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ウクライナで汚職による高官の辞任が相次ぎゼレンスキー大統領が苦境に

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もうすぐロシア侵攻から一年になる。ウクライナ国民の疲弊・疲労は想像するのが難しい。そんな中、ウクライナ政府の高官が次々に解雇されるという異常事態になっている。当初、日本語の記事ではあまり詳しい状況が分からないのでCNNFOXを読んでみた。その後でBBCが状況を簡潔にまとめる記事を出してきた。

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概要を知るためにはBBCの記事を読むのが手っ取り早い。「ウクライナ政府高官が相次ぎ辞任 ゼレンスキー大統領、汚職対策に着手」というタイトルになっていてゼレンスキー大統領が汚職を撲滅しようとしているということになっている。これまでウクライナの紛争を継続的に支援してきたBBCならではのまとめ方だ。

高官の辞任は主に物資調達に関わるものである。きっかけになったのはインフラ省副大臣(日経新聞はインフラ省次官と表現)のヴァシル・ロジンスキーの逮捕だった。本人は否定しているが発電機調達に際して400,000ドルを受け取った容疑が持たれている。

また食料調達に関しても報道があるようだ。フォックスニュースはウクライナのメディアが食料の調達についての疑惑を報じ始めていると書いている。国防副大臣は辞任したが国防省はメディア報道を否定しているそうだ。政府を監視するNGOは「国防省の反論には根拠がない」と指摘している。

続いて副首席報道官のキリロ・ティモシェンコ氏が辞任した。理由は明らかになっていないがスポーツカーを乗り回していたと指摘されているそうだ。辞任に際して「これまでいい思いをさせてくれてありがとう」と読み取れるようなコメントを残している。実際の辞任の言葉は「毎日、毎分、良い行いをする機会を与えてくれた」だった。大統領選挙キャンペーン時代からの側近だったのでさまざまな「良い行い」をする機会に恵まれていたのだろう。

これをきっかけに次官、副大臣、副検事総長などが次々に辞職した。CNNの記事を読んでも高官たちが罪を認めたから辞任をしたのかはよくわからない。中にはこれは政治的なキャンペーンであると抗議して辞任した人もいるようなのだ。

さらにシモネンコ副検事総長はスペインで休暇をとったという批判があり解任された。これを受けて政府高官の公務以外での海外渡航が禁止された。

国家防衛という有事のためにウクライナの18歳から60歳までの男性は出国が禁止されている。この出国禁止令にはいくつかの例外があり国外脱出を試みる人たちはどうにかしてこの規制を迂回できないかを探っていたようだ。媒体の信頼性は不明だが、キエフインディペンデントという英語媒体の情報によると一部の国家公務員やビジネスマンたちはこの例外措置を悪用し制限を回避してきたとされている。

BBCの報道を見るとゼレンスキー大統領が汚職を撲滅するために整然と人事整理を始めたと読めるのだが、実際の状況はかなり混沌としているようである。特に側近の辞任はゼレンスキー大統領の調整能力が削がれることを意味している。

有事であるウクライナでは国民主権が大きく制限されている。このため相対的に公務員の権限が大きくなる。そこで何らかの汚職が蔓延すると当然摘発の対象になるだろう。ところが摘発された側も黙ってはいない。「実はあいつもこんな悪いことをやっている」などと言い出す。

ウクライナは紛争前からこのような状態にありロシアからの侵攻が始まってからもこうした状態から完全には抜け出せていないことがわかる。不幸中の幸いは汚職撲滅のための政府機関がすでに存在していることなのかもしれない。

ウクライナはもともとヨーロッパの中でも政治汚職が激しい国だった。プロの政治家の汚職体質に失望した国民はアマチュアの政治家である俳優出身のゼレンスキー氏を選んだという経緯はよく知られている。その後、ロシアの侵攻という厳しい事態に巻き込まれ「有事下の大統領」ということになった。元々の課題だった汚職の撲滅とロシアから主権を守り抜くという2つの大きな課題があるという点では実は何も変わっていないのだともいえる。

ただし支援する側には変化があるかもしれない。アメリカ民主党サイドはおそらくウクライナ支援の立場を変えていない。BBCのトーンを見るとおそらくイギリスも同じような立場なのだろう。

ウクライナを支援する立場からは「自浄作用を働かせようという気持ちがあるからこそ今回のような大量の辞職につながったのだ」と信じたい。また、ゼレンスキー大統領にはこの難局を乗り越えてほしいとも思う。

しかし、やはり「気持ち」だけで支援を継続するのは実はかなり難しいということがわかる。

ルーマニアで支援反対のデモが起きていることからもわかるように欧米側にも支援疲れが見え始めている。特にアメリカ合衆国には特有の別の事情がある。

バイデン政権が安定的にウクライナを支援するためにはウクライナの政治が安定している必要が必要だ。つまりウクライナ政府の動揺は民主党の支援者たちを動揺させかねず、また共和党の攻撃材料にもなるだろう。ただ共和党ないの意見は実は一枚岩ではないようだ。

アメリカ製の戦車を提供すればすぐに戦争が終わらせられるだろうという人がいる一方で支援を限定するべきだと主張する人たちもいるようである。バイデン政権批判という目的は一緒だが党内言論をまとめる人がいないため両極端な意見が出てきてしまうのである。

ウクライナの政治状況そのものに特別大きな変化があったというわけではない。ゼレンスキー大統領は汚職撲滅に意欲を持っておりこの問題に取り組んでいるようだ。ただ支援国の関与は民意によって大きく左右される。支援によって国家防衛を継続することの難しさを感じる。

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