先日のアメリカの12月のCPI発表を受けて円高が進んでいる。FRBの政策変更意向だけが原因とは考えられないため「日銀が金融政策を変更するのではないか」という観測が広がっているようだ。だが確定情報ではなく「来週の会合を見極めたい」とする人が多い。次のイベントは1月17〜18日になる。
まず「現象」から確認する。共同通信の短信がわかりやすい。やや円高基調で国債の値崩れも始まっている。。共同通信のヘッドラインはやや誤解されそうだが、正確に書くと「長期金利の指標である新発10年債(369回債、表面利率0.5%)の利回り」が上がっており長期金利に影響を与えそうだということになる。つまり黒田発言をきっかけに国債の値崩れが起きているという方がわかりやすい。この値崩れを抑えるために日銀は国債の買い入れを行っているが一時支えきれなくなったということになる。
それではなぜ修正予測が出ているのか。ロイターに説明記事があった。これが予測の理由である。「読み」となっている。つまり確定ではない。
黒田総裁の任期中の政策会合は残り2回しかない。次の人事が明らかになる前に「自分の任期にやったことは自分で片付けてしまおう」ということになるのではないかと予測する人が多いということになる。
だが、これはどちらかと言えば組織の事情である。
このロイターの記事には「何らかの理由により、損得を度外視してでもどうしても国債をきょう売らなくてはいけない市場参加者がいたのではないか」という表現もある。すでに含み損を抱えている機関投資家が損切りのために国債を売っていることになる。黒田総裁が「修正を匂わせれば匂わせるほど」損が膨らむことを恐れる投資家が出てくる。今国債を手放さなければいずれ日銀が引き取ってくれなくなるかもしれないと恐れる人も当然出てくるだろう。
ここまでを読むと「そうか大急ぎでポジションを修正しよう」などと考える人が出てくるのではないかと思う。だがそれは時期尚早だ。
今度は市場の観測を見てみよう。ロイターが二つ記事を出している。
春先までは円高が進むがその後は巻き戻すだろうと予想する人がいる。「日銀の政策が修正されるのではないか」という予想が重要なのであって修正されてしまえばまた風向きが変わるだろうということだ。アメリカの景気動向も実はよくわからない。短期的にはタカ派的政策は出口に向かっているが全ての指標が景気の沈静化を示しているわけではない。
さらに次のような記事もある。「次の日銀政策会合を見極めたい」ということになっている。つまりこちらもどう動くかはまだよくわからないということである。こちらの記事によると次のイベントは17日と18日の日銀政策会合とアメリカの卸売物価指数(PPI)なのだそうだ。アメリカと日本の動きを両睨みした上で素早く状況判断することが求められている。機関投資家にとっても個人投資家にとっても気の抜けない一週間となりそうだ。
状況的にYCCの維持は難しい。後任の選択肢を増やすためにも黒田総裁の任期に「落とし前」をつけておきたい。これが修正観測の根拠だった。ところが今政策を撤廃してしまうと国債を持っている人たちは値下がり確実な国債を大量に抱えることになるから大胆な政策変更はできないのではないかという予測もある。150円台と言った極端な予想をする人はいなくなったが130円台に戻す可能性もあり逆にさらに円高が進む可能性もある。
投資家は次のイベントを待つしかなさそうだ。では日本の経済と政策にはどのような影響を与えそうなのかについて短く考えてみよう。
今回の記事では触れられていないがYCCの変更(あるいは近々変更があるのではないかという予測)は日本の金融機関に大きな影響を与えるだろう。護送船団方式に守られてきた地方の金融機関はもはや国債だのみの運用はできない。とはいえ海外の経済状態もあまり良くない。このため運用経験のない地方銀行が機関投資家の言葉を鵜呑みにして外債などに手を出してしまうとさらにひどい損害を被りかねない。
日銀の前の統計局長は継続的な賃金上昇は難しいのではないかと言っている。国内ではコロナ禍からの回復傾向が一段落し海外でも不況が予想されている。このため大企業を中心に生まれている賃上げブームは長続きしないのではないかということだ。
前出のロイターの記事を読むと、黒田総裁がYCCの修正を匂わせたことで「今のうちに損切りをした方がいいのではないか」と考える人が駆け込み的に国債を売っているようだ。つまり日銀は大きな含み損を抱えかねない。
だが実際にもっと深刻な問題を抱えているのはこの動きから取り残されつつある地方の金融機関なのかもしれない。東洋経済は有料会員限定で「「地方銀行」を直撃する海外中銀の金融引き締め」という記事を出している。
岸田政権と自民党・公明党政権が維持できるかは地方の票をどうつなぎとめておくかにかかっている。仮に地方選挙前に地方経済に危機的状況が生まれれば、おそらく政権には大きな打撃となるだろう。だが、今の所危機は顕在化していない。現在地はそんなところのようである。