アメリカの国内線が全て運航停止になり混乱が広がった。人々が最初に想起したのは外部から何者かに攻撃されることだったようだが「それはないだろう」というのが基本的な報道のトーンになっている。ではなぜ止まったのかということになるのだが、「NOTAMは随分古いシステムだった」と指摘する人がいる。
時事通信は「国内線全便が一時運航停止 米、管制システムに不具合」と書いている。記事によるとホワイトハウスは「今の所サイバー攻撃だという証拠はない」と説明しているようだ。この国内線管制システムはNOTAMというそうだ。おそらくNotice(告知する)からシステム名を取ったのではないかと思う。
ロイターは「今の所原因はわからない」と書いている。つまりサイバーテロでないという証拠もないと読み取れる。ロイターはこの件で「米航空各社の株価は11日の寄り付き前取引で下落したが、運航再開を受け大半が寄り後にプラス圏で推移」と書いている。テロで航空ネットワークが混乱ということになれば株価に影響が出るわけだが復旧が始まったことで現在は回復しているようだ。投資家はほっと一安心だろう。
これについてQuoraのスペースに書いたところ、コメント欄でこのNOTAMというシステムはかなり古いのだと指摘する人がいた。つまり「テロではないだろう」というのだ。すると今度は「システムの老朽化が問題なのだ」ということになる。
アメリカ人もNOTAMという言葉を知らなかった人が大勢いるようで「NOTAMとは何か」と解説する記事が多数出ていた。この中でCNNとUSA Todayを読んでみた。
CNN Businessは全国を出張で飛び回るようなビジネスマンが読んでいるのだろう。NOTAMというのはパイロットに危険情報を伝えるためのかなり古いシステムで元々の名前はNotice to Airmanという名前だったと説明している。ポリコレ的配慮によりAirmanという名前はふさわしくないということになり修正されたなどと説明されている。パイロットが男性であるべきという決めつけがあるからだろう。ただこの記事を読んでも不具合の理由はよくわからない。あまり役に立ちそうにない。
全国を飛び回るビジネスマン御用達のUSA Todayはもう少しまともな記事を書いている。もともとNOTAMは電話システムだったそうだ。つまりパイロットは電話をかけて航空危険情報を確認していたのである。
- NOTAMはもともと電話システムだったが数年間をかけて改築された。
- ところが何らかの理由でNOTAMのコンポーネントがエラーを起こした。これが火曜日の夜午後8時28分だった。
- その後、安全確認は電話ベースのシステムに移行し情報を提供していた。
- だが日中になり飛行機の便数が増えたことで捌ききれなくなり安全情報の提供ができなくなった。
この記事を読んでもNOTAMのコンポーネントがエラーを起こしたのかはわからない。USA Todayは事情に詳しいティム・キャンベル氏の談話を伝えている。キャンベル氏は「NOTAMだけではなくFAAの技術には不安がある」と指摘している。FAAの使っているメインフレームシステムは堅牢だが時代遅れであるというのだ。
「メインフレーム」というとIBMが作っていたCOBOLベースの古いコンピュータなどを想起する。日本の金融システムの不具合でもオンラインベースの新しいシステムとの接続部が問題になったりするが、いったん稼働を始めたシステムを全て撤去して作り替えるのはなかなか難しいようだ。
仮にこれらの情報が確かだとすると、FAAは古いシステムを改築したがもともと古いメインフレーム型システムの知識しか持ち合わせておらず新しいオンラインベースのシステムの不具合を見つけられなかったのかもしれないと思える。あるいは告知のシステムだけをオンラインベースにしたもののバックエンドには古いメインフレームの仕組みが残っていたのかもしれない。Quoraの指摘は「老朽化」だったわけだが、こちらの情報を元にすると「職員たちが新しい技術についてゆけなかった」可能性も加わる。
ただし、これだけが原因なのかもよくはわからない。
現在アメリカは気象災害と言っても良いような状況が続いている。例えばクリスマス時期の寒波の影響で格安航空会社の草分けサウスウエスト航空は80%強のフライトが欠航になっていた。寒波の影響で飛行機が飛ばせなくなると機体繰りが難しくなり大きな影響が出てしまうのだ。現在もカリフォルニア州で災害級の豪雨が起きており17名がなくなっている。
気象災害級の状態が続いており空の安全確保が難しくなっている。当然扱うべき情報量は増えるだろう。FAAはNOTAMシステムは冗長性を確保していたと説明しているのだが、イレギュラーな状態が続いたことでシステムに想定以上の負荷がかかっていた可能性も否定できない。
とりあえず外部からの攻撃ではなさそうだということで一安心ということになるが、今後の原因究明が待たれる。異常気象、システムの老朽化、職員の知識が最新技術についてゆけなかったなどさまざまな原因が複合的に重なってアメリカ国内線航空システムがシャットダウンした可能性がある。アメリカというとIT先進国というイメージがあるのだが、1960年代に作られたという古いインフラの問題も抱えているのである。