黒田日銀の「現状維持」に渦巻く怨嗟(えんさ)の声

黒田・日銀が政策の現状維持を決めた、Bloombergなどは事前にプロの声を紹介し「おそらく政策変更はないだろう」という記事を出していたが、SNSでは「何やってくれてるんだ」という怨嗟の声が渦巻いていたようだ。中には「一部マスコミが出した財務省の点検という記事は間違っていた」などという人たちもいるようだ。つまり巷には「政策変更があるのではないか」という観測が出回っていたことになる。

一体何が起きたのか。






おそらく個人投資家たちは、時代から取り残されている黒田氏の頑迷さを読み違えたのだろう。SNS上で怒っている人たちが大勢いた。

プロのエコノミストたちは「黒田総裁は自分の間違いを頑なに認めようとしないだろう」と読んでおり「政策維持」を伝えるBloombergの記事も「ブルームバーグが6-11日に行ったエコノミスト調査では、ほぼ全員が今回会合での現状維持を予想」などとどこか誇らしげだ。

つまり、今回の一番の見どころはSNSに見られる金融の専門家・個人投資家たちと当局の意識の乖離だったことになる。

実際に黒田総裁の会見は痛々しいものだった。すでに限界が見えているYCCが持続可能だといまだに言い張っている。さらに12月に市場が「事実上の利上げ」観測とみなしたこともおそらく苦々しく思っているのだろう。共通担保オペという仕組みをつかってでも徹底的にやり切ると宣言した。ただしロイターは「担保となる国債は品薄状態」と指摘する。

識者たちは「黒田総裁の任期中に政策変更は起こらないだろうが黒田・日銀の政策は持続可能ではないだろう」と読んでいる。ただし彼らはこれからも「村」でやってゆく必要があり「黒田さんは自分の間違いを認めようとはしないだろう」というような書き方にはなっていない。つまり、この手の記事は村の事情を察しながら行間を読む必要がある。

黒田日銀の敵意は投機筋に向いている。投機筋潰しのために「徹底抗戦」を打ち出したことで国債の利率は下がったようだ。市場を動揺させ日銀・財務省が主導する金融市場の安定(停滞ともいうが)を脅かしているのは一部の悪辣な投機筋であるという見立てになっているのだろう。ただこのために何が犠牲になるのかはよくわかっていない。

では、一部報道が出た「財務省の点検」などはどう読み解けばいいのか。あれは大手マスコミの間違いだったのか。

おそらく財務省の人たちも「もう黒田さんの時代は終わった」ということはわかっているのだろう。つまり、防衛線が突破され問題が起きた時の準備を始めた。

「次への準備」は着々と進んでいる。財務省から国債費が3.6兆円増えるという予想が出された。想定金利が1%増加すれば国債費は3割増える。現在の国債費は予算の22%を占めるが年3%の名目成長を前提にすると国債費は一般会計の25%まで膨らむそうだ。安倍派の反発も予想されるのだが事実上の金利上昇(国債価値の下落)は始まっており日銀が国債を回収して事態収束を図っている状態だった。つまり、今回の利上げが見送られても近い将来利上げに追い込まれるだろうという方向で準備が進んでいるのだ。

財務省の中にも「政府から財政規律が消えたのは全て黒田総裁のせいだ」という怒りの声が渦巻いているようだ。東洋経済が「低金利政策によってここまで政治家の財政規律を喪失させたという意味で、日本の財政問題は、もはや日銀の問題だ」という関係者の声を伝えている。だが、財務官僚がリスクを取って実名で政治に働きかけたり黒田さんを説得したりすることもないのだろうということもよくわかった。

変われないし変わろうとしない黒田総裁が中央に居座っているために物価見通しがかなりおかしなことになっている。

2022年の物価見通しは3.0%となり黒田総裁は目標を達成したことになった。ただそれは一時的なものであるという説明をしている。だから金融政策はこのままでもいい。ただ、2023年には物価上昇率は1.6%に下がり、2024年には1.8%になるだろうと言っている。ただこうなると逆になぜ2023年に一度下がり2024年に再びちょっとだけ上がるのかが全くわからなくなる。

ウクライナの戦争が終結する見込みは立っておらず原油・エネルギー価格の上昇が2024年に収まっているという保証は全くない。

政策との一貫性もない。政府は企業に賃上げを要求している。賃上げが定着すれば物価は当然もっと上がるはずだ。賃金を価格に転嫁する必要があるが労働者も価格上昇を受け入れやすくなるだろう。だがそれは織り込まれていない。そんなものは長続きしないだろうということになっているからだ。

日銀内部での整合性を取るために他のことは全て犠牲になってしまっているようだ。

ただ黒田総裁と副総裁の任期切れも近い。

次のイベントは日銀総裁案の議会への提出である。2月10日に提示される予定だそうだ。現在、政府関係筋からは盛んに「副総裁の中から選ぶべきだ」という観測が出ているが、民間のエコノミストの中には市場とのコミュニケーションを円滑にするために女性の方がいいのではないかという意見も出ている。

週刊誌の中には翁百合子氏という具体的な名前を挙げ「岸田総理が政権浮揚に人事を利用しようとしている」という観測を書くところもある。副総裁として女性がいた方がいいという人がおり「いやいやサプライズなら総裁にすべきだ」などという人もいる。

関係者は順当に副総裁が繰り上がるのではないかなどと見ているようである。これ以外の人が出てくれば「サプライズ」ということになり、金融市場に一定の影響が出る可能性もある。

ただこれまで通り日銀総裁だけが市場とのコミュニケーションを担当するという前提も実は変えた方がいいのかもしれない。

アメリカの連邦銀行には複数の連銀総裁がいる。投資家や政治向けに「高金利政策はいつまでも続くわけではない」と説明しなければならないが過度な楽観論がインフレを加速させることも防ぎたい。このため集団で役割を分担しそれぞれがそれぞれのメッセージを発信している。これくらいのことをやらないと市場とのコミュニケーションはできないような複雑な状況になっている。

これまで、日本の日銀総裁人事は財務省・日銀の内輪の事情で決まってきた。閉ざされた内向きな護送船団方式だったため「男は黙って黒田東彦」という感じですんでいたのだ。今回の一連の騒動で次期総裁はおそらく海外投資家やSNSにいる個人投資家の声を聞いて適切なメッセージを発信できる人でなくてはならないということがわかった。

おそらく複数の人がそれぞれ役割分担をしたうえで政府とも強調しながら適切なメッセージを発信する必要があるのではないかと思う。

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“黒田日銀の「現状維持」に渦巻く怨嗟(えんさ)の声” への1件の返信

  1. まったくいい意見だと思う。
    ある程度の政策変更は 自然に
    市場に織り込ませる必要があると
    思う。不意打ちばかりでは
    市場が 機能不全に陥る危険が
    あると思います。

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