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トルコで年金受給開始年齢制限が撤廃になり新たに200万人以上が年金を受け取れるようになる。

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トルコの慈悲深いエルドアン大統領は国民生活の窮乏に心を痛めているようである。このたび年金受給開始年齢を撤廃した。一定の加入期間を満たした有資格者であれば誰でも年金が受け取れるようになり、結果として200万人以上が恩恵を受けられるようになりそうだ。

いかにも「釣りの匂いのするリード」をつけてみた。おそらくまともな感覚の日本人なら「何かウラがあるだろう」と感じるはずだ。実際にウラはある。選挙目当てのバラマキなのだ。それも日本人が想像するようななまやさしいバラマキではない。「とりあえず半年持てばいいや」とされているのだ。

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まずニュースそのものは釣りではなく本物である。トルコ大統領、年金受給開始の最低年齢を撤廃 選挙控えアピールとロイターが伝えている。

ポイントは次の二点である。

  • 「エルドアン大統領によれば」225万人以上が恩恵を受ける
  • ただし財源については明示されていない

トルコは2023年に大統領選挙がある。だが国家経済は破綻寸前でリラの急落と急激なインフレに苦しむ。必要な構造改革をせず金融市場とのコミュニケーションを怠ってきたからである。

このため2022年初頭にエルドアン大統領と与党の支持率は落ち込んでいた。エルドアン大統領は支持率テコ入れのためにありとあらゆる「政策」を導入した。

日経新聞がトルコ大統領、光熱費補助を拡大 再選にらみ歳出7割増で伝える通り支持率は急回復している。

ただしこの政策は長くは続けられないだろうとみられているようである。日経新聞は支持率が高いうちに選挙を前倒しする可能性を指摘している。

歳出増の予算案で支持率の回復が続くかは不透明だ。トルコでは23年6月までに大統領選・議会選の同日選挙が予定されている。バシュケント大のウール・エメキ教授(公共経済)は「高インフレが続けば補助金や賃上げの効果は息切れし、23年6月まではもたないだろう」と指摘し、前倒し選挙の可能性があるとみる。

エルドアン大統領はこれまでも敵対勢力を潰してきた。ギュレン派と呼ばれる勢力を潰しメディアも粛清した。おそらく識者たちは「こんな政策は長くは続けられない」ということがわかっているはずだが、それを国民に伝える手段がない。

英語版のYahoo FinanceがBloombergの記事を転載している。

  • 精査前の数字だが初年度にかかる費用は130億ドル($13 billion)になりそうだ。
  • 1999年9月までに制度に登録している必要があり所定の労働時間を働いている必要がある。つまり受給期間の制限はある。
  • 新しく年金が受け取れるようになるのは230万人程度だが将来的には500万人にまで増加することが見込まれる。つまりさらに財源が必要になりそうだ。
  • 早期退職者に対する退職金が必要になるため、企業補助が別途用意されている。
  • おそらくこの決定は国のリスクプレミアムとインフレにマイナスの影響を与えるだろうと識者は見ている。

そもそも既得権者になっている中高年の保護政策なのだということがわかる。受給要件が1999年以前に制度に加入した人ということになっているからである。現役世代のことは考慮されていない。

この制度を利用して「早めに退職しよう」とする人が出てくることも十分に想定される。その後トルコ経済と年金財政が破綻すれば彼らの人生設計はメチャクチャになってしまうだろう。つまり早期退職という夢はそう遠くない将来に悪夢に変わる可能性もある。だが、おそらくそれを警告するメディアはないはずだ。

いずれにせよ、トルコはまた一歩財政破綻に向けて前進したということになりそうである。

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