年初から小池百合子東京都知事が仕掛けてきた。最初は子育てに5,000円の補助金を出すとしていたのだが第二子の保育料も無償化すると言っているそうだ。5,000円給付には1261億円程度の予算が必要だ。また、第二子給付には110億円の予算が必要になるそうだが読売新聞は関連予算も含めて200億円程度になるだろうと書いている。小池対岸田のチルドレンファースト対決の初戦は小池都知事圧勝で終わりそうだ。岸田総理はまだスタートラインにも立っておらず「不戦敗」と言って良いかもしれない。
まず記事を二つ見ておこう。
このような政策が出ると「政治的な支持を狙ったあまり意味のない政策なのではないか」と考える人が出てくる。実際にQuoraでは40も「Better than Nothingだ」などという回答がついている。焼け石に水であるという意見が大半だ。
ところが世論の反応はこれとはやや異なっている。BuzzFeedがSNSの議論を拾っている。
子育て給付の所得制限は「罰ゲーム」小池知事の発言が「よく言ってくれた」と話題に。国会でも児童手当の“子育て罰“で議論が
専門家も一般庶民も小池百合子東京都知事の対策にはそれほど実効性があるとは思っていないようである。たかだか5,000円程度の給付で子供をもう一人産もうなどという人はいないと指摘する人もいる。
だがそれでもSNSは歓迎ムード一色である。なぜなのか。BuzzFeedは「子育ては罰ゲームだ」という小池百合子東京都知事の指摘が「言いたいことを完璧に代弁してくれている」とする声が大きいとしている。
人生には自己実現が必要だという刷り込みがある。ところが当たり前に子供を育てていてもこの自己実現欲求が満たされることはない。そればかりか「なんとなく損を押し付けられているようだ」と感じて苛立ちを募らせている人が多い。これを「罰ゲーム」と言っているのだろう。
一般の国民は「普通の暮らしをもっと褒めてほしい」と渇望していることになる。
「私の人生なんか損させられているのでは?」と感じている人は女性だけではないようだ。中日スポーツも百合子が本気出してくれたと歓迎している。「百合子呼び」しているところから歓迎しているのが女性だけではないことがわかる。たかだか5,000円でも「子育ての優先順位が上がった」と考える人が多いようだ。つまり額はいくらでも構わないから「他の人より優遇されていること」に気持ちよさを感じる人が多い。
おそらく大衆が熱望しているのは実際には支援ではなく「認知」なのだということがわかる。ここから冷静に考えると岸田総理の打ち出す「異次元の少子化対策」が反感を買う理由もよくわかる。小池百合子東京都知事は「なんか私たちは損させられている」という人たちに向けたメッセージを発信している。岸田総理の政策はそもそも「少子化対策」だ。将来税収が落ち込むと困るから対策をしようとしている。これまでの日本の政府は「子供への冷たさが異次元」だったわけだが、渋々「金は出してやる」と言い出した。だがそのためにはお金が足りないから税金か保険でもっと負担しろと社会に要求しているのである。
冷静に考えると小池氏も岸田氏も人気目当ての「自分ファースト」であることには違いがない。だがそこに子育て世代の都民を巻き込んだだけで評価が全く違ってしまうことになる。
今回の小池都知事圧勝の裏にはもう一つの不都合な真実がある。実は東京都の税収が好調だったそうだ。コロナ禍からの回復基調にあり東京などの都市部が一人勝ちしたことがわかる。政府が経済政策をやればやるほど格差が広がってゆくというのは先進国特有の現象である。格差が拡大すれば「勝ち組」の東京都の住民は気持ちがいい。だが取り残された地方はさらに苛立ちを募らせるだろう。再分配を要求することになる。
トリクルダウンなど起こらない。好調な都市と不調な地方という格差が広がるだけなのである。
ではこの好調はいつまで続くのだろうかということが気になる。実は日銀の前の前日銀調査統計局長である亀田制作氏は「この好調は長くは続かないだろう」と見ているそうだ。景気動向を各種調査で支えてきただけにこの観測には説得力がある。賃金上昇が続かなければ大盤振る舞いの原資になっている東京都の税収も今後は伸び悩むことになる。東京の政策がどれくらい持続可能性のあるものなのかはわからないが小池百合子東京都知事の性格上「来年のことは来年考える」のであろう。後のことを考えていては派手なパフォーマンスはできない。
問題は小池百合子都知事のパフォーマンスをこれ見よがしに見せつけられた地方の県知事たちだろう。「ウチはなぜ東京都のようなことをやってくれないのだ」と有権者たちが騒ぐがそのうちに経済が失速してしまいそれどころではなくなることが予想される。その後に岸田総理が敷いたレールである「増税」がやってくる。結局、スタンドプレーの小池氏だけがいい思いをし、岸田総理は「増税と不況を招いた総理」として批判されることになるのかもしれない。