまず何が問題なのかすらよくわからなくなっていたのである。さらに実はこの問題の少なくとも一つは政府が作り出している。きちんと議論して対策を講じてこなかったために、今になって慌てているのである。

この話を聞いていて訳がわからなくなった最初の理由は「そもそも2つの問題がある」点だった。これを解明するのに1時間程度かかった。

  1. 税法の103万円の壁問題
  2. 社会保険料の130万円の壁問題

さてこの記事を書いた時には「これでわかった」と思っていたのだが、実は理解が足りていなかった。最初の103万円だけが所得税の問題であとの3つが社会保障の問題だ。またメディアは盛んに社会保障の問題を130万円問題と書いているがパート主婦が気にしているのは106万円問題の方なのだそうだ。いわば訂正記事になってしまうのだが新しいエントリーで補足した。

ここまでわかったら、次は各論を読んでゆく。

まず103万円の壁は実は大したことはないらしい。問題を複雑にしているのは新しく作られた130万円の壁である。だが103万円の壁の方が議論としては古いので一般的にこの問題は「103万円の壁問題」として知られている。パート主婦は103万円に到達しないように調整して働いている。このため最低賃金を上げると上限に早く到達し人手不足が起きるのだ。

そもそも130万円の壁はどうしてできたのか

さらに、130万円の壁は人為的に作られた。年金財政が逼迫したためパート従業員とパートに依存する企業にも保険料を負担させようとしたのだろう。2020年5月29日に法律が成立した当時の日経新聞は「パート従業員も厚生年金の保護が受けられる。ありがたいことだ。」としている。そもそも厚生年金で守られている正社員層が読んでいそうな経済紙・経済雑誌は盛んに制度拡大はいいものなのですよと宣伝していた。

「おっさん」たちがこの問題をあまり議論してこなかった理由は明白だ。新型コロナが最大関心事になっていて10万円給付はどうやったら受け取れるかなどが大問題になっていたのだ。

「おっさん」たちが10万円に翻弄されている間、パート主婦たちは自己防衛のためにどうすべきかを考え始めていた。そもそも制度が複雑な上に「保険料は単なる負担増だ」とみなされている。さらに「超えた月だけ社会保険料負担」ということもできないのだろう。このため「この壁をどうやったら回避できるか」というハックが盛んに議論されることになった。だがハックなどないのだからそもそも壁に到達しないように働きを控えることにした。

タイミングも悪かった。コロナによる経済的な混乱がパート主婦を直撃したのだ。「とりあえず今手元に現金が欲しい」という主婦の「悲鳴」が聞こえるとWebの経済情報メディアが書いている。年収120万円のところが18万円も減るのだから大打撃である。ただ、政府を批判するばかりでは得策でないと考えたのか「年金がもらえるとメリットも多いですよね」などとフォローしている。

パート主婦は表立って反対の声はあげない。ただ黙って行動を始めてしまったのである。「おっさん」たちはこれに慌てることになる。

そもそもよくわからない

制度の分かりにくさも問題だ。朝日新聞は「そもそも論」を持ち出して壁は壁なのかと言っている。だが手取り額を気にするパート主婦にはどうでもいい話だ。大切なのは「今月いくらもらえるか」である。

最も気にする人が多いのは税法上の103万円の壁だが実際には配偶者控除が配偶者特別控除に変わるだけで150万円を超えるまでは扶養者の手取りは変わらないと言っている。だが、一般には「とにかく103万円を超えてはいけない」という漠然とした了解があるようだ。

さらに訂正記事で書いたように実際にパート主婦が気にしているのは106万円である。新しく年金加入を求められるからだ。主婦が自由にできるのは労働時間を控えることだけなので、結果的に平将明議員の言う無間地獄になる。

公明党の山口代表はこれを広報の問題と捉えている。おそらくはこの認識も間違っている。広報の問題ではなく、政府が全体としてどこに向かっているのかが全く見えず、単にシステムが複雑化しているというのが問題なのだろう。

またも場当たり策

おそらく問題は永田町の「おっさん」議論がおっさん以外に全く伝わっていない点である。これを正面から捉えるならば制度がどう受け止められているかを考えた上で岸田総理が解決策を提示すべきであろう。だが「おっさん」たちはどういうわけかこれをやりたがらない。

自民党の平将明議員の質問に対して岸田総理は具体策は出さずに「検討する」と言っている。検討は聞き飽きた。そんなに検討が好きなら「内閣検討庁」という役所でも作ればいいのではないかという気になる。

パートの「年収130万円の壁」、岸田首相「制度を見直す」(2023/2/1)
「年収の壁」対応策を検討 岸田文雄首相が表明(2023/2/1)
岸田総理「130万円の壁」見直し検討表明 「幅広く対応策を検討してまいりたい」(2023/2/1)

平将明議員は130万円という人為的に作られた壁のせいで人手不足が加速する状態を無間地獄と言っている。

これについて具体的に何をするのかを聞かれた加藤厚生労働大臣は「制度を見直します」と約束した。またしても「検討」だ。さらに主婦ではない単身者との「公平性」の問題を持ち出した。つまり制度を見直すと言ってはいるものの一度決めたことを変えたくないために「単身者」を持ち出して話をすり替えようとしているのだろう。

実は今の自民党の中には財政再建派と積極財政派がおり「次の総裁選挙」を目指して盛んに宣伝合戦をやっている。新世代リーダーを目指す人は積極財政を唱える傾向にあり加藤さんはこれを防戦したいのだろう。

さらに自民党の中には「とりあえず問題がおさまるまで給付で穴埋めしては?」と言っている人がいる。年金で財政が圧迫されるのを恐れて年金改革をやったのだが、結局財政が負担して穴埋めをするという話に戻っている。税と保険料を別々に議論しているためこのようなややこしい話になる。

ついにはパート主婦の優遇は「全部やめちまえ」という極論も

公平性の問題を持ち出した背景には「これ以上財政支出を増やしたくない・増やせない」という事情がある。そこでついには「そもそも専業主婦優遇をやめてはどうか」と提案する人も出てきた。だがおそらくそんなことをすれば全国のパート主婦の反乱が起きそうだが、「面倒だから全部やめてしまえ」という極論が出てきたことになる。

そもそも今回の問題は自民党・公明党政権が人為的に作り出した問題である。ところが中途半端に改革を進めているために収拾がつかなくなっている。「全部やめちまえ」論は既に燻っていてそれに対する反論記事も出ている。

アメリカのように二大政党制のもとでは「前の政権はこうやっていましたがやはりそれは間違いでした」と軌道修正しやすい。ところが日本では政権交代が自民党の内部で起こるため、前の政権が間違っていたということがわかってもそれが否定できない。このため議論がどんどん複雑になってゆく。すると当事者たち(今回の件で言えばパート主婦)はますます訳がわからなくなり自己防衛のために政府の意図とは違った行動を取り始めるのである。これこそが平将明議員のいう無間地獄である。

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