2023年4月は統一地方選挙の年なのだが、その前哨戦として政令指定都市の北九州市長選挙が行われる。現職の北橋市長が引退を表明しており津森洋介氏が「北橋市政を継承する」という路線が固まりつつある。ところが地元の重鎮である麻生太郎氏が機嫌を損ねてしまいちょっとした混乱状態にあるようだ。これに菅義偉元総理が巻き込まれかけたことで全国ニュースになった。
福岡県は実に不思議な県だ。県の成り立ちが豊前、筑前、筑後に分かれており県としての一体性がない。豊前に位置する小倉を中心とした北九州市と筑前の中心地だった福岡市では文化にかなりの違いが見られる。このほか久留米などの「筑後」はまた別の文化圏になっている。さらに旧産炭地にも独自の文化がありこちらは「筑豊」などと呼ばれる。
総理大臣も務め今では副総裁の立場にいる麻生太郎氏は筑豊の選出だがなんとなく「東京の人」という印象が強い。また豊前の北九州市以外の地域は11区を形成している。こちらは武田良太氏の地盤だ。武田氏は二階派である。
さらに九州で最も経済的に発展していることもあり東京に対しては憧れよりも対立心の方が強い。大阪府ほど対抗心はあからさまではないが「好きにやらせてほしい」という気持ちが強い人も多いのだ。
その、福岡県政に異変が起きたのが2019年だった。自民党福岡県蓮は厚生労働省出身でマッキンゼーなどのコンサルファーム経験もある武内和久氏を擁立した。麻生太郎氏の意向が強かったと言われている。だがこれに反発した地元の人たちは現職の小川洋氏を支援した。結果は小川氏の圧勝だった。
小川氏は麻生政権で広報官を務めていた。つまり、元々は麻生太郎氏が連れてきた人だ。だが地元での経験を積む上で麻生さんが疎ましくなったのだろう。徐々に関係が悪化していったようだと言われている。普段は東京にいる麻生太郎氏に疎まれて小川さんはいじめられているということになり地元は反麻生で結束した。東京に対して「自由にやらせてほしい」という気持ちもありさらに麻生氏個人の資質の問題も絡んでいたのであろう。
福岡県には古賀誠元幹事長や山崎拓元副総裁などの実力者も残っている。さらに県内で影響力を増したい武田良太氏も反麻生包囲網に参戦し状況が複雑化した。
この複雑な状況下で小川氏が原発性肺腺がんになり辞職してしまう。政界引退後は闘病されて亡くなっている。
再び武田良太氏が「蠢き出す」のだがこれを抑えたのが二階幹事長だった。「再びの保守分裂はまかりならん」ということになり福岡県知事選挙の保守分裂は回避された。武田氏は当時総務大臣としてNTTの接待問題を抱えていた。この時に菅義偉総理大臣は「大臣自身が説明責任を果たすように」と答弁している。
NHKの報道によればこの時は麻生太郎氏を全面に押し出すことで麻生さんの顔を立てたようである。古賀、山崎、武田各氏が全面に出ることはなかった。結局小川洋氏の後継である服部氏が順当に福岡県知事になった。県庁生え抜きとしては初めての知事になるそうだ。
NHKはこの時のやりとりを面白おかしく「福岡三国志」と書いている。諸侯が乱立し一瞬先はどうなるかわからないという含みがおそらくはあるのだろう。
県知事選挙が終わって一旦収まりかけていた「福岡三国志」だが、今後は北九州市長選挙を巡り混乱が生じている。
麻生太郎氏は完全にご機嫌斜めになっており「津森氏は推薦しない」と駄々をこねていた。森山選挙対策委員長は慌てるが「黙認する」ということで麻生氏抜きで推薦を出したという経緯がある。今回、津森氏の対立候補はかつて麻生さんが福岡県政に引き入れようとした「コンサル上がり」の武内さんである。つまり麻生太郎さんの介入は状況をどんどんと複雑なものにしている。
麻生太郎氏は「もう自分は知らない」と機嫌を損ねているが東京から誰も来ないでは話にならない。自民党系市長のウリは「中央との太いパイプ」である。だが麻生さんの機嫌を損ねるため誰もきてくれそうにない。そこで武田良太氏が引っ張り出そうとしたのは菅義偉元総理大臣だった。
自民党福岡県連は公明党に事前相談をしなかったそうだ。国政ではパートナー扱いされているが地方の状況は異なっている。そこで「機嫌を損ねた」公明党に機嫌を直してもらうために菅義偉氏を引き込もうとしたのである。新潮の記事はこれが直前でキャンセルされたと言っている。
ただでさえ複雑化しているのにここに武田さんと菅義偉さんまで入ってきてはまとまる話もまとまらなくなると考えた地元が「話をややこしくしてくれるな」とばかりに菅義偉さんと武田さんの参戦を拒んだ。
新潮は地元県議たちが「白血球のように阻止した」と書いている。つまり武田良太さんはバイキン扱いということになるだろう。菅義偉元総理はすんでのところ巻き込まれずにすんだという形になる。
と、一応話をまとめてみたのだが「高齢の実力者」たちのメンツ争いから福岡県の自民党がぐちゃぐちゃになっているというだけの話だ。この間、全く政策の話が出てこない。さらに立憲民主・国民民主なども野党としては機能していない。おそらく野党らしい野党は独自候補を立てている共産党だけだろう。
ここから中央の自民党・公明党政権というのは立憲民主党・国民民主党などの「政権を取れそうな敵」がいるという緊張感だけでまとまっていることがわかる。福岡は共産党を除いたオール野党体制なので「老害がもたらすエゴ」が問題になりやすいのだろう。
ニュースメディアは「保守分裂」と書いている。だが実際にあるのは高齢者によって振り回された人たち複雑にした人間関係があるだけでとても「保守が分裂している」というような感じではなさそうだ。
いずれにせよ北九州市長選挙は2023年1月22日に告示され2023年2月5日に投開票となる。
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