各媒体がロスアンゼルス郊外で起きた銃乱射事件について短く伝えている。CNNによるとこれまでに少なくとも10名が犠牲にになった。犯人は捕まっておらず、BBCの英語版によると白いバンに乗って逃走している可能性があるそうだ。状況的には中国系を狙ったヘイトクライムだが当局は動機についての言及を慎重に避けている。このため記事は「春節狙いか?」ととなっているが断定を避けたものが多い。「ヘイトクライムかどうか」はアメリカではかなり微妙な問題だ。
最新のCNNの情報では「どうやら容疑者もアジア系」らしいそうだ。当局がアジア系・大人の男性の行方を追っていると言うところまではわかっているが、まだまだ不明点の方が多い。このため当局は断定を避けている。CNNの記事には近隣のアルハンブラ市でアジア系が銃を奪われたと言う情報もあるそうだ。春節のイベントに合わせた可能性は高いが、今回の報道がすぐに「人種間の問題」につながらないのはそのためである。つまり、中国系を憎悪する白人(ヨーロッパ系)の犯罪とは断定できないのである。
銃乱射事件があったのはロスアンゼルス郊外のモントレーパークという街だ。住民の65%はアジア系とされている。西海岸には多くのアジア系移民が固まって住んでいる街がある。モントレーパークもそのうちの一つなのだろう。
例えば日本からの駐在員の多くはトーランスなどの南部に集まっている。駐在員相手の日本食レストランや日本食材店が多く見つかる上に「暮らしやすい」と口コミが広がりコミュニティができるのだ。トーランスで「日本語だけ」で生活して英語に触れずに帰ってきたと言う駐在員家族も多いのではないかと思う。つまりその気になれば日本語だけで生活ができる。
モントレーパークは東部ロスアンゼルスに位置する。インターステート10号線の沿線にあるため郊外のリバーサイド・サンバーナディノなどにも行きやすい。インターステート5号線を南に降ればディズニーランドのあるアナハイムなどにも行くことができる。車社会のアメリカではこうした場所は交通の要衝になる。
もともと中国系の街と言うわけではなかったようだが次第に富裕層のアジア人が多く集まるようになった。富裕層顧客をもとめてチャイナタウンから多くの商店が集まると中国系人口が増えていった。最初のコミュニティは台湾系だったそうだが次第に大陸系の人たちが増加したようである。旅行ガイドには「本格的な中国料理が食べたいならココ」と言うような記事も見られる。
ハイウエイ沿いなのでレンタカーを借りれば移動は難しくないだろう。現在では地下鉄やライトレールも開通しているようである。
今回の事件が「人種間対立」かどうかはともかくとしてもともといたヨーロッパ系の住民の中には「アジア人に街を乗っ取られる」と言う恐怖心を持った人たちも大勢いたようだ。このため街の看板を英語にしなければならないと言う条例が制定され長い間議論になってきた。
例えば2013年に「街の看板は英語でなければならない」という条例は憲法違反だとして議論になっていると言う記事を見つけた。修正案は現代ラテンの文字(つまりアルファベット)でなければならないと規制を緩めるものなのだがそれでも議論の対象になっている。この条例の目的は明らかに「中国語の規制」だが推進派は「誰にでもわかる英語にしないと安全に関わるから」などと議論を合理化していたようだ。
日本人の多くは「アメリカの公用語は当然英語だ」と考える。だが実際には「英語を公用語」にすることに対してはかなり反発が強い。一方で街中から英語が消えかけて英語話者が理解できないと言う地域もある。言語をめぐって長い間議論が続くと言うモントレーパークのようなケースは決して珍しくないだろう。その意味ではアメリカの人種間の「議論」の最前線の一つのような街である。
BBCの写真を見ると犯行現場は星舞(Star Ballroom Dance Studio)というダンスクラブだったそうだ。イスラム系の犯行だとすぐに「テロ」だということになるのだが、アジア系が狙われた場合当局は「ヘイトクライムかどうかは慎重に見極める」と発表する傾向がある。
中国系と言ってもその内情は極めて複雑だ。例えば新しい移民と古くからの中国系アメリカ人は異なる背景を持っており、台湾系と大陸系の関係も複雑である。
ただ非アジア系のアメリカ人が今回のニュースを聞いて「中国系はなんとなく怖いな」という印象を持つことはあるのかもしれない。報道写真には多くの漢字の看板が見られる。中国系と日本系の区別がつかない人も大勢いるだろうということを考えると日本人・日系人の印象悪化にもつながりかねない由々しき事態といえるのかもしれない。
今後の報道に注目が集まる。
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