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今度は甘利氏の「消費税増税も検討」発言が周囲をざわつかせる

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2022年末から岸田政権は増税問題で揺れている。今度は甘利氏が「消費税増税も」と発言し松野官房長官や鈴木財務大臣が火消しをするという事態になった。この狙いについて考えた。少なくとも心理的な防衛線をずらす効果がある。

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共同の記事のタイトルは「甘利氏、少子化対策で消費増税も 自民税調幹部」となっている。つまり党主導で消費税増税に向けて議論が進んでいると読める内容になっている。改めて確認するまでもないのだが甘利氏は岸田政権を支える麻生派の重鎮でもある。もともとは独自のグループを形成していたが今は麻生派と一体になっている。つまり岸田政権の増税議論には影響の大きい発言だ。だが、おそらく消費税を増税するつもりはないだろう。

少子化対策の財源は4月以降に提示されることになっている。地方選挙への影響を避ける意味合いが強いものと思われる。つまり地方選挙以降に防衛増税と同じような議論がまた出てくることになるだろう。

鈴木財務大臣松野官房長官がそれぞれ消費税増税を否定している。鈴木さんは「甘利さん個人の考えだろう」と言っている。松野さんもしばらくは考えないと言っている。だが、それぞれの発言をよく読むと「恒久財源の必要性」では意見が一致している。巧みに線をずらしているのである。

改めて考えるまでもなくこれらの発言の意図は明確だ。岸田総理は総裁候補時代に10年程度は消費税を上げないと言っており、この発言は修正されていない。つまり消費税増税はあり得ない。一方で「消費税も上げる」と言えば世論は反発する。すると「では代わりにどの税金を上げましょうか?」と言いやすくなるのだ。

心理学的には非常に賢いテクニックだ。それまで「増税するか・増税しないか」というところにあった心理的防衛線を「消費税増税か・それ以外の増税か」に変えることができる。誰の発案かはわからないのだが「地頭がいい人」が考えたのだろうなと思う。

ただこの地頭の良さがそのまま国民に受け入れられるかは未知数だろう。実質賃金は八年ぶりの下落率を見せている。つまり人々の暮らし向きは悪くなっており消費税の増税を議論するような心理状態にはない。おそらく頭はいいがあまり共感力がない人が考えた作戦なのかもしれない。

では国民はこれをどうみるのだろうか。合理的に反応すると期待しない方がいい。

なんとなく「政治の偉い人たちが増税をしないと日本は大変なことになる」と言っている。だから増税は仕方ないのかもしれない。でも自分の暮らしは良くならないから負担が増えるのは避けたい。しかしながら政権に反抗して「困った人」と思われるのも嫌だ。

「どうしていいかよくわからない」という正解のない状態で人々がどのような意思決定をするのかがよくわからなくなっている。このため増税解散をするべきかと聞くと意見は拮抗する。どうしていいかわからず不安になると「一つの意見を押さえつけよう」とする圧力が働くのである。

ではこうした状態で政治はどう動くのか。

岸田総理は宏池会系の総理大臣だ。おそらく財政再建派の政権と言ってよいだろう。この財政再建派の総理大臣だった大平正芳氏は1979年に「増税解散」を行い過半数を失った経験がある。この敗北が1980年に「ハプニング解散」と呼ばれる不測の事態を引き起こした。ハプニング解散は自民党の内部分裂を背景に引き起こされた。内閣不信任案を可決するつもりは誰にもなかったが造反者が出たことで結果的に可決されてしまい大平総理大臣は衆議院解散に追い込まれた。

この時の心労が祟り大平氏が議場に戻ってくることはなかった。

おそらく、岸田総理や宏池会系の人たちは大平氏の故事にちなみ「増税やむなし」とは考えているだろう。だが、同時に「増税提案が不測の事態を引き起こしかねない」ということもよく知っているはずだ。

現在日本の政治は有権者を巻き込みかなりアンビバレントな状態に陥っているのではないかと思う。

一見「とても頭がいい」今回の消費税提案なのだが、結果的には不測の事態を引き起こす可能性もあるのだろう。

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