ざっくり解説 時々深掘り

2025年にアメリカと中国が戦争の可能性。根拠は「直感」。

読売新聞に「「直感では25年に」台湾有事で米中戦争の可能性…米空軍大将のメモ流出」という記事が出た。直感で戦争をされてはたまらないなあと思い記事を探して読んでみた。直感と言っても職業軍人の直感なのだから何か根拠があるだろうと感じたからだ。

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問題の空軍大将は米空軍航空機動軍団司令官のマイク・ミニハン氏という人なのだそうだ。国防総省はメモの存在を認めたが軍の見解ではないと言っている。ただしミニハン氏は単なる個人というわけでもない。自分が率いる部隊に「臨戦体制」を呼びかけている。具体的には航空機動軍団員に対して射撃訓練場で「標的の頭」を狙って撃つようにと指示も出しているそうだ。かなり切迫した様子が伺える。

ではその直感の根拠は何だろうか。何か習近平国家主席の危ない兆候でも掴んだのだろうか。時事通信が根拠を詳しく書いている。

ミニハン氏はこの中で「私の直感では、25年に戦うことになると思う」と指摘。「中国の習近平(国家主席)に、大統領選で気の抜けた米国を見せることになるためだ」と理由を説明した。

「気の抜けた」とはどういう意味だろうと感じた。英語原文は次のようになっている。全体としてはgut-telling(なんとなくそう思う)だが大統領選挙の後で「気もそぞろな」状態になっているだろうということのようである。

“I hope I am wrong,” Minihan wrote. “My gut tells me we will fight in 2025. Xi secured his third term and set his war council in October 2022. Taiwan’s presidential elections are in 2024 and will offer Xi a reason. United States’ presidential elections are in 2024 and will offer Xi a distracted America. Xi’s team, reason, and opportunity are all aligned for 2025.”

伝わってくるのは軍の高官のアメリカ政治に対する失望と苛立ちである。議会は共和党と民主党の間で争いが続いており安全保障もまた政争の道具になっているといえる。トランプ政権末期にミリー統合参謀本部議長は中国に対して「アメリカが中国を奇襲攻撃することはありません」と電話を入れている。命令があればやらないわけにはいかないのだがお知らせはしますよということなのだろう。

さらにバイデン大統領のアフガニスタン撤退に誘発されるようにウクライナで紛争が起きたがこれもまだ解決していない。CNNが伝えるのはトランプ大統領の危険性のみだが軍がバイデン大統領を信頼しているかと言えばおそらくそれも難しいのではないかと感じる。

つまり、ミニハン大将が危うさを感じたとしても一概に「あなたの勘違いでしょう」とは諌められない。また同じようなことが起こる可能性はあるのだから準備はしておいた方が良さそうだ。

アメリカの民主主義はなんらかの理由で動揺している。一方で習近平国家主席は虎視眈々と体制を固めている。空軍の高位軍人としてのミニハン氏はおそらく習近平国家主席がどんな準備を進めているかの情報も持っているのだろう。

時事通信の翻訳の原文になった部分を忠実に訳すると、アメリカの選挙の結果は習近平国家主席に気の抜けた状態のアメリカを提供する・差し出すということになる。このdistractedattractedの対義なのだろうから「意識がひきつけられた状態」から「意識が離れた」状態になることを意味している。大統領選挙が終わって気が抜けた状態である可能性もあるが内政のゴタゴタに夢中になっていてとても外交・安全保障にまで気が向かないということなのかもしれない。あるいはトランプ・バイデンの切り替え時に起きた混乱がアメリカを無防備な状態にするということなのかもしれない。このdistractedは極めて幅広い意味で使われておりその同意語や対義語も豊富だ。

もちろん日本がこの動きに引きずられるとは思わない。日本が追随しているのはあくまでもアメリカ政治でありアメリカの軍ではないからだ。日本人の間にも切迫感はない。このためアメリカが動揺しているから自前で核兵器や攻撃能力を持つべきだなどと主張する人もそれほど多くない。

ただ、アメリカの政治が軍の一部から疑問視されていることは確かである。つまり不確実性は増している。最も危険性が増すのはおそらく政権切り替え時である。

面白いことにこの記事を英語で検索してもあまり情報が出てこない。アメリカにとって台湾海峡は極めて遠く国内的な関心は高くないからなのだろう。むしろ現在はイスラエル情勢の方が憂慮されている。

この問題に関心を寄せているのは日本のメディアの方だった。防衛増税の必要が声高に叫ばれており「何もないだろう」とは思いつつも「いやもしかしたら」と感じている人は多いのではないだろうか。このため普段から注意深く記事を読んでいる人の中には「あれ?何か変だな」と気がつく人も出てくるのかもしれない。

日本のメディアはアメリカ政治と軍事が動揺しているとは思いたくはないはずだ。仮にこの報道が盛り上がるにしても、岸田政権の軍備増強の主張に合わせる形で「中国の脅威が増していると米軍の高位軍人が予測している」として中国の脅威論に置き換えるのではないかと思った。「そういうものか、だったら増税も仕方ないな」という感想を持って終わりになりそうだ。

だが実際に問題になっているのは中国の増長というよりはアメリカ側の政治の動揺である。これが中国が付け入る隙を与え我が国の安全保障にも少なからぬ影響を与える。

東西冷戦という固定された緊張の時代が終わり、欧米主導のグローバル化も退潮する中で、確実に新しい混沌とした時代に向けて一歩ずつ進んでいるようではある。おそらく多くのニュースに埋もれてゆくこの記事もその一コマということになるのだろう。

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