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鳥インフルエンザによる鶏卵価格高騰は自然災害か人災か

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鳥インフルエンザが大流行している。一シーズンで1,000万羽以上が処分されるのは初めてのことなのだそうだ。鶏肉への影響は限定的だが鶏卵の価格高騰が心配されている。政府・マスコミは「そのうち鶏卵価格高騰は収まるだろう」といっている。だが調べてみると今後も鳥インフルエンザ被害は度々起こりそうに思える。やはり構造的な問題があるようだ。

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鳥インフルエンザは主に鳥同士で感染するインフルエンザウイルスだ。厚生労働省によると一部の国ではヒトへの感染例があるそうだが日本ではそのような事例は報告されていないという。

1月10日の時点では23県で57事例が発生している。発生件数が最も多いのは鹿児島県だが殺処分数が一番多いのは茨城県だという。発生数は2件にすぎないが208万羽が殺処分されている。つまり1飼育場あたりの飼育数がとても多いことがわかる。養鶏場というよりは採卵工場という感じなのかもしれない。鳥インフルエンザの発生は9割が採卵場で起きているという。

鳥インフルエンザの流行によって鶏卵価格が高騰している。相場は時々刻々と変化しているが元々1キロあたり150円だったものが300円近辺になっているようだ。つまり倍近くになっていることになる。テレビでは「物価の優等生が危機」などというトーンで取り扱われている。

もちろん国も何もしていないわけではない。農水省に対策本部を作って対応を呼びかけている。農水大臣の発言にも危機感が滲む。「いわば非常事態宣言のようなものを発したい」と言っている。

現場はもっと大変なようだ。とにかく処分数が多い。村上市では130万羽が殺処分となり、新潟県は自然災害と位置づけ自衛隊に対して応援要請を行った。24時間体制で殺処分を行うというが作業が完了するまでには数週間かかるそうだ。一度鳥インフルエンザの被害が広がると「廃業につながりかねないほど」の影響がでる。新潟県では自衛隊まで出動するほど騒ぎが大きくなってしまっている。

卵の値段は高くなっているが鶏肉への影響はそれほど大きくない。確かに年末のクリスマスシーズンには鶏肉が手に入れにくくなるという状況はあった。より商品価値が高いクリスマス向けの加工品に仕向けたからだろう。この時には「店頭から鶏肉が消えた」という報道もあった。例えばTBSの報道は11月26日のものだった。だがその後「鶏肉が全くスーパーから消えた」という話は聞かない。年末の日本農業新聞は鶏卵・鶏肉の価格が上昇していると書いている。こちらは鶏肉にも先行き不安が出てきたと書いている。

「鳥インフルエンザは季節性なのだから季節が過ぎれはきっと落ち着くだろう」という気がするが、疑問も残る。同じ鶏なのになぜ肉ではなく卵にばかり影響が出るのだろうか。調べたところイセ食品という鶏卵会社が倒産したという記事を見つけた。

やはり政治が絡んでいるようだ。

この記事には業界第二位のアキタフーズの名前も出てくる。記事を書いた窪田順生氏は「背景にあるのは卵の過剰供給問題でありその背景には補助金政策がある」と指摘する。

そもそも日本の鶏卵産業は過剰供給だった。だが鶏卵には国から補助金がつぎ込まれており過剰生産が改善されない。一方で少子高齢化が進んでいるために需要は減っている。生き残りのためには規模を大きくするしかない。鶏卵はビジネスモデルとしては崩壊しかけておりそれを補助金で支えていることになる。窪田氏はこれを政治の問題と捉えており、アニマルウェルフェアを政治の力で握りつぶしているとの政府批判を展開している。

だが、アニマルウエルフェア問題の対応の遅れはおそらく鶏卵産業自身の首を絞めている。過密化した鶏卵場の悪環境が鶏卵場の経営を圧迫しているからである。

今回の件で大規模鶏卵場が淘汰されれば「過密飼育が軽減されれば鶏卵の価格が適正になるだけなのではないか」という気がする。問題は既に鶏卵産業が集約化しきっているところにありそうだ。つまり「一つが潰れたら災害級の供給不安が起こり地域から鶏卵が全部消えてしまう」可能性がある。大きくして生き残ろうとした結果全部絶滅しましたということになり恐竜絶滅の話に似ている。政府はわざわざ恐竜が絶滅するのを助けていることになる。

確かに野村農水大臣の「災害」発言は憂慮すべきなのだろう。だがおそらく農水省は問題の全体を捉えきれていないようだ。補助金をつぎ込んで災害が起こる環境を作り自衛隊を出動させて処分させるということになっている。全体を俯瞰すれば無駄が多いとわかりそうなものなのだが誰も全体を俯瞰しない。

マスコミの報道や政府の説明を聞く限り、今回の鶏卵の件も「病気なのだから仕方がない」と思える。病気は自然災害なのだから粛々と対処するしかないだろう。少々高くても頑張って養鶏農家を支えようという気持ちにもなる。

だが調べてみると背景にはやはり構造的な問題が隠れている。もちろん政府は何もしていないわけではないが努力の方向性はかなり大きくずれている。養鶏場の集約問題が解決されない限り今後も鳥インフルエンザの流行が繰り返されることになり、その度に自衛隊が出動するレベルの騒ぎになるのかもしれない。

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