マクロン政権の2回目の年金改革法案でフランス政治に不安定化の兆し

フランスで再びデモやストライキが広がっている。今回のきっかけは年金改革だ。マクロン政権にとっては2回目のチャレンジになる。このデモやストが直ちに政局の不安定化につながることはない。だが、激化すればフランス政治のみならずヨーロッパ経済にとっても大きな不安定材料になるだろう。問題はその行く末が誰にもわからないという点にある。






構造だけをみるとフランスの政治状況はアメリカの政治状況に似ている。アメリカ合衆国ではマジョリティから没落しかねない白人の不安や不満が形を変え議会を混乱させている。フランスでも将来不安を抱えた地方在住者たちが右傾化している。ところが、アメリカのような明確な二大政党構造がないためこの動きが見えにくい。都市には急進左派がいる。彼らは右傾化した地方在住者と共闘することはない。

さらに状況を複雑にしている問題がある。組合によって統制されたストやデモの他にSNSで広がる無秩序なものがあるのだ。後者が長期化したのがイエローベスト運動だ。再燃の兆しがある。


今回のデモとストについて伝える記事で日経新聞は1995年12月にシラク政権の対抗するために行った200万人デモと2010年のサルコジ政権の100万人デモについて伝えている。シラク政権は年金改革を断念しサルコジ政権では断行されたと書いている。CNNによると今回のデモ参加者は100万人を超えている規模のようだ。デモは8つの労働組合が呼びかけており交通機関の職員と教員が参加しているという。教員の参加率は小学校の40%と高校教師の1/3以上と極めて高いがこれはまだ統制されたデモやストである。

一方で統制されないストもある。2022年の年末にはフランス国鉄でデモが起きている。労働組合は「デモそのものは合法である」と容認の姿勢は見せたがデモの実施は呼びかけなかったという。にも関わらずクリスマスにデモが起き休暇シーズンの国民から反発する声が出ていた。つまりSNSを通じたデモを労働組合が抑えきれていないとわかる。無秩序なストが広がれば国民は反発するだろう。これが政局に響いてくる。

第一期マクロン政権では燃料費高騰の抗議運動が無秩序なマクロン政権打倒運動につながった。NHKは「中流階級の没落」が怒りとなってマクロン政権を直撃したと説明する。参加者たちが黄色いベストを着て集まったことからイエローベスト運動などと呼ばれた。

ではこのイエローベスト運動はどのような背景で起きたのか。朝日新聞が指摘するのは地方在住者が抱える漠然とした不安である。

朝日新聞によるとフランスでは地方分権が進んでいる。自己責任でやってくださいということだが、地方自治体の長たちは「権限を渡された」とは見做さず「見放された」と漠然とした不満を持っているというのだ。燃料高騰は都市経済よりも地方経済を直撃する。何をするにも車が必要だからだ。

当初「地方の反乱」は穏やかなものだった。だがこれを利用して暴れたい人たちがいる。おそらくパリで暴れている人たちはネオナチと呼ばれる暴れたい人だったというのが朝日新聞の見立てのようである。朝日新聞は民衆が暴力化しているとは考えたくないのだろう。

誰が首謀者かは別にして、マクロン政権にとって無秩序なデモは好都合だ。穏健な国民はデモやストに共感しなくなり改革が進めやすくなる。さらに反マクロン陣営が一枚岩ではない点もマクロン大統領にとっては好材料だ。

マクロン政権に反対する人たちの中には地方在住者と都市在住者がいる。地方在住者はルペン候補に期待を寄せる。つまり古き良きフランスへの回帰を期待して右傾化するのだ。ところがパリなど中央部に住んでいる人たちは左派に期待を寄せる。左右が一枚岩になれないため、結局のところマクロン大統領が代表する改革派が勝ってしまうのである。都市で暴力的な問題が起これば穏健な人々はさらに「極右」を憎悪する。

2022年4月に行われたフランス大統領選挙を思い返すとルペン候補は反マクロン票をまとめきれずマクロン氏が逃げ切る形になった。マクロン氏への得票率は58.55%だった。左派を代表するメランション氏の支持者は選挙に参加しなかったと言われている。

大統領選がこの調子ではと思われたのだが、議会選挙ではマクロン氏が率いる与党連合は過半数を獲得できなかった。結果的に伝統保守の共和党がキャスティングボートを握ることになる。

政権運営は不安定だ。2022年10月に議会承認なしで予算を通したという。共和党は存在感を見せつけるためにも修正案を政権に飲ませてそのまま年金改革案を通したい。今回もマクロン政権はは社会保証関連の予算を全て抱き合わせにして強行突破を図りたい考えなのだそうだ。強行突破とは「議会承認なしに予算を通す」という方法なのだが、当然議会は内閣不信任で対抗する。世論の流れを読んで(つまり自分達が勝てると見込んで)共和党が反マクロンに同調すれば解散総選挙となるようだ。

今回の100万人デモやストが直ちに政局の不安定化につながることはない。問題はこれがどの程度誰に広がるかである。国民の間に反発が広がれば解散総選挙ができなくなりマクロン政権にとっては不利だ。だが広がりすぎれば国民は却って離反する。離反した国民は安定を求めるのだからマクロン政権にとっては有利になる。状況は流動的で先行きが読みにくい。

フランスはEU/NATO圏内では屈指の大国だ。大統領選挙や議会選挙ではロシアの関与が指摘され、政治家とプーチン大統領の距離が議論されることもある。二大政党制ではないが故にかろうじて危うい安定を保っているフランス政治は常に流動化の危険を孕んでいる。

Google Recommendation Advertisement



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です