「尹錫悦大統領がアメリカと『事実上の核共有』について協議」との報道

尹錫悦大統領がアメリカと事実上の核共有について具体的に議論していると読める報道が時事通信から出た。「日本でも核共有を」という声が出てくるのだろうかと思い詳しく読んでみることにした。時事通信のタイトルは「米と「事実上の核共有」推進 徴用工問題解決に自信 韓国大統領」となっている。






この時事通信の記事はヤフーニュース版で読んだ。そもそもランキングにも登場せずコメントも「徴用工問題」に焦点を当てたものが多かった。日本では朝鮮半島の核事情があまり深刻に受け止められていないことがわかる。日本近隣の「今そこにある危機」とは思われていないのだろう。

この件について韓国語ではハンギョレと東亜日報が解説している記事が見つかった。韓国では「共同企画・演習」という報道の仕方になっている。これを踏まえて実際の議論について正確にタイトルをつけたのがロイター通信である。「米韓、核使う共同計画や演習を議論 尹大統領明かす」となっている。Bloombergも「米核兵器運用への関与強化で協議-韓国大統領明かす」と見出しを取っている。

このインタビューのインパクトを最もうまく伝えているのはBloombergだろう。これが事実だとすれば韓国の方針の一大転換なのだが「アメリカの確認は取れなかった」と短く伝えている。

最近では機械翻訳で外国語の記事が読める。

革新系のハンギョレはNATOには核企画グループ(NPG)というスキームがあり計画レベルでは共同参画ができると書いている。ただしコアになる部分はアメリカが単独で扱う。さらに核使用はアメリカの単独権限(Sole Authority)だと説明されていた。タイトルは「미국과 ‘한국식 핵공유’? 나토 현실 보면 실효성 물음표」である。韓国語は日本語と同じ順序でそのまま読めばいいので「アメリカと韓国式核共有?NATO現実見れば実行力疑問符」となる。つまり、作戦にも参加させてもらえないのに何を言っているのかわからないというような言い方である。それにしても一般向けのそれほど長くない記事で随分と具体的なことを書いているものだなと思った。韓国では核衝突が現実の問題として認識されているのだ。

東亜日報も「尹 언급한 한미 핵전력 ‘공동 기획(共同企画)-연습(演習)’은… “한국형 핵공유 시작(韓国式核共有開始)”」というタイトルになっている。こちらは核共有という言葉は使わず「共同企画と演習」が「事実上の(韓国式の)核共有である」というタイトルになっている。

そもそもあまり注目されなかった時事通信の記事では全く状況が掴めないのだが、韓国語の二つの新聞記事を併せて考えると次のようになる。

ロシアの核兵器使用が現実問題として語られ北朝鮮も核兵器開発を着々と成功させつつある。不安に感じた韓国は核兵器の使用・計画には参画させてもらえていない。そこで尹錫悦大統領は共同企画と演習参加を通じて核兵器の使用に計画段階からコミットしたいと考えている。保守系はこれを「事実上の核共有だ」と期待するが、革新系は尹錫悦大統領の言及には実効性がないと見ている。

おそらくここまでを読むと「韓国も核兵器に関しては排除されているんだ」と安心する人がほとんどなのだと思う。隣も準備ができていないのだからウチもまだまだ大丈夫だというわけだ。日本では朝鮮半島の核衝突は現実的な問題とは捉えられていないうえに「比較」で語られてしまう側面がある。

一方で尹錫悦大統領が「韓国もNATOを念頭に核兵器の共同計画に参加したい」と要求してきたのも確かなことである。これは確実に北朝鮮を刺激するだろう。また本来、米国議会との関係だけを見ていればよかったアメリカ大統領の「単独権限」に少なからぬプレッシャーを与えることになりかねない。

背景にあるのはアメリカバイデン政権の稚拙な外交戦略だ。同盟国を引き連れて軍事演習を繰り返せば敵対勢力に対する強い抑止効果があるとバイデン大統領は期待しているようだ。ところが仲間を引き連れて影響力を誇示するようなやり方はそもそもアメリカの議会内部でも反発されている。ロシアも中国もかなり敏感になっており状況は複雑化する一方だ。

ところがこれだけでは終わりそうにない。アメリカとしては韓国を共同演習に引き込めれば満足だったのだろうが、尹錫悦政権は「NATOと同じように計画段階から韓国にコミットさせろ」と言い出した。確実に北朝鮮を刺激しアメリカの巻き込まれリスクを増大させる。演習には参加させたいが計画からは排除しますとはアメリカには言えないだろう。

この韓国の切実さをみると「とにかくアメリカの外交軍事戦略についてゆけば安心」で「敵基地攻撃能力さえ持っていれば敵も容易に攻撃してこないはずだ」という日本の議論がかなり薄っぺらいものに思えてしまう。いわば「米国同盟・敵基地攻撃能力お守り論」だ。岸田総理に至っては広島サミットでの非核の呼びかけを自身のレガシーにしたいと考えているようである。年頭所感では「岸田首相 核威嚇「断固拒否する強い意思示す」G7広島サミットへ決意表明」と表明したそうだがG7で断固拒否しても状況が変わるわけではない。

敵基地攻撃についての賛否は別にして状況がエスカレートしつつあるということは知っておいたほうがよさそうである。報道を読む限り尹錫悦大統領はかなり前のめりであるように感じられる。時事通信はこの前のめりなかんじを「推進」という言葉に込めたのかもしれない。

Google Recommendation Advertisement



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です