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スウェーデンとトルコの関係が悪化しNATO加盟に暗雲

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スウェーデンとトルコの関係が悪化している。クルド人引き渡し問題がこじれたことが直接の原因だ。スウェーデンのNATO加盟は遅れるだけでなくスウェーデンの政治状況を複雑化させかねない。遠い北欧の話だが、この問題の考察点の一つに「表現の自由」が民主主義の土台を揺るがしてもそれを維持すべきなのかという論点がある。

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スウェーデンとトルコの関係が悪化している。ストックホルムでは政治家も参加してコーランに火をつける抗議活動が行われた。ただロイターこの記事には政治家の名前までは書かれていないため「スウェーデンの国会議員が主導しているのか」などと思ってしまう。最近極右政党が大躍進していたからである。だがその政党の名前はない。

運動の背景にあるのはスウェーデンのNATO加盟問題である。参加国全体の承認が必要だがNATOの参加資格を高く売りたいエルドアン大統領が反対している。だが実はこの政治家はスウェーデンの人ではないのだという。

アルジャジーラによるとこの政治家はラスムス・パルダンというデンマークの極右政治団体代表なのだそうだ。自分の主張を売り込むためにストックホルムに乗り込んだことになる。平和なデンマークよりも加盟問題で揺れているスウェーデンの方が舞台としてふさわしかったということなのかもしれない。

パルダン氏の極端な行動はスウェーデン内にいるクルド人政党PKKの支持者を刺激したようだ。クルド人団体はエルドアン大統領の人形を逆さ吊りにして抵抗している。これもエルドアン大統領をひどく怒らせたようだ。PKKは欧米ではテロ集団と見做されているのだがそのシンボルを掲げることはスウェーデンでは違法ではないのだという。つまりスウェーデンでは表現の自由が広く認められているためにこうした極端な意見も集まってきやすいのだ。

民主主義を守るために表現の自由を確保することは極めて重要である。ただコーランを燃やしたりエルドアン人形を吊し上げることが表現の自由に含まれるのかというのは難しい問題だ。話し合いが民主主義の基幹だと考えるならば暴力は言論の萎縮を生み却って民主主義を阻害するだろう。つまり単に表現を守ることだけが表現の自由の本来の趣旨を体現しているとはいえない。

しかしその線引きを誰がするのかというのは非常に微妙な問題である。さらにそもそも表現の自由が民主主義にとって有効なのはその国の民主主義がうまくいっているからに過ぎないということにもなる。

エルドアン大統領は大統領選を控えておりスウェーデンに亡命したクルド人らの引き渡しを要求している。だが、実際には政権に迫害されているギュレン派の支持者たちも含まれているようである。つまりテロリスト対策として政敵を潰したいという思惑があるものと思われる。結果的にスウェーデン最高裁は引き渡しを認めなかった。エルドアン大統領は100名以上の引き渡しを要求しているのだが、これを飲んでしまうと引き渡された人がどのような目に遭うのかはよくわからない。

スウェーデンのクリステション首相はNATO加盟を実現するためにエルドアン大統領を刺激したくない。だがスウェーデンの伝統である表現の自由や民主主義も守りたい。まさに板挟みである。

この問題は既に国内に燻っている潜在的な不満を過激化させかねない。

スウェーデンには「声を上げられない政治的に正しくない人たち」が大勢いる。彼らの支持を集めたのがスウェーデン民主党である。首相も「もう無理」…反移民が燃え上がる「寛容の国」スウェーデンで極右政党が躍進ではこうした声が極右の躍進を招いたと分析している。スウェーデン民主党という政党でもともとは極右政党だったが「脱悪魔化」を進めついに第二政党になった。とはいえ極端な出自が警戒されており右派政権には入らず閣外協力にとどまっている。

つまりトルコのエルドアン大統領がスウェーデンのNATO入りを妨害しようとするとスウェーデン国内にある反移民感情を刺激しそれが右派政権の不安定化につながりかねないという状態になっている。

いずれにせよスウェーデンでは本来民主主義を守るはずの表現の自由がさまざまな問題を引き寄せているという実に皮肉で複雑な状態になっている。

NATO加盟問題で言えばスウェーデンとフィンランドは対ロシアでNATOに協力しつつも自分達がロシアから攻め込まれた時にNATOから助けてもらえないという宙ぶらりんな状態に置かれている。結果的にトルコの妨害のせいでウクライナと同じ状況に陥っているのだ。

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