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丸川珠代さんの「愚か者めが」発言が掘り起こされた顛末

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ニュースでいきなり丸川珠代さんが「愚か者め!」と絶叫している。びっくりした。時々「どうでもいいだろう」というニュースがどんどん大きくなって蒸し返されることがある。児童手当の所得制限撤廃もそうしたニュースの一つである。なぜこんなことになったのかを調べてみた。背景にはおそらく子育て当事者の行き場のない怒りがある。

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きっかけは茂木幹事長の代表質問での提案だったようだ。自民党の茂木幹事長が首相に対して「所得制限は撤廃すべきだ」と提案したと読売新聞が伝えている。議場内には驚きの声があったそうだ。だが、この思い切った提案は坂道を転がり落ちるように悪い方向に向かって進んでゆく。どうやら転がり方を決めているのは内容ではなく茂木さんへの印象のようだ。

延焼するきっかけは日曜討論だったようだ。茂木幹事長がNHKの日曜討論で「児童手当の所得制限は撤廃した方がいいのではないか」と語った。これに対して岡田幹事長は「民主党政権下で所得制限にこだわったのは自民党じゃないか」と反発した。

この時点で岡田幹事長は「財源横流し」などと難しい話をしている。普段なら小難しい顔をして小難しいことを語る岡田さんが注目を集めることなどなさそうである。だが実際にはこれで火がついた。

そもそも茂木さんの狙いはどこにあったのか。党内で全く議論が進んでいないことから読売新聞は観測気球だと言っている。NRIにおいて木内登英氏は「争点潰しだろう」との指摘だ。このほか、ポスト岸田を狙って茂木幹事長が「思い切った感」を出そうとして「大胆な方針転換を図ろうとしているのでは」などと勘繰る向きもあるようだ。日経新聞は「2024年の党総裁選挙」の布石との見方を伝えている。いずれにせよ、政局的な提案だったということになる。

茂木氏は相当思い切ったことを提案したという自負があったのだろう。だが、世論の反応はそうではなく「え、それだけ?」だった。そもそも観測気球にもなり得なかったということだ。これを端的に表現したのが立憲民主党の泉健太代表だ。「吉本並みにひっくり返った」というのだ。TBSニュース(YouTube)が報道している。

児童手当の所得制限撤廃は自民党の中には懐疑的な意見が多いそうだ。NRIの木内登英氏も「総合的な政策の兼ね合いが重要である」と書いている。経済産業大臣も児童手当の所得制限 西村経産大臣、今でも「制限設けるべき」と否定的である。

茂木さんのスタンドプレーのようだが、これが行き場のない庶民の怒りに矛先を作った。あとは蓄積された怒りが収まるまでは燃え広がるだろう。

ではその蓄積されていた怒りとは何だろうか。一つひとつはおそらく些細なものだろう。例えば普段から「家事に協力してくれない夫」に怒っていた人もいるかもしれない。さらに子供が騒いだとスーパーマーケットで高齢者に怒られた人もいるだろう。社会の有意義な活動から取り残され「申し訳なさそうに」子育てをしている人たちの行き場のない怒りが結果的に政府に向かってしまったことになる。

では、そうした怒りを持った人たちはどのようにすれば納得してくれるのだろうか。実は東京都が対策をしている。東京都は育休ではなく育業とポジションを変えている。広報活動なので大してお金はかからない。なんだ小手先のことかとは思うのだが、実はこれが重要なようだ。

日本人は「育児=社会に参加していない=価値がない」と思い込んでいる人が多い。本来は意識を変えるべきなのだが、一度染み付いた意識は変わらない。そこで「育児休業ではなくこれが本来業務なのですよ」と説明できるように東京都がポジションを変えてみせているというわけだ。つまり、お上がお墨付きを与えることによって下々のものが納得するという不思議な構造が残っているのである。これを推進しているのは「女性のために戦ってきたという印象」の小池百合子東京都知事である。

裏返せば「子育てや家事は一段劣るなりわいだ」と考えている人が多いということになる。日本の少子化の原因の一つはこの思い込みにあるのだろう。政治が一夜にして国民の思い込みを変えることなどないのだから日本社会が自発的に意識を変えない限り少子化と地方の衰退は続くだろう。

茂木さんが炎上したのはおそらく「世襲議員の多い自民党の政治家は育児のことなんか考えていないんだろうな」という単なる思い込みのせいだ。実際に岸信夫議員は議席を守るために辞職を決め岸田総理も息子への世襲を否定しなかった。茂木さんも「なんとなく自民党のおじさん政治の一員」と思われている可能性が高いのではないか。実は茂木さんは世襲議員ではなようだ。

マスコミはこの心象に合わせるかのように「エビデンス」となる絵を探したのだろう。長妻昭衆議院議員の質問に合わせるかのように丸川珠代氏の「愚か者発言」と「愚か者Tシャツ」を拾ってきた。元テレビアナウンサーだけあってインパクトのある発声だった。このいかにも視聴率が取れそうな2010年の参議院厚労委員会での発言は民放で盛んに再放送された。さすがにNHKだけは丸川氏の絶叫は放送しなかったようである。

丸川さんは「愚か者めが!このくだらん選択をしたバカ者どもを絶対忘れん!」と言ったそうだ。確かに世間は「このくだらん恫喝をした議員」を忘れていなかった。

立憲民主党は今回の金脈を最大限に活かしたい考えだ。失われた10年政策検証プロジェクトチーム」(PT)を立ち上げた。いわば金鉱発掘チームである。

冷静に考えてみれば立憲民主党は地方選挙レベルでは自民党と一緒に行動する議員が多い。自民党の失政が証明されたとしても立憲民主党に支持が集まることもないだろう。もしかすると「やはり既存政党はダメですね」という人たちに躍進するきっかけを与えるだけかもしれない。それでも長い間世間から忘れ去られてきた立憲民主党にとっては大チャンスである。

本来ならば、木内登英氏がいうように「全体の中で子育てをどう位置づけるか」と議論したいところなのだが、全体的にそのような雰囲気にはなっていない。日本の政治は「なんとなく」の印象でふわふわと左右に流れている。国民が「次世代を産み育てよう」と意識を変えるまで少子化と地方の衰退は続くのだろうが、当面は国民の意識を変えるような出来事は起こりそうにない。

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