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2023年1月現在のヨーロッパの対ロシア安全保障について各国の記事をまとめる

普段はわかりやすく記事を書くという観点からスタンスを決めてからそれを説明するのによさそうな新聞記事を集めている。だがヨーロッパの安全保障環境を見ると各国の事情によって様々な議論があることがわかる。主に対ロシアの歴史的な違いが吸収できていないのだ。

ここでは余計な私的考察はできるだけ書かずに2023年1月時点の対ロシア安全保障環境についてまとめた。

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日本の国際ニュースは主にアメリカの視点で作られている。日本政府はアメリカに追随しているのだからそれだけをフォローしていれば日本政府の行き先はわかる。

ところが、この視点だけでニュースを見ていると見落としてしまうことがある。このわかりにくさこそがヨーロッパ政治の本質なのかもしれない。ドイツ以東のヨーロッパはロシアに対して複雑な歴史を持っている。ロシアに支配されていた地域もあれば逆に加害者になった国もある。こうした事情が複雑に絡み合い安全保障環境を一致させるのが難しい。

ポーランドとバルト三国の立場は明確

過去に東側半分をロシアに支配されていた経験のあるポーランドとソ連としてロシアに支配されていた経験のあるバルト三国の立場は明確だ。これらの国はロシアとの外交関係を縮小させている。エストニアでは「ウクライナのようなこと」が起きた時のことを想定した訓練が始まっているそうだ。

トルコが北欧2カ国の分断を図る

フィンランドもロシアに支配されていた時代がある。おそらく「ロシアに侵略されるかもしれない」という脅威を強く感じているはずだ。

これを踏まえてトルコのエルドアン大統領が北欧2カ国の分断を図っている。フィンランドの恐怖感を利用して自分のNATOでの地位を高く売りたいのだ。おそらくトルコには長年EUに門前払いを食らっていたという恨みもあるのだろう。対ロシアで軍事的にはあてにされているが経済的・文化的には認めてもらえていない。

スウェーデンとトルコの関係は悪化の一途だ。エルドアン大統領は国内メディアにフィンランドの単独加盟を認めればおそらくスウェーデンは困るだろうと語ったという。

フィンランドは一時単独加盟について言及していたのだがBBCによると取り下げたそうだ。板挟みになっているクリステション首相は「NATO加盟の深刻さを分かてほしい」とトルコを刺激しないように呼びかけている。

フィンランドはNATO加盟ではなく「ヨーロッパとの協調」がフィンランドの安全保障に寄与すると考えているのだろう。スウェーデンとの協調姿勢を改めて明確にしている。NATOのメンバーシップという既得権益をできるだけ高く売りたいトルコと対照的な姿勢である。

実はクロアチアとハンガリーも

トルコについて言及した記事の中に実はハンガリーも北欧2カ国のNATO加盟を批准していないと書いている。オルバン首相はウクライナを刺激するような発言をしておりウクライナが抗議する騒ぎになっているそうだ。ハンガリーの他にクロアチアも積極的な支援には反対の立場のようだ。

クロアチアは南スラブであり言語的にはセルビアに極めて近い。セルビアはロシアに接近したがクロアチアはヨーロッパに接近し明暗が分かれた。クロアチアは最近ユーロを導入しシェンゲン条約にも加盟したばかりである。つまり立場的には南スラブの優等生といってよい。しかしながら安全保障に関してはセルビアと意見が近いようだ。

一方のハンガリーは南スラブ系ではない。ではなぜではなぜオルバン首相はウクライナに対して敵対的な姿勢をとるのだろうか。これも歴史が関係している。ウクライナの一部もオーストリア・ハンガリー帝国の一部だった時代があるそうだ。つまりゲルマン(ドイツ)とハンガリーは南スラブの盟主だった経験がある。

オルバン首相はハンガリーがスラブに対して指導的な立場を持っていた時代の大ハンガリー主義を仄めかしている。少し古いCNNの記事を見つけた。大ハンガリー主義が持て囃される裏にはEUへの失望があるようだという記事をNHKが出している。オルバン首相はロシアに接近しエネルギーの安定供給を約束させた。また経済的な格差が埋まらない苛立ちを募らせる民族主義者たちの支持も取り付けているようだ。

ドイツもエスカレーションに懸念

クロアチアは西側がウクライナに肩入れしすぎていることに懸念を表明しているとされている。では批判されているドイツはどのような雰囲気なのだろうか。実はショルツ首相も「行き過ぎた援助」に懸念を表明している。

ここからはいくつものことがわかる。

  • おそらくドイツの産業界には軍事産業への期待がある。こうした状況に、ショルツ首相は「(戦車の提供について)我々が決断したばかりなのに、次の議論がドイツ国内で盛り上がっているのは、ただただ軽薄にしか見えない」と述べたと書かれておりその盛り上がり具合がわかる。
  • 第二次世界大戦の結果を水に流してしまった日本と違いドイツはかなり第二次世界大戦の結果を重く受け止めている。つまり「経済的利益を追求する人たち」の他に加害者になることに対する戸惑いもあるということになる。

ドイツはロシアに支配されていた時代はないのだが、逆にロシアに対して加害者だった時代がある。

日本の報道を見ると「民主主義陣営」が「独裁者プーチン」にどう対峙するかというような単純な図式のものが多い。ところがヨーロッパの状況は必ずしもそれほど単純ではないようだ。異なった歴史的背景が現在の政治・安全保障環境にも大きな影響を与えているのである。

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