海上自衛隊で初の特定機密の流出が確認された。共同通信が頑張って追っているようだが他のメディアの反応は薄い。自衛隊側も年末ならワイドショーなどがなく扱いが軽く済むことを狙ったのかもしれない。情報を出した側は立件される可能性があるそうだが、受け取った側は退職金の自主返納を求められるくらいですみそうなのだという。
なお共同通信は元海将と書いているがメディアの中には在職中の地位をぼかしているところが多い。
まず、今回の共同通信の追加情報で分かったことはこれが「数年前の」出来事だったということだ。捜査に時間がかかったことになっているがそもそも自衛隊内部の捜査部門(警務隊)の調査なので「いつ発表するか」のタイミングを探していた可能性はある。年末でワイドショーの取り扱いはなく、また予算は大幅増額が既定路線になった。政治的影響は低くすみそうだ。
さらに別の自衛官が同席していたこともわかっている。同席した自衛官と通報した自衛官が同じ人物なのかはわからない。つまり複数名が知っていた可能性があり「あまり悪気なく」聞いているのかもしれない。TBSは元海将とは書かず「OB」とした上で退職金の自主返納などを求めたと書いている。
朝日新聞は当初の報道で「漏らすように働きかけた民間人も罪に問われることがある」としていた。だが今回は「退職金自主返納を求める」となっている。どのような判断でそうなったのかはよくわからない。すでに民間人であり罪には問えないということなのかもしれないし内部調査ではそこまでしか言えないということなのかもしれない。仮にこのままで終わればこの情報がどう使われたかということが報道されることはないだろう。
産経新聞も伝えていたがTBSも今の所は外国に漏れた形跡はないようだと書いている。つまり結果的にロシアや中国に漏れなかったのだから別のいいではないかということだ。マスコミもあまり騒がなかったがSNSでも話題にならなかった。
この件について「別記事で講演会に必要だから聞き出したと書いているところもある」とするコメントを見つけた。どこかのネットニュースで囁かれているのだろうと思って調べてみたところ読売新聞が書いていた。特に秘密の情報でもなんでもなく一般紙ですでに伝えられている一般情報だった。つまり特定秘密に当たる情報をOBが現役自衛官から聞き出して後援会でベラベラと喋るつもりだったということだ。この自覚の無さが最も恐ろしいところだが結果的には「スパイではないようなのでなんとか退職金を返してくれないか」というところで終わっていることになる。
マスコミや講演会で活躍する元海将が何人いるかはわからないが確かにメディアが「元海将」と書きたがらない理由はわかる。マスコミにとってみればコメントを求めるのに便利な存在なのだろう。この調子ではテレビでこの事件が報道される可能性は極めて低そうである。
自衛隊が「情報が漏れたようだ」と気がついてからいつどのタイミングで政治に伝わったのかということはよくわからない。特定機密法が制定された時の政権は「アメリカが情報をくれないのは日本の特定秘密の扱いが杜撰だからだ」と説明していたと思うのだが、今回の内部捜査を見てもその後の扱いを見ても杜撰さは変わっていないようだ。政治がこの特定秘密保護法を使うのは「特定秘密に当たるので詳細はお答えできない」という国会答弁くらいのものである。
最も懸念されるのは自衛官やOBの情報に対する絶望的な意識の低さだ。だが、今回の報道経緯を見ているとそれが解消されることはなさそうだ。この程度の機密情報なら講演会でみんなに話しても大丈夫だろうというような意識のOBが複数いると考えると外国のスパイが情報を聞き出すのも極めて簡単なのだろうと思う。
なんとなくスッキリしない解決だが、おそらく自衛隊は愛国者の集まりなので敵対する人たちに情報を売ったりはしないだろういう性善説に基づいて運用されているのだろうと思うしかない。
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