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下院議長選挙にみるアメリカの「民主主義破壊願望」

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アメリカの下院議長選挙が終わった。午後10時に再開されたにも関わらず議長は選任されなかった。これにキレたマッカーシー氏が一人の議員に詰め寄る姿も見られた。CNNは「実はこれこそが強硬派の狙いだった」と指摘している。つまりある種の破壊願望だったのだ。

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時事通信は「米下院議長にマッカーシー氏 決着に異例の15回投票」で164年前の1859年以来の出来事だったと指摘している。この時の投票回数は44回だったそうである。今回の様子はテレビ中継されていた。疲れ果てたマッカーシー氏がゲイツ氏に詰め寄る姿も中継された。周りにはマッカーシー氏を押しとどめる議員もいる。静止されていなければ掴みかかっていたかもしれないというような状態だった。

議会が混乱し民主主義が機能していないと捉えた人もいただろうが、これぞ「ガチンコだ」と溜飲を下げた人もいたかもしれない。日本の国会中継は審議が止まると中継も止まるのだがアメリカでは議場の様子が延々と中継され国民の目に晒されることになる。マッカーシー氏のイラついた姿も中継された。つまりこれは議長就任が決まっているマッカーシー氏を吊し上げるショーだったことになる。

共和党とトランプ一派に批判的なCNNは「強硬派議員の主張、マッカーシー氏の譲歩 米下院議長選の行方」という記事を出している。つまり民主主義の停滞であり嘆かわしいという立場である。そしてその停滞をもたらしているのは共和党の一部の強硬な議員であるという主張だ。共和党幹部はこの状態をコントロールできていないのだから議会多数派にはふさわしくなく2024年にトランプ氏を再び大統領にしてはいけないとの主張になる。

記事を詳しく見てみよう。

議長に選任される前に書かれた記事なので「まだ議長は決まっていない」という前提になっている。CNNによれば「ウルトラMAGA」は強硬派フリーダムコーカスの中でも少数派で共和党議員全体から見れば10%以下の勢力だと指摘する。つまり一部の極端な人たちという見立てである。

  1. とにかくマッカーシー氏が嫌だという人
  2. 議会規則を変えたいなど具体的な要望を持っている人
  3. 債務上限の引き上げに反対し政府機関の閉鎖を主張する人
  4. 下院議場での争い自体が自分の求めていたものだと語る議員

この中でCNNが危険視しているのは「債務上限の引き上げよりも政府機関の閉鎖を主張している人」である。つまり将来の予算編成に悪い影響が出かねないからである。一部の強硬な議員が主張しているだけなのだがこれが共和党の統治に影響を与えるだろうと言っている。

しかしながら最も危険なのは恐らく「争い自体」が民主主義だと考える第4カテゴリーの人だろう。つまりカテゴリーの人たちは議会で話し合いができなくなること自体が望ましいと考えている。彼らからみれば議会の話し合いこそがある種の「談合」だからである。

トランプ氏は共和党の脆弱さを利用することで中枢に入り込んだ。だが彼の目的は割と明白だ。状況を利用して利益を得ることである。民主党支持者の目的もまた「共和党の政権奪取阻止」なのだからその目的も明白である。

取引には落とし所があるが破壊願望には落とし所がない。

アメリカの議員のうちどれくらいの人がこうした破壊願望を持っているのかはわからない。またちょっとした混乱を見たい人もいれば「何もかも滅茶苦茶になってしまえばいい」と考えている人もいるかもしれない。

少なくとも共和党議員のうちスコット・ベリー氏とダン・ビショップ氏はこうした願望を持っているようだ。さらに、議場の外には多くの破壊願望を持った人たちがいる。CNNは2020年1月6日の議会襲撃事件を目の当たりにしたマイケル・ファノーネ氏の論評を掲載している。「非主流派による議会運営、実現すれば恐ろしい結果に」というタイトルだ。ファノーネ氏は元警察官で「暴徒に殺されかけた」経験を持っている。

ファノーネ氏のいうところの陰謀論者たちの目的は議会を破壊することである。その望みがなかなわないためにさまざまな陰謀を持ち出しているだけであって実は陰謀そのものにはあまり意味がないのだろう。

今回の一件でこうした破壊願望を持った人たちが多数派である必要はないということがわかった。議会が健全な状態であればこうした人たちが暴れ出すことはない。これは健康な状態ではウイルスが活性化しないというのと同じような状態である。だが何らかの理由で免疫機能が低下すればウイルスは暴れ出し体の免疫機能を突破してしまう。恐らく今回起きたことは「ほんのプレビュー」のようなものなのだろう。

もちろんこれを共和党の機能不全と捉えることはできる。ただ、民主党は今回の件を傍観していただけであった。何らかの協力姿勢を見せていれば事態が変わった可能性はあるのだが「共和党の混乱がテレビ中継されれば結果的に民主党優位になる」と考えた人も多かったのではないかと思う。

今後、過激派の人たちに主導される形でバイデン大統領への追及が強まる公算は高い。共和党の内部結束のためには外に敵を作り出すのが一番だからである。当然バイデン大統領もアメリカの外に敵を作り出すことになるだろう。日本は外交防衛で確実にこの脆弱性に巻き込まれることになるだろう。

「下院議長が決まってよかったね」ということではあるのだがアメリカの議会が健康を取り戻したわけではないということもわかる。

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