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高速道路の無料化期限は2115年まで延長される。道路インフラ維持の財源も不足。

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高速道路無料化が2115年まで延長になるというニュースがあった。「どうせ無料化するつもりはないんだろうな」と思う一方で「経緯を調べれば軽く記事が書けるのだろうな」と侮った。これが甘かった。議論が複雑怪奇な上にまとまった議論がない。政策の良し悪しを判断しようにも判断材料すらない。そこで「そもそもなぜこうなったのか」について調べてみた。

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経緯の簡単なまとめ

  1. もともと道路は国や地方自治体が整備するという常識があった。
  2. 戦後復興期の国にはお金がなく高速道路を借入金で作ったため利用者負担することにした。
  3. このお金に目をつけた田中角栄が「プール制」を導入して地方に資金を回した。
  4. 小泉純一郎が「高速道路を民営化すれば2050年までに無料にできる」と提案した。
  5. 民主党が「自分達ならもっと早く無料化できる」と実証実験をやり大失敗した。
  6. その後「道路の維持経費が全く考慮されていない」ことがわかり安倍、菅、岸田内閣で無料化期限が延長され続け、ついに「事実上の無料化撤回」ということになった。

今回のニュースはこのうち4以降について説明している。

読売新聞が「民営化で掲げた高速道の無料化、事実上の撤回…92年後まで有料可能に法改正へ」という記事を書いている。これを読むと小泉政権の失敗なのかという気がする。だったら小泉政権の時の経緯さえ調べれば「簡単に記事が一つ作れる」と思った。ところがこれは全体像ではなかった。

複雑怪奇な有料高速道路の歴史とどんどん大きくなる魔法の財布

もともと、道路は国や都道府県が税金で作って無償で提供することになっていた。つまり道路は無料であるという前提がある。しかし日本はインフラを整備するお金がなく世界銀行などからお金を借りていた。このため利用者が返済しなければならないということになったようだ。2019年のくるまのニュースにはそのように解説されている。恩恵を受けるのは主に製造輸出業だからこれは理になっている。

道路は一つ一つ管理されており「それぞれがお金を返し終われば無料になる」という約束だった。ところが田中角栄の時代に「都会だけがいい思いをしているのだからそのお金を地方にも分けてもらおう」ということになった。そこで個別の償還期限を一元化し「プールする」という方式が考案される。政治的な意志で分配できるようにしたのである。

小泉政権が高速道路の管理会社を民営化した。民営化されれば経営効率は良くなるという前提が置かれており国民はそれをエビデンスなく信じた。将来無料になると高速道路会社は収益源を失う。だからこれは矛盾した政策だったのだが誰もその矛盾を疑わなかったようだ。小泉政権では2050年までに無償化をすると約束された。具体的な数字を出されたことで有権者は「きっと綿密に計算してくれているのだろう」と期待したのだろう。特に反対意見は出なかった、この期待は後に大きく揺らぐことになる。実は民営化よりも「道路財源を一本化して利権化する」のが狙いだった可能性がある。この時に一般有料道路と高速道路の財布が一元化されたそうだ。

田中角栄政権の「プール制度」は政治にとっては都合のいい制度であった。だが、田中内閣も高速道路と有料一般道路の区別はなくせなかった。これをなくして「全国路線網」というもっと大きな「お財布」にしたのが2005年だったという。こちらに着目すると小泉内閣の民営化は事実上「お財布を大きくするため」の方便だったことになる。将来負担については検討せず「民営化すれば将来的には高速道路が無料になりますよ」と宣伝しつつ実は利権を増やしたのである。小泉政権は政敵の支持を狙って郵政民営化もやっている。後に国土交通大臣は公明党の「定席」になる。

大きく複雑になった問題を「一気に解決」しようとして失敗する

今度は民主党が自民党との差別化のために「民主党になれば高速道路は無料になる」と宣伝を始めた。岩國哲人氏も2008年に国会で質問をしている。民主党が「間違えて」政権を取ってしまうと約束したことを実行しなければならなくなってしまう。これが大失敗だった。

民主党は実証実験として補助金を出すという方式を採用した。ETCをつければ高速道路を1000円で利用できますよという制度だったそうだ。だがこれが潜在需要を掘り起こしてしまい単に渋滞と補助金が増えるだけになった。道路網全体を考えて細かく計画を立てなければならないのだが「そもそも政治的に巨大化した問題」を一気に解決しようとしたのだ。

資本主義の需要と供給の仕組みをよく理解していないことから起こった間違いだったと言えるだろう。一部では無料化実験も行われていたそうだがこちらも渋滞が増得る結果に終わったそうだ。

一度失敗すると「全部ダメだった」と言う評価になる

日本人は自分の利害調整に関しては極めて慎重だが全体のことになると雑な考え方で問題を一気に処理しようとする。そしてその雑な施策が失敗すると「ああ全部ダメだった」と思い込む。反省はしない。夏休みに宿題を溜め込み8月30日あたりから取り組み始め「これはできそうにない」ということになると全部諦めて先生に怒られるといった感じだ。

民主党のあまりにも雑すぎる無料化実験が失敗すると「全部がダメなのだ」ということになった。さらに小泉政権化の無料化目標にも実は穴があることがわかった。メンテナンス費用を誰が負担するかについて誰も考えていなかったのである。もちろん小泉総理大臣は責任は取らない。

2021年7月に関連記事が見つかった。すでにこのときには2065年が期限だったが「老朽化対策のために」という理由で期限を延長すべきだと言う議論が出たのはこの時だったそうだ。

当時の記事では2012年笹子トンネルの崩落によって「巨額のメンテナンス費用を確保する必要がある」として2014年に2050年と言う目標を2065年に延長したと書いている。ところがこれも守れそうにないため、高速道有料期限、65年から再延長へ 老朽化で無料遠く「事実上の永久有料化」が検討されることになった。今回の記事は2021年の答申の決定ということになる。

笹子トンネル事故が起こったのは安倍政権時代だ。さらに菅政権時代を経て、現在の岸田政権時代に「やっぱり無理」ということになった。だが「無料化政策」は撤廃できないので、2115年まで延長ということで誤魔化したということになる。この間誰も何が間違っていたのかは総括していない。「やっぱり仕方ないですね」ということになっただけである。

自民党・公明党政権も民主党政権も怠け者で要領の悪い子供のような政権だ。宿題を溜め込みできなくなったところで「先生どうしよう」と泣きついてくる。さらにタチが悪いのはそれを誤魔化そうとする点である。

おそらくは高速道路料金を値上げしたいのだろう。だが値上げというと国民からの反発は大きい。そこで「利用料に応じて料金を調整する」と言っている。高速道路は無料の道路と並走している。それぞれを別の仕組みで管理しているのだから全体像を把握できるわけもない。さらに地方の有力な議員たちは「自分達の地方だけは特別扱いしろ」と主張するだろう。

NHKは無責任に「国土交通省が、中間答申を踏まえ、有料期限や料金制度について利用者が納得できる結論を導き出せるかどうか、今後の検討状況をよく見ていく必要がありそうですね。」と結んでいる。道路ネットワークの性質上「全ての人が一律に納得できる結論」など出せるはずはないのだ。

そもそも一体何の議論をしているのか

もともと日本には太平洋ベルト地帯構想があった。茨城県・千葉県辺りから福岡県の北九州工業地域にかけて太平洋ベルト地帯と呼ばれる工業地域を設定し国の力でインフラ整備しようとしたのだ。

ところが現在の道路インフラのニーズはこの時とは全く異なっている。日本は脱工業化してしまい、代わりに通販ニーズが高まっている。太い高速道路網よりも地域に細かな交通ネットワークを整備した方が効率的なはずである。

現在の議論は「高速道路を無償化するか」だが、実際には老朽化した交通ネットワークをどう維持するのかということの方が大切なはずである。あるいは一部地域の整備を放棄して都市部に集中的な投資をした方がいいのかもしれない。

日経新聞は次のようにまとめている。

安全を保つには定期的な更新が必要だが、巨額の費用が壁になる。国交省が国内の道路、下水道、河川、港湾、空港などの維持管理・更新にかかる費用を試算したところ、18年度は5.2兆円だった。38年度は6.6兆円ほどに増える。48年度までの30年間の合計は195兆円程度と見積もっている。

現在の交通インフラの議論にはこの辺りの事情が全く欠けている。場当たり的な政策変更が繰り返され国民の負担は増えるのに地方の道路網のための財源が足りないという事態に陥っている。

おそらく今のような議論を続けている限り国民の負担は重くなってゆくばかりだろう。

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