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マヨルカス国土安全保障長官の吊し上げにみるアメリカ議会の劇場化

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アメリカ合衆国で国境政策の責任者である国土安全保障長官を吊し上げる動きがある。民主主義が行き詰まった国でよく見られる議会制民主主義の劇場化の動きだ。おそらくはマイノリティ転落に怯える一部の白人たちが問題をすり替えているのだが、自分達の議席をできるだけ高く売りたい議員たちにはこれが好都合なのだ。穏健派は戸惑い転落に怯える人たちの不安も解消されない。

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この吊上げの顛末の詳細はCNNが「米下院共和党、国土安全保障長官の弾劾準備進める 穏健派には迷いも」という記事で説明している。

下院共和党がマヨルカス国土安全保障長官の弾劾に向けて動き出した。閣僚の弾劾は異例である。共和党の一部に「アメリカ合衆国の一番の問題は国境政策である」と考える人たちがいる。彼らはフリーダムコーカスとかMAGA共和党員などと総称されるが日本のように明確な党派があるわけではない。彼らは「国境の南から難民が押し寄せてきてアメリカ合衆国が滅茶苦茶になっているがバイデン大統領は何もやっていない」と主張しており「調査委員会」を作ってバイデン政権の政策を点検すると言っている。

閣僚の弾劾は極めて異例で1876年に試みられただけであった。ウィリアム・ワース・ベルナップ陸軍長官は南北戦争直後の長官だ。ネイティブアメリカンから賄賂をもらっていたとして下院で弾劾決議が出されたが上院で否決されている。「唯一弾劾されかけた閣僚」として民主党がトランプ政権を弾劾しようとしたときにも引き合いに出されていた。

CNNはこの弾劾の動きが「造反組共和党員とマッカーシー新議長の取引だった」と説明している。つまりマッカーシー氏はMAGA議員の支持者たちが喜びそうな政治ショーの舞台を提供することで議長の地位を得たことになる。

では実際に彼らMAGA共和党員の主張する「危機」は本当に存在するのだろうか。実はアメリカ合衆国ではそれ以上の「危機」が起きている。白人人口が減少し始めているのだ。だがこれは政治的に解決できない問題である。人口動態の変化なのだが、アメリカで白人だけを増やす政策は実施できない。

2021年8月に公表された統計によると史上初白人人口が減少した。アメリカ合衆国に「白人」はヨーロッパ系の子孫だがスペイン語圏の人たちは「ヒスパニック」として分離されている。この時の調査でによる白人比率は57.8%だった。だがこのまま減少すると白人の比率は下がってゆくものと言われている。

表向きこのニュースはアメリカ合衆国で多様化が進んでいる証と考えられているが実際にはこれまでマジョリティだった白人がマイノリティに転落することを意味する。つまり彼らが今までマイノリティ(主にアフリカ系)にやってきたことをやり返される側に転落するということである。

政治的に正しいステートメントではアメリカ合衆国のイノベイティブな経済成長は多様な社会によって支えられていることになっている。だがこの政治的な正しさは競争から脱落した白人層を救済しない。

近年のアメリカでは中年の白人層の自殺や薬物・アルコール中毒患者が増えている。アフリカ系のオバマ大統領の誕生からもわかるようにイノベーションの担い手として有色のアメリカ人を優遇する傾向もある。つまり主役の座から転落しつつあるのだ。

だが、白人が競争優位を失うことがなぜ自殺や中毒の増加につながるのかについてはわかっていないことが多い。さらに競争社会で助けを求めることは負けを認めたことになってしまう。このため問題が表面化することもない。問題が表面化しないので政治的課題にならない。

日経新聞はこの傾向はやや緩和されたと書いているが「経済的困窮や将来への悲観を遠因とした絶望死は依然増加していると指摘している。

民主主義社会が問題を表面化できないと形を変えた怒りになって政治に向けられることがある。おそらく議会で横行する閣僚の吊上げにはそのような側面があるのだろう。マヨルカス長官は自身がキューバ系の移民である。1歳の時にハバナからやってきたそうだ。一部の共和党支持者たちは「当事者に国境問題を扱わせたら自分達に有利な政策を展開するに決まっている」と考えていたのではないかと思う。就任時にも共和党から強い反発を受けており「過去の記録に基づけば長官より低位の職でさえも承認すべきではない」とする主張があったのだそうだ。

ただ、いわゆるMAGA共和党議員たちが本気で問題を解決しようとしているのかも実はよくわからない。彼らは明らかに自分達の議席を高く売りつけようとしておりそのために困窮する人たちの怒りを利用している可能性がある。下院議長選挙ではトランプ前大統領が事態収拾に乗り出したが造反組の共和党議員たちは最後まで下院議長との取引を続けた。任期が極めて短いこともあり自分達の議席をできるだけ高く売りたいという人が多いのだろう。

共和党はこうした怒りを利用してかろうじて多数派を形成している。だが、穏健派の中には「これはいくらなんでもやりすぎなのではないか」と考える人たちも出てきているようだ。MAGA共和党の主張に乗っ取られる形になれば穏健派は政治から離れてしまう。結果的に共和党は有権者の支持を失うだろう。

このところアメリカ合衆国で続いている動きは、議会や民主主義が必ずしも問題解決に結びつかないということを示している、また、アメリカの民主主義が南北戦争以来の大きなストレスに晒されていることもわかる。南北戦争の時も黒人奴隷の問題がメインテーマだった。アメリカ合衆国の政治は人種間問題で常に脆弱性に晒されているのだといえる。

日本を巻き込んだ対中国路線も実はその延長にある。内側に向いたストレスをどうにかして外に向けて逃がそうとしている。そのためにはアメリカから遠く離れた中国を利用するのが好都合なのである。

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