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エルサレムのシナゴーグが襲撃されイスラエルとパレスチナの緊張が再び強まりつつある

エルサレムにあるシナゴーグが襲撃されて7名が亡くなった。ホロコースト追悼という特別な意味を持つ安息日だったそうだ。背景にあるのはイスラエルとパレスチナの関係の緊張だが、その原因は「近年でもっとも右傾化した」イスラエルの政権にある。アメリカ合衆国はこの動きを抑えられていない。直線的に緊張が高まればアメリカの国際的威信が揺らぎかねない事態になっている。

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BBCによると犯行に及んだのはエルサレムに住むパレスチナ人男性でその後殺されたようだ。BBCは「無効化」という無慈悲な形容詞で伝えている。ロイターによるとハマスが犯行を支持する声明を出しているが関与は認めていな。ハマスは「ジェニンの攻撃に対する報復である」と言っている。

ジェニンは西岸にある。ジェニンのテロ掃討作戦では9名が亡くなっている。パレスチナ当局はこの急襲に抗議し治安面での協力を打ち切った。

ところが記事を集めていると全く別の話も出てくる。ガザ地区からイスラエルに向けて攻撃がありその報復としてガザ地区で空爆が行われている。ロイターの記事を読む限りこちらもジェニンへの反発が背景にあるものとみられる。

汚職疑惑もあったネタニヤフ首相は一度下野した後極右と呼ばれる人たちに頼って連立政権を立ち上げた。イスラエルの国会は少数乱立の状態が続いており。選挙での躍進を政党はどこもなんらかの成果を上げる必要がある。敵を作り出して叩くのは最も効率の良いキャンペーンと言えるだろう。

ただ、当然パレスチナが反発を強めるのは自然なことである。極右が成果を上げようと圧力を強めれば強めるほどイスラエルの治安は悪化してしまうという悪循環の構造が生まれつつある。

アメリカのブリンケン国務長官は双方に自制を求めている。だが、ブリンケン国務長官が中立の立場でこの紛争を解決することはできないだろう。経済政策や国境問題で失点を重ねるバイデン大統領はいち早くイスラエル支持を表明した。ホワイトハウスの声明は「ホロコースト追悼の日を狙ったのは許し難い」となっており国内のユダヤ系にアピールする色彩が強い。つまり、アメリカ合衆国政府のコメントは今後イスラエル側にバイアスがかかったものになる。バイデン大統領はユダヤ人ロビーの支持を失うわけにはいかないのだ。

仮にイスラエルがアメリカの支持を求めて極端な行動を起こしているのであれば問題はそれほど複雑にならないはずだ。アメリカが具体的な支援を申し出ればいいだけの話だからだ。だがおそらくイスラエルがパレスチナに対する敵対姿勢を強める原因はおそらくイスラエルの国内事情に起因している。つまり政局の一環なのだ。

このためアメリカ合衆国は極めて難しい立場に立たされている。イランの核合意も行き詰まっており国防大臣は「2〜3年後には自分達が直接イランの核施設を破壊することになるかもしれない」などと言っている。別のエントリーでアメリカの高位軍人が「台湾に対する備えを万全にせよ」と檄を飛ばしている様子を紹介したが、構造としては同じようなものだ。軍の政治に対する信頼は揺らぎつつあり、静かに動揺が広がっている。動揺と言ってもおろおろとうろたえるわけにもいかないのだから「強気の態度」を示しているように見えてしまう。

仮にイスラエルがこのまま直線的に暴走すればおそらくアメリカ合衆国はかなり外交的に無理をして国際社会でイスラエルを庇うだろう。米・中・日・欧・露にはある種の対立構造にあり誰がどの陣営で誰を応援するかは明白だ。だがそれ以外の世界はおそらくアメリカの対応に不信感を抱くことになるだろう。

2024年を目掛けて世界情勢が直線的に緊迫化するなどという予想をするつもりはないのだが日欧が何も手を打たないと中立になれないアメリカはこの問題を当事者として解決できなくなる。

アメリカの国際的地位の低下は日欧の地位の低下とほぼ同じ意味を持つのだと考えるならば、このまま問題を放置するのは危険だといえるだろう。「世界」はウクライナの問題も解決できていないのだからこれ以上厄介ごとを抱えるわけにはいかない。

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