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「アベノミクス終了」と令和臨調が静かに引導を渡す

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電車で「今日もリモート会議で発言できなかった」という日経新聞の広告を見つけた。「日経を読めば会議に参加できるようになる」と書いている。これをみて「大人がどんな新聞の読み方をしているのか」について書けばニーズはあるかもしれないと感じた。

ロイターが令和臨調の提言について書いている。「物価2%は長期目標に、令和臨調が政府日銀共同声明の見直し提言」というタイトルだ。おそらくタイトルだけを見ると読み飛ばしてしまう人が多いだろう。

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この記事は三段構えになっている。

  • 黒田総裁の目標を「長期目標」に変更するという臨調の答申を紹介する。
  • 黒田総裁の金融政策をさりげなく断罪する。
  • 金融市場からの要望が多い政府日銀共同声明の見直しを強調する。

三段構えなのだが内容は極めてわかりにくい。おそらくそのわかりにくさの原因は黒田総裁とアベノミクスを否定しないという「大人の優しさ」のせいだろう。

最初のパートを読んでみよう。

間違っていたから否定します・取り下げますとは言っていない。「このまま長期目標にしてはどうかな」と優しく提案している。

間違っていたというと傷つく人が出てくる。いつ達成できるかわからないがまあ目的として額に入れて飾っておきましょうということだ。成長を目的にすること自体はそれほど間違ってはいない。

現在の共同声明は日銀が2%の物価安定目標を早期に実現するよう求めているが、提言では「2%を長期の物価安定目標として新たに位置付ける」とした。当面は金融経済情勢を見極めながら金利機能の回復と国債市場の正常化を図ることや市場との対話の強化なども盛り込んだ。国債市場の正常化を図る際は、市場の安定に特段の注意を払うことも重要としている。

では、令和臨調はこれは間違っていなかったと考えているのだろうか?

記事の二番目のパートはかなりあからさまに黒田日銀の政策を否定している。要するに黒田さんのせいで構造改革が遅れたと言っている。だが、これは答申ではなく事後のやりとりのようだ。

「成長戦略や構造改革が先送りされて新陳代謝が遅れ、結果として金融政策の正常化も遅れる悪循環となった」とも指摘

だったらそう書いておいてほしいと思うのだが、書いてしまうと色々と差し障るのだろう。

日銀が金融市場とのコミュニケーションをおそろかにしてきたこともあり金融市場は今の黒田総裁のやり方を快く思っていない人が多い。ロイターが主に読者にしているのはそういう人たちである。そこでロイターは「令和臨調が政府日銀共同声明(アコードなどと呼ばれる)の改訂を提案している」との結論に着地している。確かに記事の表題もアコード見直しになっている。

とりあえず相手の顔を立てるが、いいたいことはズバズバといい、最後に自分達の望むような結論を紹介するというのが大人のやり方なのだということがわかる。優しい嘘と自己主張が交錯する。この理屈がわからないとこの記事は読むのが難しいだろうなと感じた。

ちなみにプライドが高い黒田総裁はいまだに自分のやってきたことは正しいと言っている。このため岸田総理も「黒田総裁のやってきたことは間違いではなかった」となる。共に衆議院予算委員会でのやりとりである。岸田総理も黒田さんもいる前で顔に泥を塗るわけにもいかないということなのだろう。

黒田総裁が自分がやったことは間違いではないと言っているのだから、岸田総理は政府日銀共同声明(アコード)の修正に関しては言及していない。ところが共同通信は次のように書いている。表向きは「変えるかどうかわかりません」と言ってはいるものの裏では「方針を固めている」のだそうである。

現在後任候補選びが行われているのだから事前の候補者調査などでは具体的な話が出ているのかもしれない。ただ、この共同の記事もタイトルは「物価2%上昇を長期目標に 令和臨調、賃上げ明記も」となっていてアコードの書き換えの話はさらっとでてくるだけである。

岸田政権は4月9日に就任する次期日銀総裁と協議し、共同声明を改定する方針を固めている。緊急提言を協議の参考にする可能性がある。

地方紙にそのまま転載されることも多い共同通信は賃上げに期待していることがわかる。だが共同通信の記事を注意深く読むと抜けている単語もある。ロイターは「日本経済の停滞の責任は民間にある」という声を紹介し「構造改革=今の構造を壊すこと」が民間活力の再生につながると書かれている。つまり、共同通信の記事だけ読んでいる人は、日銀がなんらかの政策誘導をしてくれれば賃金が自ずと上昇すると期待できる。政策が変わることで自然に物事が好転することを期待する人もいるのだ。

表面上は「黒田さんはよくやってくれたから」などといいつつ「さあ次に行きましょう」となるのが日本式なのだと言える。なんでも水に流してしまうのだ。さらにメディアにはそれぞれの想定読者がいて巧みに話題とタイトルの取捨選択も行われている。

SNSではおそらく「黒田さんの金融緩和とアベノミクスは正しかった」という主張が続いているはずだ。つまりそれを信じている大人も一定数は残っている。今の構造を壊して先に進みたい人もいれば天気が変わるように自然に賃金上昇が起こることを期待する人もいる。

おそらく「会議で正しく」発言するためには場の空気を読みつつ適度に話を合わせる技術も必要なのだろう。「アベノミクスはオワコンですね」といって顔色をさっと変えるような人がいたらその話題はもう掘らない方がいいし「構造改革しないと賃金は上がりませんよね」といってムッとする人がいたらその話はしない方がいいかもしれない。

ただ岸田政権は粛々とアベノミクスの幕引きに向けて動いているようだ。

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日本の組織では上司の顔色と場の空気を読み「正しく」発言する力が求められる。