銀行株が軒並み高騰しているそうだ。具体的な動きが始まったことでいよいよ政策変更が近いのではないかと期待する人たちもいるようである。一方で金融庁が地銀20行の保有資産の点検を始めたと短く伝えられている。日銀の政策変更の影響がどの程度のものになるのかを金融庁が精査し始めたのだろう。共同通信は「含み損拡大懸念」と書いておりこれは悪い予感がする。格差が広がると「明るい方」と「暗い方」のどちらを意識するかによって状況が全く違って見える。
アメリカの12月のCPIは経済過熱がピークを過ぎたらしいことを示しており「出口に向けて動き出せる」展開になっている。これは金利差の縮小と円安の解消を意味する。さらに世界経済は減速に向かいそうだ。一方で黒田日銀の金融政策はもう限界なのではないかと囁かれている。日本政府の財政状況も悪化するだろう。ここまではすでに先々日と先日お伝えした通りだ。
黒田総裁は退任前に自分の出した金融政策を整理するのではないかとの思惑が広がった。金融政策会合はあと2回しかない。ただ「事実上の金利上昇」発言から時間が経っていないため「さすがに2回連続のサプライズはないだろう」という観測もある。
1月12日の四季報オンラインは「みずほFGなど銀行株が軒並み高、金利上昇で利ザヤ改善期待」という記事を出している。
12月19~20日の前回会合で政策修正に踏み切ってから1カ月足らずと間隔が短いこともあって今回は政策変更なしという見方は多いが、前回の決定がサプライズだったことから注意は怠れないとみる投資家は多い。
「政策変更があるのかないのかはっきりさせてほしい」という気はするが、あるともないとも言えないというのが正直なところなのだろう。
ところが翌日1月13日の日経新聞は「銀行株、8割が昨年来高値 三菱UFJはリーマン前回復」という記事を打ち出した。金利が上昇すれば銀行の収益は改善する。このため都市銀行だけでなく地方銀行の株も買われているそうである。正確に言えば「東証プライムでは「銀行業」に分類される67銘柄が全て上げ」ているので「昨年来高値」をつけているのが8割強になっているだけで、下がっているところはなかったということになる。これまで「忍耐の冬」が長かったため春が待ちきれないと言ったところだ。逆に来週の18日に「政策変更がない」ということになれば落胆も広がりそうで少し不安になる。
少なくとも大手都市銀行にとってはいい動きのようだ。金融全体を救うために実力のあるところは重すぎる足枷をつけられて身動きが取れなかった。いよいよそれが解放されるかもしれないのである。
一方で金融庁は地方銀行20行の資産チェックを始めたようだ。記事の日付は1月14日である。つまり時事刻々と情報が更新されている。記事は有価証券運用の専門部署や人材を置いているかどうかなども点検するとある。「事実上の利上げ」の影響調査だけでなく将来に向けて対応できそうなのかを調査するということになる。共同通信の短い記事からは、専門性のない人が有価証券運用に関わっている地銀もあるのだろうと読み取れる。
他の日銀記事を見ても一部地銀の危うさが匂う。「仕組み債販売で地銀99行調査 金融庁、顧客軽視にメス」という記事が見つかる。これまで低金利政策で思うように動けなかった地銀が「もう国債には頼れない」と感じ取り独自に債権を購入し始めた。金融庁が調査をしているということはこのリスクをそのまま顧客に付け回しするようなところがあるのだろう。さらに地方銀行で企業周りしていたような「おそらくは専門知識のない」人がこうした仕組み債を組んでいる可能性もある。専門性のない人が損を顧客に付け回すとどうなるのか。想像するとなにやら怖くなってくる。
こちらは「足枷」になっていた銀行の処理といえる。実際に良い銀行と悪い銀行の整理がきれいに進むのかはまだわからない。
このニュースを最初に読んだ時「いよいよ政府が危ない地方銀行の精査を始めたのだな」とネガティブに読み取った。ところが「金融庁が具体的な影響を調査している」のだから「やはり政策変更があるのでは」と読む人もいるようだ。この共同の記事の評価は分かれており、記事本体よりもヤフーコメント欄が興味深い。
つまり業績の良い銀行に着目し「日銀の低金利政策の縛りがなくなれば業績が改善する」と期待する人と業績が悪い側に着目し「これは大変なことになるのではないか」と見ている人がいることになる。
良い銀行の側から見れば「これまでの悪平等から解放されて思う存分業績が伸ばせる」ことになりこれはいいニュースだ。できればこのポジティブな「運気」にあやかり上昇気流に乗りたいという人は多いだろう。だが、やはりその「運気」に乗れない人たちは出てくる。
前出の「銀行株8割高騰」の記事には「REITと輸出関連株には売りが出ている」としている。市場金利が上昇すれば土地の取得は難しくなる。不動産業界にはあまり良くない兆しと言えるだろう。さらに円安が是正されれば輸出関連企業の業績もこれまで通りとはいかなくなる。つまり「一部の銀行」の業績は好調になるだろうがこの動きについてゆけないセクターも出てくるのだろうということがわかる。
さらに輸出企業に依存しているような地域の経済状況も悪化することが予想される。つまり、今後、地域にも「勝ち組」と「負け組」が分かれつつある兆しが見える。東京のようにサービス業が充実し都市銀行の本店が揃っているようなところは問題は出ないかもしれない。だが製造業と不動産でなんとかもっているという地域も多いはずだ。
いよいよ状況が動き出したともいえるのだがこれまで動きがなかった分だけ思惑含みで不確かな情報が飛び交うような展開になりそうだ。今回一連の情報を眺めて見て「確定的に見えてもしばらく様子を見て状況判断を見直したほうが良さそうだな」と思うことがいくつかあった。
もうしばらくはこうした状態が続くのではないかと思う。